2 / 7
2
しおりを挟む
こうして私は……女泣かせのサディストだと悪評高い、アルカディス様の元へと嫁いだのだった──。
何でもアルカディス様は、女を虐め楽しむ趣味があり……もし妻になろうものならその趣味に付き合わされ、毎夜泣かされる事になるだろう……などと恐ろしい噂を立てられて居た。
そしてそのような噂を聞いたアイリーンは、アルカディス様の事を大層恐れて居た。
『私、痛い思いをするのだけは嫌だわ。そんな悪趣味の男、絶対に関わりたくない──!』
と、断言して居た位だから……彼との結婚話が浮上すると、耐えきれず仲の良かった男と駆け落ちしてしまったのだろう。
そんな噂もあり、私は覚悟をしてアルカディス様と対面した。
「……旦那様。不束者ですが、今日よりお世話になります。」
「あぁ。」
するとアルカディス様は、私の挨拶にそっけない返事を返した。
そして客間から私をある部屋に連れて行き……ここが君の部屋だ、好きにすると良いとだけ告げ去って行ってしまうのだった。
え……たったそれだけのやり取りでお終いなの?
これから夫婦となるのに、何と素っ気ない態度なのか。
もしかして、花嫁としてやって来たのが妹のアイリーンではないと怪しんで居るのでは──?
アイリーンは気が利いて、おしゃべりも得意だからもっと良い挨拶が出来ただろうし……私、のっけから失敗しちゃったかしら。
色々と思う所はあったが……その後、私とアルカディス様は静かな夕食を終ると初めての夜を迎える事に──。
だが、そんな私を前にした彼の態度は相変わらず大層つれないものだった。
「君はそんな事しなくていい、自分の部屋で寝てくれ。」
「……え?」
ど、どうして?
彼は、女をいたぶるのが好きなサディストなんじゃ……。
だから私、覚悟を決めて彼の元に来たのに──。
訝し気な顔で突っ立ったままの私に、アルカディス様はもう一度部屋に戻るようにと言うと……戸惑う私を残し、自身の部屋の中へと戻って行くのだった。
そしてそれからも、彼から夜の誘いは一向にかかる事は無く……私は、与えられた部屋で朝を迎えるのだった。
あの悪い噂は、ただの間違いだったのかしら?
もしくは……彼をそうさせるだけの魅力が、私には無いという事かしらね──。
と、夜の生活については予定外の状況が続いて居たが……昼間の生活に関しては特に不満もなく、むしろ順調そのものの日々を私達は送って居た。
というのも……私とアルカディス様は互いにお喋りではなく……それぞれに本を読んだり絵を描いたりと、それぞれに静かな時間を過ごして居た。
しかしふと手を止め、お茶にしようと私が思うと……彼も丁度そう思ったのだろう。
目が合った私に対し、せっかくなら一緒にお茶にしようかと誘ってくれた。
そしてそう言う事が重なる内に、私達は自然と同じ時間を過ごすようになって行ったのだ。
お茶の間も、特に話が弾む訳でもないが……私達の間にゆったりと流れるこの時間に、私は自然と心地よさを感じるように──。
アイリーンとしてではなく、いつかは私本人を見て欲しいが……そんな裏切りを彼はどう思うか。
父達は私をアイリーンとしてここに嫁がせ、彼もそうだと思い受け入れたのだから、それは難しいだろう。
でもここに来て、アルカディス様とそんな穏やかな時間を過ごす内……私が付けて居たアイリーンの仮面は、既にボロボロと剥がれ落ちかけて居るのだった。
こうしてのんびりお茶の時間を楽しんで居る私達は、傍から見たらどこにでも居る、ごく普通の夫婦だろう。
でも、未だに私達の間に夜の生活は無い。
アイリーンとは双子故に、顔も身体つきも同じで……殿方を不快にさせるような見てくれをしてはいないと思う。
ならばどうして、アルカディス様は一向に私を求めては来ないのか……彼は何を考えて居るのだろう──。
何でもアルカディス様は、女を虐め楽しむ趣味があり……もし妻になろうものならその趣味に付き合わされ、毎夜泣かされる事になるだろう……などと恐ろしい噂を立てられて居た。
そしてそのような噂を聞いたアイリーンは、アルカディス様の事を大層恐れて居た。
『私、痛い思いをするのだけは嫌だわ。そんな悪趣味の男、絶対に関わりたくない──!』
と、断言して居た位だから……彼との結婚話が浮上すると、耐えきれず仲の良かった男と駆け落ちしてしまったのだろう。
そんな噂もあり、私は覚悟をしてアルカディス様と対面した。
「……旦那様。不束者ですが、今日よりお世話になります。」
「あぁ。」
するとアルカディス様は、私の挨拶にそっけない返事を返した。
そして客間から私をある部屋に連れて行き……ここが君の部屋だ、好きにすると良いとだけ告げ去って行ってしまうのだった。
え……たったそれだけのやり取りでお終いなの?
