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密航者
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俺達は漁民から適当な大きさの船を借り受け、数日分の水や食料を詰め込んだ。
「天候は大丈夫かな?」
「へい、数日は凪ぎが続くでしょう。漁に出るにはいい日よりだったんですがね……」
海が荒れては流石に出航は無理だからな。地元の漁民に海の天候を聞いた上で、出発する事を決めた。彼等が漁にでないのは、海賊に殺された村人の弔いが終わっていないからだ。
「悪ぃな。でも、桃姫様を信じてくれ。悪いようにはしない」
「へえ……」
気を落としている漁民を励ます言葉をかけ、俺達は船に乗り込んだ。俺とおなつさん、孫左衛門達護衛四人の計六人。
これだけの人数と荷物を積み込むからにはそれなりに大きな船だ。俺は船の操舵とかはさっぱりだが、おなつさんを初め他の連中も全員大丈夫との事だ。さすが海の拠点伊豆下田城の家臣たちだな。
さて、出航して半刻ほど経っただろうか。好天、微風、視界良好、海は凪ぎ。帆に受ける風は弱いので速度は出ていないが、それなりに快適と呼べる航海だと思う。船首に立って彼方を見るが、まだまだ目的の島は見えないとの事だ。
ふと横を見れば、腰かけるのにちょうどいいような、大き目の木箱が置いてあった。こりゃあいいと、遠慮なくどしんと腰かける。
「(ひっ……)」
ん? 今何か聞こえたような……?
俺はその箱をコンコンと叩いてみた。
――ガタガタ
うん、絶対何か入ってる。ネズミか猫か、それとも……
「あっ!」
「あ……見つかっちゃいました」
木箱の箱をそうっと開けてみると、そこから出てきたのはネズミでも猫でもなく。
「も、もも、桃姫様ぁ!?」
なぜここに桃姫様が。
これはまずい。非常にまずい。
今頃陸の方じゃ大騒ぎになってるはずだ。
「ちょっ!? 姫様?」
「あらおなつ。あなただったのね」
「あらおなつ、じゃありませんよ! ちょっとこっちに来て下さい!」
忍び装束のおなつさんも、桃姫様を見つけて大混乱だ。自分が隠密だという事も忘れて地声を出し、口を隠していた頭巾も外してしまったそんなおなつさんが、桃姫様の袖を引っ張り船室の中へ連れていった。
その様子を見ていた護衛の四人も、桃姫様が紛れ込んでいた事と、さらに隠密がおなつさんだった事に驚きまくっている。まあ、しゃーないわな。でも、桃姫様の事はしゃーないでは済まされねえ。少しお灸を据えてやらんとな。
「え? でもちゃんと書置きしてきましたよ?」
おなつさんにより船室に連れ込まれた桃姫様は、特に悪びれる事なく首を傾げていた。なぜみんなこんなに怒っているのだろうと。ちくしょう、あんまりにも可愛くて怒れねえよ。おなつさん、頼んだ。
「でもじゃありません! この程度の護衛人数しかいないのに、姫様が島に乗り込むと分かったら、村に待機していた皆様がどう動くか分からないのですか?」
ホント、おなつさんの言う通りなんだよ。これは絶対に城に戻って水軍を編成して利島を攻撃する準備をするに違いない。それがもし、俺達が海賊と交渉している最中だったら、恐らくぶち壊しになる事間違いない。最悪の場合は俺達は皆殺し、桃姫様は人質。いい事なんて一つもありゃしない。
その事はおなつさんも重々承知のようで、桃姫様にちくちくと説教を続けていた。桃姫様は正座で項垂れている。ああ、助けてやりたい。でもダメだな。これはみんなの命が掛かってる事だし。
「……ったんです……」
「はい? なんです?」
蚊の鳴くよう声で何かを呟く桃姫様が、何を言ったのかは聞き取れなかった。一番近くにいるおなつさんですら聞こえなかったらしい。
「弥五郎が心配だったんですっ!」
「な……」
おなつさん、絶句。他の護衛達も顎が外れる程口を開いたまま固まっている。
当の桃姫様は、顔を真っ赤にして俯いてしまった。いや、俺もちょっとどうしたらいいのか分からん。困った。
「おいおい弥五郎殿?」
一番早く復活した孫左衛門が、ニタニタと笑いながら肩を組んできた。
「姫様が暴走しちまったのはあんたのせいだとさ。こりゃあ、責任取らなきゃいけないねぇ?」
「このこの! ニクイでござるな弥五郎殿!」
孫左衛門の一言を切っ掛けに、他の三人の護衛も冷やかし始めた。つか、お前らなんで全員ここにいるんだよ? 舵取りはどうした?
