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Case1 僕とくまのぬいぐるみ

森の中のちいさな冒険2

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……だいぶそれてしまったが、ここから本題。僕が聞いた腕利きのクーリエとは、町の人曰く。

―他のクーリエよりも満足度が高い。修理じゃなくて再生に近いぞあれは。
―直す前にクーリエから色々聞かれるんだ。それを踏まえた上で依頼者の要望に応えた修理をしてくれる。満足度が高いのは多分、そのおかげだ。

 噂は一貫して、クーリエの直し方は『依頼者の希望に沿った形にモノを直す』というらしい。
 そう。僕がクーリエに興味を持ったのはそこだ。
 ただ直すだけじゃだめなんだ。
 直すだけなら、モノがモノなだけに、わざわざクーリエに頼まなくても、自分でできるのだから。
「噂通りの人だったらいいんだけど」
 ただ、唯一の欠点としては、噂のクーリエは王国に姿を現さないらしく、会いたければ森の奥の屋敷に行かねばならないこと。理由は不明。そのためにわざわざ森に入って探している。
「本当にどんなものでも直せるというなら、剣とかも直してもらえるのかな」
 僕は腰に携えている剣を取り出す。もらったばかりの真剣で傷一つついていない状態で残っているけれど、もしこれが折れてしまったら、直るのだろうか。むずむずしてきた。
「……は、はくしょん!」
 森の静寂を破る、僕の大きなくしゃみ。びっくりしたのか、ばさばさと鳥が飛んだ。この森は薄暗いうえに日が当たらないので昼なのに寒い。もしかしたら、汗をかいて体が冷えてしまったかも。
 僕はため息をついた。それもそのはず、かれこれ三時間はこの森の中を歩いている。
 剣と指南書をしまい、今度は地図を取り出して両手いっぱいに広げた。
 紙面の中央の大きな円は、僕が住む王国。
 今自分がいるのは、中央から上……北の辺境の森。辺境というからには、王国と隣の国の境目のはず。
 噂によると、クーリエの屋敷は北の森の奥にあるらしい。だから北へ向かってひたすら進んでいるのだが。
 王国から北の森までは、地図を指でなぞるととても近いのに、実際歩いてみると果てしなく遠い。
「……うーん……」
 北の森の奥の屋敷。それしか情報はない。
 地図を広げて現在地の周辺を探っても、肝心のクーリエの目印もわからない。
「具体的な場所くらい、聞いとけばよかったな」
 自分が他に持っている情報は、クーリエの看板があること、そのクーリエは女性で、賢者のなりをしているらしい、といったこと。
 うん。あまりに情報が少ないし断片的だ。噂だけで突っ走ってしまった自分を責めたい。今の自分は、まるで新聞の見出しだけで情報を判断をしてしまう人のようだ。もっと事細かく調べておくべきだった。
「看板といえば」
 今自分が座っている岩の傍に『魔物注意!』という看板が立っていた。僕が持っている地図にも、角の生えた獣の横顔の絵、通称魔物マークが記されている。
「魔物、いませんように」
 迷えば迷うほど危険に近づいていく。早くクーリエを見つけて、直してもらおう。
 僕は何かあってもいいようにリュックの帯を固く締めた。これで思いっきり逃げることができる。

 リュックを揺らして落ちないか確認すると、僕は再び歩き出した。
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