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≪本編≫
【本編13】
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【十夜side】
撮影を始める直前、竜也の携帯が鳴った。
ディスプレイにはじぃちゃんの名前。
余程の事が無い限り電話なんかしてこないじぃちゃん。
何か緊急の用に違いない。
「ちょっと出てくる」
竜也はそう言って外に向かった。
俺とちぃは気になって顔を見合わせたが、竜也に任せて仕事を優先させた。
撮影が始まっても竜也は戻って来なかった。
一着目の撮影が終わる頃に漸く戻ってきた。
衣装チェンジ中に竜也に聞いたけど教えてくれなかった。
「集中しろ」
一言で切られた。
けちんぼめ。
撮影は順調で、山田とか言うカメラマンが絶賛してくれる。
山田が色々な注文をつけてくるけど、やりたい事と注文が一致する感じがする。
何だかやり易い。
衣装チェンジの時には、秀臣を竜也に任せたけど、ホントは自分でやりたかった。
たた、髪型だけは次の衣装に合わせて俺が弄ったが、俺が葉月だと気付かれる事は無かった。
でも、心の中で秀臣には“黙っててごめん”と謝っておいた。
不意に白い薔薇が目に入った。
頭を千切って秀臣に咥えさせ、その薔薇にキスした。
茎が苦かったのか秀臣の顔が強ばってたのが可愛いくて思わず笑ったけど、山田の賛辞が飛ぶから、まぁ、いいか。
やっぱり途中からノリノリになっちゃったな。
ただ、竜也があんまりノって無かったのが気になる。
撮影終了直後、3人だけ先に控え室に戻った時に、竜也がじぃちゃんからの電話の内容をやっと教えてくれた。
「あいつが仮釈放されるそうだ」
「…」
「っ…」
俺とちぃは一瞬固まった。
「…一ノ瀬信夜」
それは、14の夏の日に俺達に消えない爪痕を残した奴の名前。
俺が生まれる前にじぃちゃんが縁切りして、戸籍から抹消された人。
俺の元伯父で、血が繋がった実の父親だった…。
「は、冗談キツイ…」
「十夜。冗談じゃない。弁護士からも連絡が来た」
竜也の真剣な顔にそれは本当の事なんだと思い知らされた。
マジ?
竜也もちぃも心配そうに俺を見つめた。
正直震えたし、目の前が暗くなりかけた。
意識が飛びかけた瞬間、ちぃがそっと抱き締めてくれる。
お陰で倒れずにすんだ。
「ち、ちぃ…あり‥ありが…」
「うん。大丈夫。大丈夫だから」
ちぃがしっかり抱き抱えてくれる。
それにしがみつく形で、俺は何とか気持ちを落ち着ける事に全力を尽くす。
俺の“顔”に執着するあの男…。
あいつのせいで竜也もじぃちゃんも死にかけた。
その事だけでも絶対に許さない。
俺にした事も許せない。
撮影中に聞かなくて良かった。
んなもん聞いたら、絶対顔が強ばる…。
なるほど、竜也が内緒にした訳だ。
けちんぼって思ってごめん。
「あ!」
落ち着き始めて、思い出した。
どうしよう!
秀臣と共演しちゃったよ!
「あ、撮影…」
慌て出した俺を見てちぃが気付いてくれた。
「正直、撮影前に止めたかったが、戻ってきた時には始まってたからな。今更止められないと思って止めなかった。取り敢えず、話は車でしよう。ここでする話じゃないし、十夜、喋ってる」
「あ!」
しまった。
YORUルール破った…。
「でも、竜也。お前も名前呼んだからな?」
「「あ」」
竜也も眉をしかめていた。
「ただ、秀臣には先に話しておこう。お前、手紙で呼び出せ」
竜也の言葉に俺はただ頷くだけだった。
人の気配がしたので俺達は話を打ち切って帰る準備を始めた。
撮影を始める直前、竜也の携帯が鳴った。
ディスプレイにはじぃちゃんの名前。
余程の事が無い限り電話なんかしてこないじぃちゃん。
何か緊急の用に違いない。
「ちょっと出てくる」
竜也はそう言って外に向かった。
俺とちぃは気になって顔を見合わせたが、竜也に任せて仕事を優先させた。
撮影が始まっても竜也は戻って来なかった。
一着目の撮影が終わる頃に漸く戻ってきた。
衣装チェンジ中に竜也に聞いたけど教えてくれなかった。
「集中しろ」
一言で切られた。
けちんぼめ。
撮影は順調で、山田とか言うカメラマンが絶賛してくれる。
山田が色々な注文をつけてくるけど、やりたい事と注文が一致する感じがする。
何だかやり易い。
衣装チェンジの時には、秀臣を竜也に任せたけど、ホントは自分でやりたかった。
たた、髪型だけは次の衣装に合わせて俺が弄ったが、俺が葉月だと気付かれる事は無かった。
でも、心の中で秀臣には“黙っててごめん”と謝っておいた。
不意に白い薔薇が目に入った。
頭を千切って秀臣に咥えさせ、その薔薇にキスした。
茎が苦かったのか秀臣の顔が強ばってたのが可愛いくて思わず笑ったけど、山田の賛辞が飛ぶから、まぁ、いいか。
やっぱり途中からノリノリになっちゃったな。
ただ、竜也があんまりノって無かったのが気になる。
撮影終了直後、3人だけ先に控え室に戻った時に、竜也がじぃちゃんからの電話の内容をやっと教えてくれた。
「あいつが仮釈放されるそうだ」
「…」
「っ…」
俺とちぃは一瞬固まった。
「…一ノ瀬信夜」
それは、14の夏の日に俺達に消えない爪痕を残した奴の名前。
俺が生まれる前にじぃちゃんが縁切りして、戸籍から抹消された人。
俺の元伯父で、血が繋がった実の父親だった…。
「は、冗談キツイ…」
「十夜。冗談じゃない。弁護士からも連絡が来た」
竜也の真剣な顔にそれは本当の事なんだと思い知らされた。
マジ?
竜也もちぃも心配そうに俺を見つめた。
正直震えたし、目の前が暗くなりかけた。
意識が飛びかけた瞬間、ちぃがそっと抱き締めてくれる。
お陰で倒れずにすんだ。
「ち、ちぃ…あり‥ありが…」
「うん。大丈夫。大丈夫だから」
ちぃがしっかり抱き抱えてくれる。
それにしがみつく形で、俺は何とか気持ちを落ち着ける事に全力を尽くす。
俺の“顔”に執着するあの男…。
あいつのせいで竜也もじぃちゃんも死にかけた。
その事だけでも絶対に許さない。
俺にした事も許せない。
撮影中に聞かなくて良かった。
んなもん聞いたら、絶対顔が強ばる…。
なるほど、竜也が内緒にした訳だ。
けちんぼって思ってごめん。
「あ!」
落ち着き始めて、思い出した。
どうしよう!
秀臣と共演しちゃったよ!
「あ、撮影…」
慌て出した俺を見てちぃが気付いてくれた。
「正直、撮影前に止めたかったが、戻ってきた時には始まってたからな。今更止められないと思って止めなかった。取り敢えず、話は車でしよう。ここでする話じゃないし、十夜、喋ってる」
「あ!」
しまった。
YORUルール破った…。
「でも、竜也。お前も名前呼んだからな?」
「「あ」」
竜也も眉をしかめていた。
「ただ、秀臣には先に話しておこう。お前、手紙で呼び出せ」
竜也の言葉に俺はただ頷くだけだった。
人の気配がしたので俺達は話を打ち切って帰る準備を始めた。
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