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「……おいおい、今迄どこに行ってたんだ?せっかく俺が早く帰って来てやったのに、二人仲良くお出かけか?エリザベス、お前の娯楽に付き合う為に護衛を雇った訳ではないんだからな。」

「ダミアン……今日は、随分とお早い帰りだったのね。」

「まぁ、偶にはそう言う日もあるさ。」



 何だ、可愛げのない態度だな──。

 以前なら、俺が早く帰って来ると尻尾を振り喜んで飛びついて来たのに。

 それどころか、俺の帰りを大人しく家で待って居たのにな。



 俺だってな、好きでお前の居る家に早く帰って来た訳じゃない。

 ミラージュの家で逢瀬を楽しんで居たら、顔を青くした物騒な男達がいきなり飛び込んで来て……命を落とすほど危ない仕事を受けた訳じゃないとか、話が違うと彼女を責め立てせっかくの時間を滅茶苦茶にされてしまったんだ。


 
 ミラージュの奴も、今日はもう帰ってと俺を追い立てるように家から追い出すし……全く、どうなって居るのだか。


 
 でもまぁ良い。

 早く帰って来たおかげで、エリザベスが護衛といちゃついて居る所が見れたのだから。

 それが浮気かどうかは知らんが……契約成立まで待たずとも、こいつの不貞を理由に離縁を言い渡してしまおうか。

 そうだ、その方が慰謝料だって請求できるし……後々になって、俺がこいつを一方的に捨てたと世間から非難される事も無いしな──。



「エリザベス、お前が夫の帰りを無視し男と遊ぶようなふしだらな女だとは思わなかったよ。お前との間には子も居ない事だし……いっその事、もう離縁しないか?そうしたら、俺はもっと仕事に打ち込めるし……お前だって新しい男と一緒になり、念願の子作りに励む事が出来るだろう?互いに良い事だらけじゃ無いか。」

「仕事に励む、ね。そんな事言って、あなたはあのミラージュとか言う元婚約者と一緒になるのでしょう?」

「な、何を言って……あいつは、元婚約者で──」

「確かに元婚約者ですが、今も密かに関係を持って居るのでしょう?どうせ、今日も会って来たのではないですか?彼女が私に離縁を求め現れた際に身に付けて居た独特の香水の香りが、あなたから僅かにしますから。因みに、今日だけでなくその前にも何度か同じ事がありましたよ。」

「うッ!?」

 エリザベスの言葉に、俺は思わず声を詰まらせてしまった。


  
 な、何だ……こいつ、何時から気付いて──!?



「お、俺は仕事一筋の真面目な男だ!現に、俺は隣国のある金持ちと事業契約を──」

「その契約なら、私が先に結びましたけど?」

「はぁ!?」

 エリザベスが付き出して来た紙を見て、俺は驚きで目を見開いた。



***



「こ、この契約書のサインは、確かにあちらの──。な、何だ……何が起きて居るんだ!?」

「……実はこちらの事業主の奥様が、あなたの愛するミラージュにかつて酷い目に遭わされましてね。それを知ったお二人は、そんな悪女と親しくするあなたは信用できない、契約の話は無かった事にすると仰いまして……。その代わり、私の方と契約を結ぶと仰ってくれて──。今日私が留守にして居たのも、こちらのお二人に会う為に隣国を訪ねて居たからなのです。」

「お、お前などと契約しても、お前に事業を継続して行く力など──」

「ご存じないの?私はあなたのお父様に、かなり信頼されて居ましてね。それこそ、我儘な息子のあなたより──。私に何か困った事があれば、自身の友人や知人を頼るよう教えられて居ました。その方達には、皆私に力を貸すよう話を付けてあると言って。最初こそ、どうして私をそこまで大事にしてくれるのかと思って居ましたが……ミラージュなどと言う悪女を愛したあなたが、余程信頼できなかったのでしょうね。それに、私には頼りになる父や兄も居ますし、その父からある程度事業の事を学んで来て居ますから──。あなたは、私を少々馬鹿にしすぎです。そして馬鹿にして居るから、私や彼女への想いを綴った過去の日記を平気で残しておけるんですよ。」

「クソッ、日記まで見られて居るのか!」


 私の言葉に、ダミアンは悔しそうにこちらを睨み付けて来た。
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