39 / 69
≪本編≫
【本編39】
しおりを挟む
今日は十夜さんが退院する。
結局、あのまま十夜さんに会わせる顔がなくて1ヶ月近く経ってしまった。
久し振りの十夜さんにどんな顔をしたら良いのか解らずに、いつ帰ってくるのかとドキドキしていたら電話が鳴った。
「もしもし?」
『今、十夜が向かった。話を聞くのも聞かないのもお前の自由だ。ただ、俺達は十夜を優先するが、今回だけはお前の好きなようにしろ…あいつを頼む』
『僕も同じ意見。秀臣くんの好きなようにしてね…ホントは泣き虫なんだよ。よろしくね』
竜也さんと高千穂さんだった。
2人から「好きなようにしろ」と言われて考える。
そして、一つだけお願いをした。
俺は短い時間の中で選択を迫られる。
ガチャンという鍵の音と玄関のドアが開く音で、すぐに答えを出さなければならない事を知らされた。
「…お邪魔します」
1ヶ月振りに聞く十夜さんの声。
ただいまじゃないの?
あちこちで動いてる物音が聞こえていたが、風呂場ではシャワーの音がしてから、風呂張りのスイッチを入れた音が響いた。
お風呂沸かしたんですね?
病院じゃお湯に浸かれませんもんね。
ちょこまか動いてる姿がすぐに想像出来る。
俺の部屋の前の廊下を歩く音がして、奥の部屋に向かったのが解った。
俺は答えが出せないままだったけど、会いたい気持ちだけで部屋から出てしまった。
十夜さんが奥の部屋から出てきて驚いていた。
部屋の光で十夜さんの姿が確認出来る。
久し振りに会えた十夜さんは痩せていた。
「…その、巻き込んで「退院したんですね」…あ、うん」
気まずそうに謝ろうとした十夜さんの言葉を遮る。
前にもこんな風に謝罪を遮った事があったな。
「謝らなくていいですよ。最初から巻き込まれるのを了承してたんですから」
そう。
ただ、俺の覚悟が甘かっただけ。
「…でも‥」
「怪我はもう、いいんですか?」
こくんと頷くのが見えた。
「お前は大丈夫なのか?」
「…はい」
俺の怪我は思ったより軽かった。
貴方が守ってくれたから…。
近付いてきた十夜さんは見た感じ大丈夫そうだったけど、少し顔色が悪いように見えた。
1ヶ月振りにちゃんと顔を見た。
思わず抱き締めそうになるのを何とか押さえる。
「…あんなもん見せられるわ、殺されかけるわだもんな。ホントに悪かったな巻き込んで」
何を思ったのか早口で捲し立て始め、結局謝られてしまった。
そして思い出した。
あの男にもたらされる行為に、ただ耐えていた十夜さん。
俺という人質がいたせいで、抵抗も出来ずに…。
それを見ているしか出来なかった俺。
結局はただの足手まといだった。
「近いうちに出ていくから荷物が纏まるまでは我慢してくれ。今日もすぐ出て行く‥から」
十夜さんの声が震えてるように聞こえるのは自分の願望もしれない。
今、出ていくって言った?
ここを?
十夜さんは携帯を取り出してどこかに…竜也さんと高千穂さんにかけてるのかな。
2人には協力してもらったから電話は繋がらないよ?
「繋がらないんですか?」
解りきった事を聞きながら俺は廊下の電気を点けた。
「ああ、だけどいい。お前の無事が解ったしな。誰も居ないと思って勝手に風呂沸かしたけど、もう行くよ」
ちょっとだけ心が痛い。
「まだ、事情聴取とかで会うかもしれないけど、なるべく顔は見せないから」
淡々と言いながら十夜さんは廊下を進む。
「…十夜さん、どういう事?」
それは、俺に会いたくないって事?
「退職願いは事務所に直接送るから安心して」
「な‥に…言ってるんです?」
「何言ってるも何も元々この件が片付くまでの契約だからな。短い間だったけど楽しかった」
ああ、確かにそんな契約してたな。
それで、さっきの荷物纏めて出ていく発言か。
でも、気付いてないんですか?
そんな泣きそうな顔で言わないで下さい。
「だって、気持ち悪いだろ?」
体を強ばらせて、抱き締めそうになるのを必死で堪える。
「触りたく無いだろ?」
そんな事無いのに、触ったら歯止めが聞かなくなるだけだ。
自分が何をするか解らないのに、迂闊に触れない…。
「二度と会わないとは言えないけど、もう近づかないから、話しかけないから安心しろ」
自分が今どんな顔をして喋っているのか教えてあげたい。
ねぇ、自惚れてもいいですか?
