完 敵の勇者が私に媚薬を飲まされた責任取れと言ってくる

1

　
　私は魔王軍特殊部隊、潜入調査隊員の1人、アリスリンザー・ドゥ・テルメリア。

　美しい人間に似た容姿と魔族の気配を消す能力に特化している私の役目は、敵である人間達の動向を調べ危険を察知し、いち早く魔王様にお知らせする事だ。

　その為にもう何年も前から人間の田舎の村へ潜入し、アリスという名で村に潜伏しながら情報収集活動を行っている。

　魔王様とはもう何年もお姿を拝見する機会に恵まれていないが、目を閉じればいつでも鮮明に魔王様のお姿を思い出す事が出来る。

　ああ……麗しの魔王様。貴方様への忠誠は永遠に不変です。

　艶のある漆黒のロングストレートに漆黒の大きな羽、そして真っ白で怖いくらい整った顔に似合う漆黒の瞳。
　思い出すだけで背筋がゾクゾクする……あの瞳の中に吸い込まれたいと何度思った事か。

　魔王様に憧れて私も金色のウェーブのかかった地毛を伸ばし始めた。普段は家事に邪魔なので縛っている事が多いが。

　魔王様に想い馳せながら、飼っている山羊達を小屋から出して庭の草を食べさせている。
   今日もよく晴れた良い天気なので、山羊を庭に出したままその一画にある畑を耕していると、私が住んでいる家の前で大きな声が聞こえて来た。

「おーい、アリスゥーッ！！アリスゥーッ！！居ないのかー！！なあアリスゥー！！」

　くっまたアイツか……。