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≪本編≫

【本編2】

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【十夜side】

「今日だけ担当させて頂きます、葉月です。よろしくお願いします」

「OMIです。よろしくお願いします」

それだけの短い挨拶だけど、俺はちょっと浮かれていた。

俺は葉月十夜。

目の前のモデル、OMIこと本名、小野田秀臣に会う為にこの仕事を受けた。

写真じゃない本物の秀臣。

あれから8年か。

ホントはもっと早くに会いたかったけど、伝言のあの場所に来なかったって事は、会いたくない可能性が高いからな。

ただ、今回は仕事だ。

正体を明かさなければいい。

何でも、本来予定していたヘアメイクの人がダブルブッキングして、誰でもいいから代わって欲しいとヘアメイク仲間に連絡が回り回っていたところ、遠い親戚に当たる、大事な幼馴染みの竜也にまで話がきたのは奇跡だと思う。

回ってきた話の中にギャラの話が一切出てなかった事でみんな取り合わなかったみたいだ。

竜也と一緒にいた俺は迷う事なく飛び付いた。

クライアントやスタジオスタッフには話がいってるって伝言で聞いた。

受け付けまでは竜也も一緒に来てくれたけど、中に入る時は1人になるからちょっとどきどきした。

曖昧な伝言ゲームだったわりに、案外すんなり通行証を渡されて驚いた。

竜也と別れて緊張するけど、まごついてる時間はない。

思い切って中に入り、クライアントやスタッフに挨拶をするとスタッフの1人がOMIの控え室に案内してくれた。

その時伝えられたコンセプトは“ちょっと大人びた爽やかな感じの男子高校生が使うフレグランス”という抽象的なもの。

新人にその説明って職務怠慢だと思うんだけど…どうなの?

そんなん思ってるうちに対面。

無難な挨拶を交わした。

「先にメイクしますか?」

話を聞いているのか、スタイリストさんが気を利かせてくれる。

衣装着てた方がイメージしやすいな。

「衣装を先にお願いします。その間に準備しますね」

そう言って俺は鞄からメイク道具を鏡の前に並べ始めた。

爽やか系かぁ。

昔は可愛いワンコ系だったけど、今は凛々しい系のイケメンだからなぁ。

メイク道具を並べ終わるのと同時に衣装を着た秀臣がいた。

濃いブルーのタータンチェックのズボンに薄いブルーのシャツに白のベスト。

その辺にいそうな制服じゃん。

あー、うん。

決めた。

「どうぞ、座って下さい」

促して椅子に座ってもらい、衣装が汚れないようにケープをかける。

「暑かったら言って下さいね」

触る事に緊張するけど、これはお仕事。

触る覚悟を決めて、手早く髪を纏めて基礎化粧を施す。

「何かメイクや髪型に希望はありますか?」

平常心平常心。

念仏でも唱え…って、念仏知らないや。

「え?いや、特には無いです…」

して欲しいメイクとか無いのか。

「…じゃあ、好きにやらせてもらいますね」

肌は少し健康的な感じのファンデーション。

眉はスッキリ細目に、綺麗系男子風。

目元を垂れ気味に見えるようにシャドーの濃淡を利用する。

途中で気になったのか、鏡に写ってる自分を見て驚いてたのは可愛かった。

思わず笑っちゃったよw

アイラインで目の端を下げ気味に描いて、唇は健康そうで主張しない程度のつや消しリップ。

顔はこんなもんかな?

よし、いい出来♪

んじゃ、髪型いきますか。

左側の片側サイドを編み上げてピンでとめ、前髪は7対3を元にバラけ気味に後ろからワックスで流す。

こんなもんかな?

さて、出来上がりに満足してもらえるといいな。

結果的には本人も驚くほど、クライアントもカメラマンも大絶賛だった。

その後もちょこちょこ言われるまま手直しして無事撮影終了。

髪の毛を直してメイクオフした。

「今日は本当にありがとうございました」

秀臣に丁寧に頭を下げられた。

礼儀正しいのは変わってないな。

「一緒に仕事が出来て嬉しかった」

俺はそれだけ言って握手してさっさとスタジオを出て、駐車場で待っててくれている竜也のトコに戻った。

窓を叩くと後部座席のドアがスライドして開いた。

「終わったのか?」

「ん。楽しかった♪」

「良かったな」

そう言って竜也は頭を撫でてくれた。

「うん!」

…ってか、秀臣、ホントにでっかくなったなぁ。

昔は同じぐらいだったのに…。
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