「今まで色々ありがとな。んじゃ、元気で」
そんな泣きそうな顔でにっこり笑わないで?
俺の勘違いなら恥ずかしいけど、十夜さん、もしかして…。
そんな願望混じりな事を考えていたら、十夜さんはそのまま俺の脇を抜けて玄関に向かって走り出してしまった。
結局、あのまま十夜さんに会わせる顔がなくて1ヶ月近く経ってしまった。
久し振りの十夜さんにどんな顔をしたら良いのか解らずに、いつ帰ってくるのかとドキドキしていたら電話が鳴った。
「もしもし?」
『今、十夜が向かった。話を聞くのも聞かないのもお前の自由だ。ただ、俺達は十夜を優先するが、今回だけはお前の好きなようにしろ…あいつを頼む』
『僕も同じ意見。秀臣くんの好きなようにしてね…ホントは泣き虫なんだよ。よろしくね』
竜也さんと高千穂さんだった。
2人から「好きなようにしろ」と言われて考える。
そして、一つだけお願いをした。
俺は短い時間の中で選択を迫られる。
ガチャンという鍵の音と玄関のドアが開く音で、すぐに答えを出さなければならない事を知らされた。
「…お邪魔します」
1ヶ月振りに聞く十夜さんの声。
ただいまじゃないの?
あちこちで動いてる物音が聞こえていたが、風呂場ではシャワーの音がしてから、風呂張りのスイッチを入れた音が響いた。
お風呂沸かしたんですね?
病院じゃお湯に浸かれませんもんね。
ちょこまか動いてる姿がすぐに想像出来る。
俺の部屋の前の廊下を歩く音がして、奥の部屋に向かったのが解った。
俺は答えが出せないままだったけど、会いたい気持ちだけで部屋から出てしまった。
十夜さんが奥の部屋から出てきて驚いていた。
部屋の光で十夜さんの姿が確認出来る。
久し振りに会えた十夜さんは痩せていた。
「…その、巻き込んで「退院したんですね」…あ、うん」
気まずそうに謝ろうとした十夜さんの言葉を遮る。
前にもこんな風に謝罪を遮った事があったな。
「謝らなくていいですよ。最初から巻き込まれるのを了承してたんですから」
そう。
ただ、俺の覚悟が甘かっただけ。
「…でも‥」
「怪我はもう、いいんですか?」
こくんと頷くのが見えた。
「お前は大丈夫なのか?」
「…はい」
俺の怪我は思ったより軽かった。
貴方が守ってくれたから…。
近付いてきた十夜さんは見た感じ大丈夫そうだったけど、少し顔色が悪いように見えた。
1ヶ月振りにちゃんと顔を見た。
思わず抱き締めそうになるのを何とか押さえる。
「…あんなもん見せられるわ、殺されかけるわだもんな。ホントに悪かったな巻き込んで」
何を思ったのか早口で捲し立て始め、結局謝られてしまった。
そして思い出した。
あの男にもたらされる行為に、ただ耐えていた十夜さん。
俺という人質がいたせいで、抵抗も出来ずに…。
それを見ているしか出来なかった俺。
結局はただの足手まといだった。
「近いうちに出ていくから荷物が纏まるまでは我慢してくれ。今日もすぐ出て行く‥から」
十夜さんの声が震えてるように聞こえるのは自分の願望もしれない。
今、出ていくって言った?
ここを?
十夜さんは携帯を取り出してどこかに…竜也さんと高千穂さんにかけてるのかな。
2人には協力してもらったから電話は繋がらないよ?
「繋がらないんですか?」
解りきった事を聞きながら俺は廊下の電気を点けた。
「ああ、だけどいい。お前の無事が解ったしな。誰も居ないと思って勝手に風呂沸かしたけど、もう行くよ」
ちょっとだけ心が痛い。
「まだ、事情聴取とかで会うかもしれないけど、なるべく顔は見せないから」
淡々と言いながら十夜さんは廊下を進む。
「…十夜さん、どういう事?」
それは、俺に会いたくないって事?
「退職願いは事務所に直接送るから安心して」
「な‥に…言ってるんです?」
「何言ってるも何も元々この件が片付くまでの契約だからな。短い間だったけど楽しかった」
ああ、確かにそんな契約してたな。
それで、さっきの荷物纏めて出ていく発言か。
でも、気付いてないんですか?
