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1.通学路で戦うのは危険ですっっ!

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私が「最初の彼」に会ったのは、月の綺麗な夏の夜。

その日、私は泥のカタマリと化していた。 いや、実際は田んぼに落ちただけなんだけど。
しかも、通学路に落ちるなんて。人間、油断するとダメだね。

……ネチャリ

きっと昼に降った雨のせいだ。田の泥は粘着質で、手足にまとわりつく。なぎ倒された稲は、きっと私の形になっているだろう。あぁもう、せっかく結んだポニーテールにまでネッチョリついてる…。

……つまんない。

そう、つまらない。 いつだっけ。この言葉が口癖になったのは。 
私、冬谷 みぞれは高校一年にして、早くもこの平凡な生活に飽きていた。
特に不満はない。だが何かもの足りない。
自分のアイデンティティーを確かめられるような、特別だと思えるような出来事を。

16歳。

思春期真っただ中は、他人とは違う何か刺激的な出来事を欲していた。
ただし、めんどくさいこと以外で。

 …………
 
どれくらいの時間がたったのだろう。 
日は既に落ち、月の光にも負けず星が煌めいている。
 
「ひとーつ、ふたーつ」
少し星を数える余裕も出てきた頃、 
 「みっ…、、、、ん??」
黒いカタマリが空に一つ。
何故か、こちらに向かって降ってくる。

ええ?やば。逃げよ。
 
何となく身の危険を感じて、慌てて近くの畦道にすがりつく。
しかし、泥が滑ってなかなかあがれない。昨日の雨を全力で恨んだ。いや、田んぼに落ちた私の運動神経を恨むべきか。どっちにせよ、お腹すいたなぁ。
 あまりの恐怖に現実逃避する自分をよそに、謎のカタマリはとうとう形がはっきりわかるほどまでに近づいた。 

あー、 これ死んだ……。
黒くて巨大な大きなカタマリは、真っ赤な口を持った怪物だった。 
そいつは、こちらをめがけて大きな口を開けている。
 私は目をギュッと閉じ、 自らの死を覚悟した。

「…。 」

…おかしい。
もう口の中にいる頃だと思うのに、いつまでたっても食べられない。 痛くも痒くもない。
最近の怪物は麻酔つきなのかしら。

カキーン、グウォォォォオ、カキーン

しかし、何やら騒がしい。
不思議に思い、恐る恐る目を開けると……
 
 一人の男が私の前で、怪物と戦っていた。 
怪物のうなり声と男の剣から出る金属音が混じって耳が痛い。 

はて?これは、現実?
私が呆気に取られて見ていると、男は慣れた様子で怪物の後ろに回り、 怪物の首をめがけて剣を降り下ろした。
 
グサリと剣が怪物に刺さり、血が溢れる。 怪物はだんだん息が浅くなっている。
こ、これは、倒せたんじゃ…?! 
男が振り返る。月の逆光で顔ははっきりとは見えないが、彼は満足そうな様子でこちらに向かってくる。
「は~、終わったー…って大丈夫!?」
近くにいるはずなのに、男の声が遠く聞こえる。 
それと同時に視界がぐらりと揺らいだ。
私はあまりの恐怖と安堵で、気を失っていった。


その後、私は彼と二度と会うことはなかった。
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