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≪本編≫

【本編7】

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【十夜side】

「…そちらの事務所でYORUを探していると聞きました。ええ、悪戯じゃありません。YORUのマネージャーの“月見月”といいます。はい。情報元は明かせません。詮索しないと言うなら協力出来ます」

ちなみに“月見月”と言う名前は“葉月=8月”で、8月の別名が“月見月”だったから架空の人物、YORUのマネージャーの名前として使っている。

“YORU”は俺の十夜って名前の“夜”の部分を使った。

8年前の時と一緒だ。

俺は被っていたカツラを外し、拭き取り化粧水を使って軽く顔を拭いてから基礎化粧をした。

YORUをやる時用に長く伸ばした髪を簡単に梳いて纏める。

荷台にあるYORUセットから女物のゴスロリ服を出し、精神統一。

…よし。

上を全部脱ぎ捨てると、脇に近い部分の胸にヌーブラをくっ付けて寄せ上げ、真ん中で止めてから専用のブラジャーを着ける。

こうすると男でも谷間が出来る。

これもじぃちゃんが教えてくれた技と小物だ。

ってか、じぃちゃんはどうしてこんな事知ってたんだ?

まぁ、いい。

ただ、やる時に精神がゴリゴリ削られる気がするから、精神統一が必要になる。

黒いレースのキャミソールを着て、もう一度精神統一をする。

さて、着るか。

下はゴテゴテにレースの付いたスカート。

それを履いてからズボンを脱ぐ。

靴下をニーハイソックスに変えて、パニエと呼ばれるチュールという網の生地で何重にも重ねられたスカートを履き、ドロワーズというフリフリのパンツを履く。

これで、ふんわりスカートの出来上がり。

上はこれまたゴテゴテにレースが付いた袖が肘から円錐状にビラビラと開いた服を着る。

レースの手袋…の前に、コードレスヘアアイロンの電源を入れてから手袋をはめて体は完了。

「…解りました。そちらに向かいます。細かい事はお会いした時に。ええ、では後程」

竜也も丁度電話が終わったみたい。

「着替え終わったならこっち来い」

後部座席との仕切りのカーテンを開けて竜也の横に移動すると、竜也の手によってヘアメイクが始まる。

YORU用ヘアメイクの専属は竜也だからだ。

さっき電源を入れたヘアアイロンで髪を軽く巻いて整え、化粧に移る。

基礎は終わっていたし、4年もやってるから手慣れている。

メイクには15分もかからない。

「よし、口は自分で塗れ」

そう言って濃い色のグロスだけ渡される。

「あ、付け爪なんか持ってって!」

「了解」

竜也は使った道具を纏めると、一番後ろに移動してこれから使うだろう道具を鞄に詰めた。

コンっと窓がノックされる。

外にはちぃが立っていた。

流石、自称“竜也のストーカー”を名乗るだけある。いつもの事だけどどこにいるか言ってなかったのに、正確に場所を突き止めやがる。

俺は急いでグロスを塗り、YORUバックを持ってドアを開けた。

ドアを開けたらもうYORUとして振る舞うのが俺達のルール。

あ、しまった。靴履き忘れた…。

俺は外に居るちぃの服を掴んで、自分の足を指差した。

「ん?あれ?靴履き忘れたの?」

俺はこくこくと頷いて、足だけ外に出した。

「はいはい、お嬢様。少々お待ち下さい」

ちぃはすぐにYORUセットの厚底靴を出すと、跪いて履かせてくれた。

「さ、お手をどうぞ」

竜也は既に自分の道具を持って外にいた。

YORUバックを腕にかけて、ちぃに掴まりながら立ち上がる。

はっきり言って厚底靴って高下駄みたいなもんだからな!

立つだけで大変なんだからな!

掴まらないと歩けないんだからな!

小道具のこれまたフリフリがたくさん付いた日傘を竜也に渡されて、あざとい感じで斜めに翳す。

傘を持たない手でちぃの腕に自分の腕を絡める。

「さて、出陣しますか」

ちぃの号令で、俺達は秀臣がいるスタジオに向かった。
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