夫のかつての婚約者が現れて、離縁を求めて来ました──。

Nao*

文字の大きさ
上 下
4 / 10

4

しおりを挟む
「どうだ、最近はミラージュ……あの女の来訪は無いか?」

「ダミアン……お帰りなさい。大丈夫よ、あれきり彼女はここには来て居ないわ。」

「そうか、ならば結構だ。」



 数日振りに帰宅したダミアンに、私はすぐに駆け寄りギュッと抱き着いた。

 そしてその後、私は彼から上着を受け取ると客間へと促した。



「実はね、護衛を兼ねて新しい使用人を雇う事にしたの。男の使用人が一人辞めてしまって、力仕事を任せる者が居なかったでしょう?」

「そうだったな。で、それがその男と言う訳か。」



 そう言って、ダミアンは目の前に座った男を見た。

 しかしすぐに私の方を振り返ると、手招きして私を近くに呼び寄せた。


 
「何かしら?」

「……いや、何だか野暮ったい男だな。使用人は良いとして、こいつに護衛が務まるのか?雇うと言う事は、金を支払うと言う事だろう?役に立たない者に支払う余分な金など、この家には無いぞ?」

「そんな事は言わないで頂戴。彼は十分強いわよ?この前だって、街で変な男に絡まれた時もちゃんと助けてくれたのだから──。」

「何、そんな事があったのか?そうか……それなりに役に立っては居るのだな。だったら構わない、これからも何かと守って貰えばいい。」

「……はい、そうします。」



 言いたい事を全て言い終えたのか、ダミアンは仕事で疲れた……一休みすると言って自室へと向かった。

 そして私は……そんなダミアンの背中を、冷めた目で見送るのだった。




 少し前の私なら、彼の帰りに喜び……久しぶりの夫婦の時間を楽しもうとその背中に抱き着き引き留めた事でしょう。

 でも、今はとてもそんな気持ちにはなれない──。



「ごめんなさい、夫が失礼な事を。」

「……いえ、この見た目ですから。いずれ改めます。」

 そう言って、使用人兼護衛の彼……アーサーは目を伏せた。



「それで、この前あなたを襲った男ですが……まだあなたの事を諦めず、家の近くをウロウロして居たので今度はしっかり痛めつけておきました。それきりもう二度と姿を現さないので、今度こそは諦めたのかと──。」

「ありがとう。それで、その男はやはりあの女の──?」

「そうです。あの右腕の傷……何よりあの巨体、間違いないです。この俺が見間違う訳がありません。それと、こちらはダミアン様の部屋に隠してあった過去の日記です。こちらに、あなたへの想いなどが色々と綴られております。」

 アーサーから早速それを受け取り、その中身を一通り拝見した私は思わず眉を顰めてしまった。



 ダミアン……あなたのかつての婚約者は、あなたが思って居るような女では無いわよ?
 
 そんな彼女は、あなたと一緒になる事を望んで居るけれど……どうやらダミアン、あなたも同じ気持ちのようね。

 私を心配する振りをしながら、本当はあなたは──。



 彼女に離縁を要求されるまでもない。

 あなたのような人など、こちらから離縁を言い渡す事にするから──。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私だけが赤の他人

有沢真尋
恋愛
 私は母の不倫により、愛人との間に生まれた不義の子だ。  この家で、私だけが赤の他人。そんな私に、家族は優しくしてくれるけれど……。 (他サイトにも公開しています)

私を売女と呼んだあなたの元に戻るはずありませんよね?

ミィタソ
恋愛
アインナーズ伯爵家のレイナは、幼い頃からリリアナ・バイスター伯爵令嬢に陰湿ないじめを受けていた。 レイナには、親同士が決めた婚約者――アインス・ガルタード侯爵家がいる。 アインスは、その艶やかな黒髪と怪しい色気を放つ紫色の瞳から、令嬢の間では惑わしのアインス様と呼ばれるほど人気があった。 ある日、パーティに参加したレイナが一人になると、子爵家や男爵家の令嬢を引き連れたリリアナが現れ、レイナを貶めるような酷い言葉をいくつも投げかける。 そして、事故に見せかけるようにドレスの裾を踏みつけられたレイナは、転んでしまう。 上まで避けたスカートからは、美しい肌が見える。 「売女め、婚約は破棄させてもらう!」

学生のうちは自由恋愛を楽しもうと彼は言った

mios
恋愛
学園を卒業したらすぐに、私は婚約者と結婚することになる。 学生の間にすることはたくさんありますのに、あろうことか、自由恋愛を楽しみたい? 良いですわ。学生のうち、と仰らなくても、今後ずっと自由にして下さって良いのですわよ。 9話で完結

王太子殿下に婚約者がいるのはご存知ですか?

通木遼平
恋愛
フォルトマジア王国の王立学院で卒業を祝う夜会に、マレクは卒業する姉のエスコートのため参加をしていた。そこに来賓であるはずの王太子が平民の卒業生をエスコートして現れた。 王太子には婚約者がいるにも関わらず、彼の在学時から二人の関係は噂されていた。 周囲のざわめきをよそに何事もなく夜会をはじめようとする王太子の前に数名の令嬢たちが進み出て――。 ※以前他のサイトで掲載していた作品です

契約婚なのだから契約を守るべきでしたわ、旦那様。

よもぎ
恋愛
白い結婚を三年間。その他いくつかの決まり事。アンネリーナはその条件を呑み、三年を過ごした。そうして結婚が終わるその日になって三年振りに会った戸籍上の夫に離縁を切り出されたアンネリーナは言う。追加の慰謝料を頂きます――

そんなにその方が気になるなら、どうぞずっと一緒にいて下さい。私は二度とあなたとは関わりませんので……。

しげむろ ゆうき
恋愛
 男爵令嬢と仲良くする婚約者に、何度注意しても聞いてくれない  そして、ある日、婚約者のある言葉を聞き、私はつい言ってしまうのだった 全五話 ※ホラー無し

【完結】王太子殿下が幼馴染を溺愛するので、あえて応援することにしました。

かとるり
恋愛
王太子のオースティンが愛するのは婚約者のティファニーではなく、幼馴染のリアンだった。 ティファニーは何度も傷つき、一つの結論に達する。 二人が結ばれるよう、あえて応援する、と。

【完結】私の婚約者は、親友の婚約者に恋してる。

山葵
恋愛
私の婚約者のグリード様には好きな人がいる。 その方は、グリード様の親友、ギルス様の婚約者のナリーシャ様。 2人を見詰め辛そうな顔をするグリード様を私は見ていた。

処理中です...