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「……だから、もう俺は降りさせて貰います!」
「待ってよ、ちゃんと報酬分の仕事をしてからにしなさいよ!私とダミアンが結ばれたら、成功報酬として別にお金を出してあげるつもりだから!」
「そんな事言われても、腕を片方やられては何も出来ませんよ!他に腕の立つ奴を紹介しますから……ミラージュ様、もう勘弁してて下さい!」
そう言って、腕に包帯をグルグルと巻き付けた男は半泣きで部屋を飛び出して行った。
「フン、役立たずめ!良いわよ、他にも使えそうな駒は沢山居るんだから──。」
私は、勢いよく閉まった扉に向けてベーッと舌を出した。
この可愛くて色気のある私には、昔から……学園時代から今に渡る迄、数多くの取り巻き達が存在して居た。
先程部屋を出て行った男も、その一人だ。
あれは学園時代からの、最も古い取り巻きで……学園時代も何かと私の命令通りに動き、役に立ってくれて居た。
まぁ、一度大失敗して私に迷惑をかけたけれど……でもそれでもあれは私を想い続け、もう一度チャンスが欲しい……昔と同じように傍に置いて欲しいと必死に願って来たから、お情けで再び使ってあげる事にしたのだけれど──。
「……あれだけ反省して居たから、今回はと期待してあげたのにダメだったか。それにしても、あいつは体も大きくて力も強いからすぐにあの女など傷物に出来ると思ったのに……。エリザベスの奴め、一体どんな護衛を傍に置いたのよ──。」
そう思いブツブツ呟いて居ると、部屋のドアが開き愛するダミアンが入って来た。
「ダミアン、来てくれたのね!」
「ミラージュ、君の好きな紅茶の葉とお菓子を買って来たよ。それはそうと……君の家の前で、怪我をした大男とすれ違ったが……もしや君の客人か?まさか、何か変な事はされて居ないだろうな!?」
「だ、大丈夫よ。それに、私はそんな人は全く知らないわ。」
「そうか、だったら良いが。」
そう言って、ダミアンはホッと胸を撫でおろした。
危ない危ない。
ダミアンにはあの男との関係や……ましてやエリザベスを襲わせた事など、一切秘密にしてあるのよね。
だって私がそんな過激な女だなんて、愛するダミアンには知られたくないもの。
誰だって、愛する人の前では良い子で居たいものよ。
私は、いつだって可憐で愛らしいミラージュよ──。
「実は、俺の妻……エリザベスが身を守る為だと護衛を付けて居てな。あんな地味な女を襲う者は居ないと常々思って居たが、どうやら町で男にちょっかいをかけられたらしい。全く、世の中には物好きも居たものだ。」
「そ、そうなの。」
「だが、その護衛と言うのが鬱陶しく髪を伸ばし分厚い眼鏡をかけた冴えない男でな……。僅かに見えた額にはうっすら傷があったし、きっと他の部分も醜いんだろう。」
「額に、傷……?」
「どうした?何か気になる事でも?」
「い、いえ……。あなたの奥さんの事などどうだって良いわ。さぁ、早くお茶にしましょう!」
そう言って、ダミアンから荷物を受け取るも……私は、もう殆ど忘れかけて居たある昔の出来事を思い出すのだった──。
「待ってよ、ちゃんと報酬分の仕事をしてからにしなさいよ!私とダミアンが結ばれたら、成功報酬として別にお金を出してあげるつもりだから!」
「そんな事言われても、腕を片方やられては何も出来ませんよ!他に腕の立つ奴を紹介しますから……ミラージュ様、もう勘弁してて下さい!」
そう言って、腕に包帯をグルグルと巻き付けた男は半泣きで部屋を飛び出して行った。
「フン、役立たずめ!良いわよ、他にも使えそうな駒は沢山居るんだから──。」
私は、勢いよく閉まった扉に向けてベーッと舌を出した。
この可愛くて色気のある私には、昔から……学園時代から今に渡る迄、数多くの取り巻き達が存在して居た。
先程部屋を出て行った男も、その一人だ。
あれは学園時代からの、最も古い取り巻きで……学園時代も何かと私の命令通りに動き、役に立ってくれて居た。
まぁ、一度大失敗して私に迷惑をかけたけれど……でもそれでもあれは私を想い続け、もう一度チャンスが欲しい……昔と同じように傍に置いて欲しいと必死に願って来たから、お情けで再び使ってあげる事にしたのだけれど──。
「……あれだけ反省して居たから、今回はと期待してあげたのにダメだったか。それにしても、あいつは体も大きくて力も強いからすぐにあの女など傷物に出来ると思ったのに……。エリザベスの奴め、一体どんな護衛を傍に置いたのよ──。」
そう思いブツブツ呟いて居ると、部屋のドアが開き愛するダミアンが入って来た。
「ダミアン、来てくれたのね!」
「ミラージュ、君の好きな紅茶の葉とお菓子を買って来たよ。それはそうと……君の家の前で、怪我をした大男とすれ違ったが……もしや君の客人か?まさか、何か変な事はされて居ないだろうな!?」
「だ、大丈夫よ。それに、私はそんな人は全く知らないわ。」
「そうか、だったら良いが。」
そう言って、ダミアンはホッと胸を撫でおろした。
危ない危ない。
ダミアンにはあの男との関係や……ましてやエリザベスを襲わせた事など、一切秘密にしてあるのよね。
だって私がそんな過激な女だなんて、愛するダミアンには知られたくないもの。
誰だって、愛する人の前では良い子で居たいものよ。
私は、いつだって可憐で愛らしいミラージュよ──。
「実は、俺の妻……エリザベスが身を守る為だと護衛を付けて居てな。あんな地味な女を襲う者は居ないと常々思って居たが、どうやら町で男にちょっかいをかけられたらしい。全く、世の中には物好きも居たものだ。」
「そ、そうなの。」
「だが、その護衛と言うのが鬱陶しく髪を伸ばし分厚い眼鏡をかけた冴えない男でな……。僅かに見えた額にはうっすら傷があったし、きっと他の部分も醜いんだろう。」
「額に、傷……?」
「どうした?何か気になる事でも?」
「い、いえ……。あなたの奥さんの事などどうだって良いわ。さぁ、早くお茶にしましょう!」
そう言って、ダミアンから荷物を受け取るも……私は、もう殆ど忘れかけて居たある昔の出来事を思い出すのだった──。
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