これから夫婦となるのに、何と素っ気ない態度なのか。
もしかして、花嫁としてやって来たのが妹のアイリーンではないと怪しんで居るのでは──?
アイリーンは気が利いて、おしゃべりも得意だからもっと良い挨拶が出来ただろうし……私、のっけから失敗しちゃったかしら。
色々と思う所はあったが……その後、私とアルカディス様は静かな夕食を終ると初めての夜を迎える事に──。
だが、そんな私を前にした彼の態度は相変わらず大層つれないものだった。
「君はそんな事しなくていい、自分の部屋で寝てくれ。」
「……え?」
ど、どうして?
彼は、女をいたぶるのが好きなサディストなんじゃ……。
だから私、覚悟を決めて彼の元に来たのに──。
訝し気な顔で突っ立ったままの私に、アルカディス様はもう一度部屋に戻るようにと言うと……戸惑う私を残し、自身の部屋の中へと戻って行くのだった。
そしてそれからも、彼から夜の誘いは一向にかかる事は無く……私は、与えられた部屋で朝を迎えるのだった。
あの悪い噂は、ただの間違いだったのかしら?
もしくは……彼をそうさせるだけの魅力が、私には無いという事かしらね──。
と、夜の生活については予定外の状況が続いて居たが……昼間の生活に関しては特に不満もなく、むしろ順調そのものの日々を私達は送って居た。
というのも……私とアルカディス様は互いにお喋りではなく……それぞれに本を読んだり絵を描いたりと、それぞれに静かな時間を過ごして居た。
しかしふと手を止め、お茶にしようと私が思うと……彼も丁度そう思ったのだろう。
目が合った私に対し、せっかくなら一緒にお茶にしようかと誘ってくれた。
そしてそう言う事が重なる内に、私達は自然と同じ時間を過ごすようになって行ったのだ。
お茶の間も、特に話が弾む訳でもないが……私達の間にゆったりと流れるこの時間に、私は自然と心地よさを感じるように──。
アイリーンとしてではなく、いつかは私本人を見て欲しいが……そんな裏切りを彼はどう思うか。
父達は私をアイリーンとしてここに嫁がせ、彼もそうだと思い受け入れたのだから、それは難しいだろう。
でもここに来て、アルカディス様とそんな穏やかな時間を過ごす内……私が付けて居たアイリーンの仮面は、既にボロボロと剥がれ落ちかけて居るのだった。
こうしてのんびりお茶の時間を楽しんで居る私達は、傍から見たらどこにでも居る、ごく普通の夫婦だろう。
でも、未だに私達の間に夜の生活は無い。
アイリーンとは双子故に、顔も身体つきも同じで……殿方を不快にさせるような見てくれをしてはいないと思う。
ならばどうして、アルカディス様は一向に私を求めては来ないのか……彼は何を考えて居るのだろう──。
8
お気に入りに追加
81
あなたにおすすめの小説
【完結】高嶺の花がいなくなった日。
紺
恋愛
侯爵令嬢ルノア=ダリッジは誰もが認める高嶺の花。
清く、正しく、美しくーーそんな彼女がある日忽然と姿を消した。
婚約者である王太子、友人の子爵令嬢、教師や使用人たちは彼女の失踪を機に大きく人生が変わることとなった。
※ざまぁ展開多め、後半に恋愛要素あり。
「聖女に比べてお前には癒しが足りない」と婚約破棄される将来が見えたので、医者になって彼を見返すことにしました。
ぽんぽこ@書籍発売中!!