そんな泣きそうな顔で言わないで下さい。
「だって、気持ち悪いだろ?」
体を強ばらせて、抱き締めそうになるのを必死で堪える。
「触りたく無いだろ?」
そんな事無いのに、触ったら歯止めが聞かなくなるだけだ。
自分が何をするか解らないのに、迂闊に触れない…。
「二度と会わないとは言えないけど、もう近づかないから、話しかけないから安心しろ」
自分が今どんな顔をして喋っているのか教えてあげたい。
ねぇ、自惚れてもいいですか?
「今まで色々ありがとな。んじゃ、元気で」
そんな泣きそうな顔でにっこり笑わないで?
俺の勘違いなら恥ずかしいけど、十夜さん、もしかして…。
そんな願望混じりな事を考えていたら、十夜さんはそのまま俺の脇を抜けて玄関に向かって走り出してしまった。
0
お気に入りに追加
38
あなたにおすすめの小説
悪役令息に憑依したけど、別に処刑されても構いません
ちあ
BL
元受験生の俺は、「愛と光の魔法」というBLゲームの悪役令息シアン・シュドレーに憑依(?)してしまう。彼は、主人公殺人未遂で処刑される運命。
俺はそんな運命に立ち向かうでもなく、なるようになる精神で死を待つことを決める。
舞台は、魔法学園。
悪役としての務めを放棄し静かに余生を過ごしたい俺だが、謎の隣国の特待生イブリン・ヴァレントに気に入られる。
なんだかんだでゲームのシナリオに巻き込まれる俺は何度もイブリンに救われ…?
※旧タイトル『愛と死ね』
貧乏貴族の末っ子は、取り巻きのひとりをやめようと思う
まと
BL
色々と煩わしい為、そろそろ公爵家跡取りエルの取り巻きをこっそりやめようかなと一人立ちを決心するファヌ。
新たな出逢いやモテ道に期待を胸に膨らませ、ファヌは輝く学園生活をおくれるのか??!!
⚠️趣味で書いておりますので、誤字脱字のご報告や、世界観に対する批判コメントはご遠慮します。そういったコメントにはお返しできませんので宜しくお願いします。
【BL】齢1200の龍王と精を吸わないオタ淫魔
三崎こはく
BL
人間と魔族が共存する国ドラキス王国。その国の頂に立つは、世にも珍しいドラゴンの血を引く王。そしてその王の一番の友人は…本と魔法に目がないオタク淫魔(男)!
友人関係の2人が、もどかしいくらいにゆっくりと距離を縮めていくお話。
【第1章 緋糸たぐる御伽姫】「俺は縁談など御免!」王様のワガママにより2週間限りの婚約者を演じることとなったオタ淫魔ゼータ。王様の傍でにこにこ笑っているだけの簡単なお仕事かと思いきや、どうも無視できない陰謀が渦巻いている様子…?
【第2章 無垢と笑えよサイコパス】 監禁有、流血有のドキドキ新婚旅行編
【第3章 埋もれるほどの花びらを君に】 ほのぼの短編
【第4章 十字架、銀弾、濡羽のはおり】 ゼータの貞操を狙う危険な男、登場
【第5章 荒城の夜半に龍が啼く】 悪意の渦巻く隣国の城へ
【第6章 安らかに眠れ、恐ろしくも美しい緋色の龍よ】 貴方の骸を探して旅に出る
【第7章 はないちもんめ】 あなたが欲しい
【第8章 終章】 短編詰め合わせ
※表紙イラストは岡保佐優様に描いていただきました♪
風紀“副”委員長はギリギリモブです
柚実
BL
名家の子息ばかりが集まる全寮制の男子校、鳳凰学園。
俺、佐倉伊織はその学園で風紀“副”委員長をしている。
そう、“副”だ。あくまでも“副”。
だから、ここが王道学園だろうがなんだろうが俺はモブでしかない────はずなのに!
BL王道学園に入ってしまった男子高校生がモブであろうとしているのに、主要キャラ達から逃げられない話。
元会計には首輪がついている
笹坂寧
BL
【帝華学園】の生徒会会計を務め、無事卒業した俺。
こんな恐ろしい学園とっとと離れてやる、とばかりに一般入試を受けて遠く遠くの公立高校に入学し、無事、魔の学園から逃げ果すことが出来た。
卒業式から入学式前日まで、誘拐やらなんやらされて無理くり連れ戻されでもしないか戦々恐々としながら前後左右全ての気配を探って生き抜いた毎日が今では懐かしい。
俺は無事高校に入学を果たし、無事毎日登学して講義を受け、無事部活に入って友人を作り、無事彼女まで手に入れることが出来たのだ。
なのに。
「逃げられると思ったか?颯夏」
「ーーな、んで」
目の前に立つ恐ろしい男を前にして、こうも身体が動かないなんて。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる