上 下
17 / 69
≪本編≫

【本編17】

しおりを挟む
葉月さんを見送った後、母さんはまだ仕事があるからと言ってタクシーチケットをくれた。

どうせ今日も事務所近くのマンションに泊まって帰ってこないんだろう。

俺は素直にそれを受けとり、呼んであったタクシーに乗った。

ちょっと遠いけど、行き先は昔入院していた病院。

2人で草むしりした裏庭。

かなり遅くなっちゃったけど、待っていてくれるだろうか?

気ばかりが焦るが、意外と降車場から遠かった。

たどり着くと、あの頃のようによるが草むしりしていた。

懐かしい。

うん。

でもね。

「…懐かしいけどその格好だと軽くホラーだよ?」

いや、ホント。

暗闇の中でゴスロリが草むしりってww

「「ぶはっww」」

暗がりにいたから気付かなかったけど、ちゃんと高千穂さんと竜也さんもいた。

《祝ってやる~》

「何をだ?祝ってどうする?」

「字間違ってるからw」

懐かしいやり取り。

大体よるか高千穂さんがバカをやって、竜也さんが突っ込みをする。

バカをやらなかった方が追い討ちをかける。

「さて、バカは放っておいて本題に入るぞ」
         
竜也さんが急に声色を変えた。

「YORUに付き纏う奴がいる。障害沙汰を起こして逮捕された程ヤバイ奴だ。だから、お前は誰に何を聞かれても俺達の事は知らないと通してくれ。…今後も関わりは持たない。この場を離れたら俺達の事は忘れろ」

竜也さんが一気に言った言葉が頭に入って来なくて混乱する。

「え?」

「関わり合いにならない方がお前の為だ」

「僕達の事は忘れて幸せになって欲しい」

忘れろ?

関わるな?

「…嫌です。せっかく会えたのに。忘れろなんて…」

突き放された感覚に胸が痛くなったが、泣くつもりはない。

寧ろ腹が立った。

「でもね、君の為なんだよ?」

高千穂さんの真剣な眼差しに怯みそうになるけど、負けてられない。

「ずっと皆に会いたかった…。あの時出来なかったお礼だって言いたかった。いつか会えるかもしれないって、何度もここに来た!」

ずっとよるが好きだった。

…これはまだ秘密。

「今更無かった事には出来ません。二度と会わないって言うなら、昔仲良くしていたって関係者各所に言いふらしてやる!」

俺はまるで駄々っ子のように拙い脅し文句を言うしかなかった。

「自ら危険に足を突っ込むのか?」

「…え?…その…声」

さっきまで一緒だった人の声が…。

葉月さん?

よるから?

いや、それよりも。

「昔、困っていたのを助けてもらって、今、また助けてもらったのに…」

とにかく、答える。

考えるのは後だ。

「はい、さようなら。なんて言えない」

黙ったら終わる。

「よるなら言える?」

そんな気がした。

「…言えない。降参だ」

やっぱり、よるから葉月さんの声がする。

「こら。ルール違反だ」

「そうだよ?喋っちゃ駄目じゃん」

「ん…」

よるはばつが悪そうに俯いた。

「で、よる…葉月さんなの?」

「しかも、盛大にバレてるぞ?」

「どうする?今ならまだ誤魔化せるかなぁ?」

恐る恐る聞いてみるけど、2人は誤魔化そうとしていた。

「いや、無理ですよ?そう言えば、メイク前にも控え室で喋りましたよね?」

「ちっ、バレたか。殴ったら忘れない?」

「ちょっ?舌打ち!?殴るって、よる!?」

よるは意外と男前のようだ…じゃなくて、男性‥って事なんだよね?

「だから賭けにならないって言っただろ?」

「絶対、聞き分けないって解ってたもんね~」

《ばかなこほどかわいい?》

「は?え?何?いや、今更筆談しないで下さい!」

何でまた筆談?

にこやかにメモ帳を差し出すのやめて!

「悪いな、試した。障害野郎の事は本当の話だ」

「いや、竜也さん?賭けにならないって思いっきり言ってますよ?」

「駄目じゃんww」

《だめじゃんww》

「いや、だから筆談しないで!ちゃんと説明して?って、あ!葉月さんのメモの違和感解った!よく見たら筆跡一緒!」

やっと解った。

あの時の違和感の正体。

「そこは盲点だったな」

「ありゃ。今からでも女の子が使うような丸文字練習する?」

《それはかんべんして♡》

いや、だから何で筆談するの…。

もう、意味が解らない。

でも、さっきの突き放された時の胸の痛みはもう無かった。

代わりに暖かいものが込み上げてきたが、またすぐに違う意味で胸が痛くて苦しくなった。

…初恋は実らないと言うけど、なんだか、実った果実をもぎ取られて叩き落とされた気分だ。

よる…ホントに男性なの?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

孤独な戦い(2)

Phlogiston
BL
おしっこを我慢する遊びに耽る少年のお話。

王道にはしたくないので

八瑠璃
BL
国中殆どの金持ちの子息のみが通う、小中高一貫の超名門マンモス校〈朱鷺学園〉 幼少の頃からそこに通い、能力を高め他を率いてきた生徒会長こと鷹官 仁。前世知識から得た何れ来るとも知れぬ転校生に、平穏な日々と将来を潰されない為に日々努力を怠らず理想の会長となるべく努めてきた仁だったが、少々やり過ぎなせいでいつの間にか大変なことになっていた_____。 これは、やりすぎちまった超絶カリスマ生徒会長とそんな彼の周囲のお話である。

学園と夜の街での鬼ごっこ――標的は白の皇帝――

天海みつき
BL
 族の総長と副総長の恋の話。  アルビノの主人公――聖月はかつて黒いキャップを被って目元を隠しつつ、夜の街を駆け喧嘩に明け暮れ、いつしか"皇帝"と呼ばれるように。しかし、ある日突然、姿を晦ました。  その後、街では聖月は死んだという噂が蔓延していた。しかし、彼の族――Nukesは実際に遺体を見ていないと、その捜索を止めていなかった。 「どうしようかなぁ。……そぉだ。俺を見つけて御覧。そしたら捕まってあげる。これはゲームだよ。俺と君たちとの、ね」  学園と夜の街を巻き込んだ、追いかけっこが始まった。  族、学園、などと言っていますが全く知識がないため完全に想像です。何でも許せる方のみご覧下さい。  何とか完結までこぎつけました……!番外編を投稿完了しました。楽しんでいただけたら幸いです。

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

檻の中

Me-ya
BL
遥香は蓮専属の使用人だが、騙され脅されて勇士に関係を持つよう強要される。 そんな遥香と勇士の関係を蓮は疑い、誤解する。 誤解をし、遥香を疑い始める蓮。 誤解を解いて、蓮の側にいたい遥香。 面白がる悪魔のような勇士。 🈲R指定です🈲 ※この作品はフィクションです。 実在の人物、団体等とは一切関係ありません。 ※この小説はだいぶ昔に別のサイトで書いていた物です。 携帯を変えた時に、そのサイトが分からなくなりましたので、こちらで書き直させていただきます。

愛され末っ子

西条ネア
BL
本サイトでの感想欄は感想のみでお願いします。全ての感想に返答します。 リクエストはTwitter(@NeaSaijou)にて受付中です。また、小説のストーリーに関するアンケートもTwitterにて行います。 (お知らせは本編で行います。) ******** 上園琉架(うえぞの るか)四男 理斗の双子の弟 虚弱 前髪は後々左に流し始めます。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い赤みたいなのアースアイ 後々髪の毛を肩口くらいまで伸ばしてゆるく結びます。アレルギー多め。その他の設定は各話で出てきます! 上園理斗(うえぞの りと)三男 琉架の双子の兄 琉架が心配 琉架第一&大好き 前髪は後々右に流します。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い緑みたいなアースアイ 髪型はずっと短いままです。 琉架の元気もお母さんのお腹の中で取っちゃった、、、 上園静矢 (うえぞの せいや)長男 普通にサラッとイケメン。なんでもできちゃうマン。でも弟(特に琉架)絡むと残念。弟達溺愛。深い青色の瞳。髪の毛の色はご想像にお任せします。 上園竜葵(うえぞの りゅうき)次男 ツンデレみたいな、考えと行動が一致しないマン。でも弟達大好きで奮闘して玉砕する。弟達傷つけられたら、、、 深い青色の瞳。兄貴(静矢)と一個差 ケンカ強い でも勉強できる。料理は壊滅的 上園理玖斗(うえぞの りくと)父 息子達大好き 藍羅(あいら・妻)も愛してる 家族傷つけるやつ許さんマジ 琉架の身体が弱すぎて心配 深い緑の瞳。普通にイケメン 上園藍羅(うえぞの あいら) 母 子供達、夫大好き 母は強し、の具現化版 美人さん 息子達(特に琉架)傷つけるやつ許さんマジ。 てか普通に上園家の皆さんは顔面偏差値馬鹿高いです。 (特に琉架)の部分は家族の中で順列ができているわけではなく、特に琉架になる場面が多いという意味です。 琉架の従者 遼(はる)琉架の10歳上 理斗の従者 蘭(らん)理斗の10歳上 その他の従者は後々出します。 虚弱体質な末っ子・琉架が家族からの寵愛、溺愛を受ける物語です。 前半、BL要素少なめです。 この作品は作者の前作と違い毎日更新(予定)です。 できないな、と悟ったらこの文は消します。 ※琉架はある一定の時期から体の成長(精神も若干)がなくなる設定です。詳しくはその時に補足します。 皆様にとって最高の作品になりますように。 ※作者の近況状況欄は要チェックです! 西条ネア

管理委員長なんてさっさと辞めたい

白鳩 唯斗
BL
王道転校生のせいでストレス爆発寸前の主人公のお話

処理中です...