恋愛
「ジュリア=ミゲット。お前のようなお飾りではなく、俺の病気を癒してくれるマリーこそ、王妃に相応しいのだ!!」
侯爵令嬢だったジュリアはアンドレ王子の婚約者だった。王妃教育はあんまり乗り気ではなかったけれど、それが役目なのだからとそれなりに頑張ってきた。だがそんな彼女はとある夢を見た。三年後の婚姻式で、アンドレ王子に婚約破棄を言い渡される悪夢を。
「……認めませんわ。あんな未来は絶対にお断り致します」
そんな夢を回避するため、ジュリアは行動を開始する。
【完結】王女殿下、こんなあざとい婚約者(♂)でよければ差し上げます。
紺
恋愛
侯爵令嬢のステラは男でありながら自分よりも小さく可愛い婚約者に頭を悩ませていた。更に彼は王女のお気に入りで、何かと泣きついてはステラを悪者に仕立て上げるというあざとい一面も……。
どんなに周りから笑われようと、王女のストレス発散役になろうとも家のために我慢してきた彼女だが、ある事件をきっかけについに堪忍袋の緒が切れてしまう。
「王女殿下、そんなあざとい婚約者でよろしければどうぞ貰って下さい」
ザマァ必須。無自覚愛されヒロイン。
誤字脱字にご注意ください。
【短編】悪役令嬢と蔑まれた私は史上最高の遺書を書く
とによ
恋愛
婚約破棄され、悪役令嬢と呼ばれ、いじめを受け。
まさに不幸の役満を食らった私――ハンナ・オスカリウスは、自殺することを決意する。
しかし、このままただで死ぬのは嫌だ。なにか私が生きていたという爪痕を残したい。
なら、史上最高に素晴らしい出来の遺書を書いて、自殺してやろう!
そう思った私は全身全霊で遺書を書いて、私の通っている魔法学園へと自殺しに向かった。
しかし、そこで謎の美男子に見つかってしまい、しまいには遺書すら読まれてしまう。
すると彼に
「こんな遺書じゃダメだね」
「こんなものじゃ、誰の記憶にも残らないよ」
と思いっきりダメ出しをされてしまった。
それにショックを受けていると、彼はこう提案してくる。
「君の遺書を最高のものにしてみせる。その代わり、僕の研究を手伝ってほしいんだ」
これは頭のネジが飛んでいる彼について行った結果、彼と共に歴史に名を残してしまう。
そんなお話。
魔がさしたから浮気したと言うのなら、私に魔がさしても文句を言わないでくださいね?
新野乃花(大舟)
恋愛
しきりに魔がさしたという言葉を使い、自分の浮気を正当化していた騎士のリルド。そんな彼の婚約者だったクレアはある日、その言葉をそのままリルドに対してお返ししてみようと考えたのだった。
【番外編】わたしのことがお嫌いなら、離縁してください~メイド達と元伯爵夫人のその後~
絹乃
恋愛
伯爵夫人のフロレンシアは、ようやく夫から離縁してもらえた。夫のディマスは爵位を剥奪され、メイド達は解雇される。夫に愛されないフロレンシアを蔑み、虐待したメイドや侍女のその後。そしてフロレンシアを愛する騎士のエミリオの日常のお話です。
夫に惚れた友人がよく遊びに来るんだが、夫に「不倫するつもりはない」と言われて来なくなった。
ほったげな
恋愛
夫のカジミールはイケメンでモテる。友人のドーリスがカジミールに惚れてしまったようで、よくうちに遊びに来て「食事に行きませんか?」と夫を誘う。しかし、夫に「迷惑だ」「不倫するつもりはない」と言われてから来なくなった。
せっかく家の借金を返したのに、妹に婚約者を奪われて追放されました。でも、気にしなくていいみたいです。私には頼れる公爵様がいらっしゃいますから
甘海そら
恋愛
ヤルス伯爵家の長女、セリアには商才があった。
であれば、ヤルス家の借金を見事に返済し、いよいよ婚礼を間近にする。
だが、
「セリア。君には悪いと思っているが、私は運命の人を見つけたのだよ」
婚約者であるはずのクワイフからそう告げられる。
そのクワイフの隣には、妹であるヨカが目を細めて笑っていた。
気がつけば、セリアは全てを失っていた。
今までの功績は何故か妹のものになり、婚約者もまた妹のものとなった。
さらには、あらぬ悪名を着せられ、屋敷から追放される憂き目にも会う。
失意のどん底に陥ることになる。
ただ、そんな時だった。
セリアの目の前に、かつての親友が現れた。
大国シュリナの雄。
ユーガルド公爵家が当主、ケネス・トルゴー。
彼が仏頂面で手を差し伸べてくれば、彼女の運命は大きく変化していく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる