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 こうして私は……女泣かせのサディストだと悪評高い、アルカディス様の元へと嫁いだのだった──。



 何でもアルカディス様は、女を虐め楽しむ趣味があり……もし妻になろうものならその趣味に付き合わされ、毎夜泣かされる事になるだろう……などと恐ろしい噂を立てられて居た。



 そしてそのような噂を聞いたアイリーンは、アルカディス様の事を大層恐れて居た。

『私、痛い思いをするのだけは嫌だわ。そんな悪趣味の男、絶対に関わりたくない──!』



 と、断言して居た位だから……彼との結婚話が浮上すると、耐えきれず仲の良かった男と駆け落ちしてしまったのだろう。




 そんな噂もあり、私は覚悟をしてアルカディス様と対面した。

「……旦那様。不束者ですが、今日よりお世話になります。」

「あぁ。」



 するとアルカディス様は、私の挨拶にそっけない返事を返した。

 そして客間から私をある部屋に連れて行き……ここが君の部屋だ、好きにすると良いとだけ告げ去って行ってしまうのだった。




 え……たったそれだけのやり取りでお終いなの?

 これから夫婦となるのに、何と素っ気ない態度なのか。

 もしかして、花嫁としてやって来たのが妹のアイリーンではないと怪しんで居るのでは──?



 アイリーンは気が利いて、おしゃべりも得意だからもっと良い挨拶が出来ただろうし……私、のっけから失敗しちゃったかしら。



 色々と思う所はあったが……その後、私とアルカディス様は静かな夕食を終ると初めての夜を迎える事に──。




 だが、そんな私を前にした彼の態度は相変わらず大層つれないものだった。

「君はそんな事しなくていい、自分の部屋で寝てくれ。」

「……え?」



 ど、どうして?

 彼は、女をいたぶるのが好きなサディストなんじゃ……。

 だから私、覚悟を決めて彼の元に来たのに──。



 訝し気な顔で突っ立ったままの私に、アルカディス様はもう一度部屋に戻るようにと言うと……戸惑う私を残し、自身の部屋の中へと戻って行くのだった。




 そしてそれからも、彼から夜の誘いは一向にかかる事は無く……私は、与えられた部屋で朝を迎えるのだった。



 あの悪い噂は、ただの間違いだったのかしら?

 もしくは……彼をそうさせるだけの魅力が、私には無いという事かしらね──。



 と、夜の生活については予定外の状況が続いて居たが……昼間の生活に関しては特に不満もなく、むしろ順調そのものの日々を私達は送って居た。



 というのも……私とアルカディス様は互いにお喋りではなく……それぞれに本を読んだり絵を描いたりと、それぞれに静かな時間を過ごして居た。



 しかしふと手を止め、お茶にしようと私が思うと……彼も丁度そう思ったのだろう。

 目が合った私に対し、せっかくなら一緒にお茶にしようかと誘ってくれた。

 そしてそう言う事が重なる内に、私達は自然と同じ時間を過ごすようになって行ったのだ。



 お茶の間も、特に話が弾む訳でもないが……私達の間にゆったりと流れるこの時間に、私は自然と心地よさを感じるように──。



 アイリーンとしてではなく、いつかは私本人を見て欲しいが……そんな裏切りを彼はどう思うか。

 父達は私をアイリーンとしてここに嫁がせ、彼もそうだと思い受け入れたのだから、それは難しいだろう。

 でもここに来て、アルカディス様とそんな穏やかな時間を過ごす内……私が付けて居たアイリーンの仮面は、既にボロボロと剥がれ落ちかけて居るのだった。

 

 こうしてのんびりお茶の時間を楽しんで居る私達は、傍から見たらどこにでも居る、ごく普通の夫婦だろう。

 でも、未だに私達の間に夜の生活は無い。


 
 アイリーンとは双子故に、顔も身体つきも同じで……殿方を不快にさせるような見てくれをしてはいないと思う。

 ならばどうして、アルカディス様は一向に私を求めては来ないのか……彼は何を考えて居るのだろう──。
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