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≪本編≫

【本編43】

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【十夜side】

「…放せ」

思ったより声が掠れた。

「嫌です」

「何で、こんな…」

「十夜さんが二度と会わないみたいな事いうから!」

「会わないよ!会えない!」

嘘だ…。

「何で?」

「嫌だろ?俺は穢れてるんだ。汚いんだぞ?」

嫌だ!

離れたくない!

「そんなの関係無いから」

でもっ!

「関係あるんだよ!」

両親は兄妹…。

アイツは元の戸籍上は伯父だけど…。

「実の父親に強姦されたんだぞ!」

言いたくなかった事実。

「解れよ!存在自体が汚いんだよ!歪んだ生まれなんだよ!」

俺の関係者だけが知っている真実。

「俺は歪んでるんだ…」

お母さん、どうして俺を産んだの?

こんなに辛いなら、産まれてきたくなかったよ?

「だから、全部知ってるんですよ。それでも、関係無いって言ってるんです!」

え?

…知ってる?

知ってるってどうして?

誰が教えた?

ちぃ?

竜也?

誰?

「黙って聞いてれば、勝手に勘違いして自己完結して話進めて…」

秀臣がため息と共に俺を見下ろす。

「それとも、事情を知った俺の事。十夜さんは顔も見たくないぐらい嫌いですか?」

俺が秀臣を嫌いだって?

「そんな訳ないっ!」

思わず叫んだ。

好きで好きで、でも、好きになっちゃいけなくて…だけどやっぱり好きで…。

すると、秀臣はにっこり笑った。

「だったら、黙って俺に甘えてればいいんですよ!!」

そして、きつく抱き締め直される。

は?

お前、今、何て言った?

「んんっ!?…ん…ぁ…」

また強引に唇が塞がれる。

しっかりと背中に回された腕。

秀臣に抱き締められている幸福感と歪んだ存在の罪悪感。

塞がれた唇は優しくて…。

堪えていた涙が溢れる。

何よりも、優しいこいつを巻き込んだのが悲しかった。

甘えてればいいってなんだよ…。

離せって。

抱き締めんな。

キスすんな。

駄目だって…。

…秀臣、お前は知らないだろうけど、8年前のあの時、俺はお前に救われたんだ。

また、お前に甘えてもいいのか?

救われてもいいのか?

あの時からずっと、お前だけが俺の…。

*****

〖8年前〗

「すまなかったなぁ…」

じぃちゃんがないている。

どうして?

おれどうしたんだ?

ここは?

しろいへや?

どこ?

「     ?」(じぃちゃん?)

あれ?

おれ…こえ?

「夜弌じいちゃん、今、十夜動いた」

ちぃ?

「十夜?」

じぃちゃん。

ぶじだったんだ。

よかった。

でも、なんでないてる?

「   ?  ?」(竜也は?あれ?)

こえでない?

なにがおきた?

「「十夜?」」

ふたりがおれをよぶ。

きこえる。

「  ?」(ちぃ?)

しゃべるとやっぱりこえがでない。

「   ??」(なんで??)

なんでこえでない?

いやだ!

こわいっ!

「「十夜!」」

ああああああああ!!!!

全てを思い出し、錯乱した俺は寝かされていたベッドの上で暴れた。

点滴の針が無理矢理引っ張ったせいで抜け、血や液が飛び散った。

頭を掻きむしり、声に成らない叫びをあげる。

思い出したせいで吐き気を催したが、胃に何も入っていないのか、胃液しか出てこない。

吐きたくても吐けない事が辛くて涙が出る。

カラダガイタイ。

縛られて蹴られたからだ。

カオガイタイ。

殴られた事を思い出す。

アゴガイタイ。

カハンシンガイタイ。

その痛みが、何をされたのかを嫌でも突きつける。

じいちゃんとちぃが必死に俺を呼んでいるけど、子供が癇癪を起こしたみたいに暴れるしか出来ない。

誰かに押さえつけられる。

「       !」(だれかたすけてっ!)

それさえも恐怖でしかない。

「    ‥    !」(いやだっ‥こわいっ!)

涙で視界が歪む。

「    !」(さわるなっ!)

何度も声に成らない叫びをあげるが、誰も解ってくれない。

「    !」(はなせっ!)

気持ち悪いからやだってば!!

「怖いって、触らないでって言ってるよ?」

一瞬の静寂。

なぜか響いた子供の声に、その場にいた全員が止まった。

病室の開いたドアから顔を出した男の子が、ビクビクしながら近づいてくる。

「増田先生。離してあげて?怖いって泣いてるよ」

俺を押さえていた医者が、動かなくなった俺を警戒しながら離れ始める。

俺は呆然としながら男の子を見つめた。

「怖い夢見たの?」

男の子はそっと俺の手を握る。

あたたかい。

涙が溢れ出した。

誰も解ってくれなかった俺の言葉を、伝えてくれた男の子に思わず抱き付いた。

何かにすがりたかった。

誰かに解って欲しかった。

解って貰えた事に安堵した。

声は出ないけど、声を上げて泣いた。

男の子がぎゅっと抱き締めてくれた事に安堵した。

そして、俺の意識はそこでまた途切れた。

*****

あの時、お前だけが俺の心を解ってくれた。

お前が声をかけてくれなかったら、俺の心は壊れていたかもしれないんだ。

俺は泣きながら秀臣のキスを受け止めた。
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