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 その夜……遅くに帰って来た夫ダミアンに、私は今日あった出来事……ミラージュと名乗った女の事を話した。



「まさかあなたに、そのような婚約者が居たとは知りませんでした。もしかして、私と子供を作りたがらなかった本当の理由は彼女ですか……?」

「いや、それは違う。確かに彼女は元婚約者だが……でも、もうとっくに終わった事だ。俺が子を望まないのは、本当に事業が忙しいからだよ。」

「……分かりました、今回はあなたの言う事を信じます。とりあえず今日の所は、あの女には帰って貰いましたから──。あなた抜きでは、離縁するかどうかなど決められませんもの。」

 そんな私の言葉に、ダミアンは安心したように微笑んで見せた。




「……でもまたあの女が家に押しかけるような事があっては困るので、護衛を付けさせて貰います。」

「いいんじゃないか?俺は忙しくてお前の傍に付いて居てやれないからな……。とにかく、そんな女の言う事など真に受けなくていい。俺の妻は、この先もお前だけなのだから──。」

 そう言って、ダミアンは私を引き寄せるとその胸にきつく抱きしめた。



 そして私は、久しぶりに感じたダミアンの温もりが嬉しく……彼の存在を確かめるように広い背中に手を回し、その胸に顔を埋めた。

 あれ、でもこの香り……先程、確かに──?



***



「……全く、いきなり家を訪ねるとはやりすぎだぞ?昨夜あいつに問い詰められた俺の気持ちを考えてくれよ。」

 そう文句を言いつつ……気だるげにベッドに横になる女の豊満な胸に、俺はグリグリと顔を埋めた。

 すると女は、快感に身を震わせつつも猫なで声でこう言った。



「だって……早くあなたと一緒になりたくて、我慢できなかったのだもの!ダミアン、怒らないで?もしかして……私の事、もう嫌いになっちゃった?」

「……なる訳ないだろう?ミラージュ……昔も今も、俺は君の事が大好きなのだから──。」

「やだもう、くすぐったい!」

 俺からの口づけを浴び、ミラージュはクスクスと可愛らしい笑い声を上げた。



 あいつには上手く誤魔化しておいたが……俺とミラージュの関係は、今もこうして密かに続いて居た。

 俺の父親が生きて居る時は、こうして頻繁に会う事は叶わなかったが……死んでからは幾度となく彼女と熱い夜を過ごし、そして幸せな朝を迎えて居たのだった。
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