「ちっ、違うのです! 大切な家臣の弥五郎を一人敵中に送り込むのが心配なのです! 決して一人の殿方としてとかそういう事では……」
「え? 違うんですか……」
あまりにも桃姫様が必死で弁解するから、上げて落とされた俺はしょんぼりだ。
「あ、いやっ! 違うけど違わないのです! ああ……困りました」
俺がしょんぼりした事で桃姫様があわあわしだした。そして両手で顔を隠してもじもじしている。なにこれ可愛い。
だけどここまで来ちまって引き返すのもなあ。こうなっちまったもんは仕方ねえだろ。桃姫様は船で待機、島に上陸するのは俺と孫左衛門だけでいいか。桃姫様を危険に晒す訳にはいかねえからな。
「天候は大丈夫かな?」
「へい、数日は凪ぎが続くでしょう。漁に出るにはいい日よりだったんですがね……」
海が荒れては流石に出航は無理だからな。地元の漁民に海の天候を聞いた上で、出発する事を決めた。彼等が漁にでないのは、海賊に殺された村人の弔いが終わっていないからだ。
「悪ぃな。でも、桃姫様を信じてくれ。悪いようにはしない」
「へえ……」
気を落としている漁民を励ます言葉をかけ、俺達は船に乗り込んだ。俺とおなつさん、孫左衛門達護衛四人の計六人。
これだけの人数と荷物を積み込むからにはそれなりに大きな船だ。俺は船の操舵とかはさっぱりだが、おなつさんを初め他の連中も全員大丈夫との事だ。さすが海の拠点伊豆下田城の家臣たちだな。
さて、出航して半刻ほど経っただろうか。好天、微風、視界良好、海は凪ぎ。帆に受ける風は弱いので速度は出ていないが、それなりに快適と呼べる航海だと思う。船首に立って彼方を見るが、まだまだ目的の島は見えないとの事だ。
ふと横を見れば、腰かけるのにちょうどいいような、大き目の木箱が置いてあった。こりゃあいいと、遠慮なくどしんと腰かける。
「(ひっ……)」
ん? 今何か聞こえたような……?
俺はその箱をコンコンと叩いてみた。
――ガタガタ
うん、絶対何か入ってる。ネズミか猫か、それとも……
「あっ!」
「あ……見つかっちゃいました」
木箱の箱をそうっと開けてみると、そこから出てきたのはネズミでも猫でもなく。
「も、もも、桃姫様ぁ!?」
なぜここに桃姫様が。
これはまずい。非常にまずい。
今頃陸の方じゃ大騒ぎになってるはずだ。
「ちょっ!? 姫様?」
「あらおなつ。あなただったのね」
「あらおなつ、じゃありませんよ! ちょっとこっちに来て下さい!」
忍び装束のおなつさんも、桃姫様を見つけて大混乱だ。自分が隠密だという事も忘れて地声を出し、口を隠していた頭巾も外してしまったそんなおなつさんが、桃姫様の袖を引っ張り船室の中へ連れていった。
その様子を見ていた護衛の四人も、桃姫様が紛れ込んでいた事と、さらに隠密がおなつさんだった事に驚きまくっている。まあ、しゃーないわな。でも、桃姫様の事はしゃーないでは済まされねえ。少しお灸を据えてやらんとな。
「え? でもちゃんと書置きしてきましたよ?」
おなつさんにより船室に連れ込まれた桃姫様は、特に悪びれる事なく首を傾げていた。なぜみんなこんなに怒っているのだろうと。ちくしょう、あんまりにも可愛くて怒れねえよ。おなつさん、頼んだ。
「でもじゃありません! この程度の護衛人数しかいないのに、姫様が島に乗り込むと分かったら、村に待機していた皆様がどう動くか分からないのですか?」
ホント、おなつさんの言う通りなんだよ。これは絶対に城に戻って水軍を編成して利島を攻撃する準備をするに違いない。それがもし、俺達が海賊と交渉している最中だったら、恐らくぶち壊しになる事間違いない。最悪の場合は俺達は皆殺し、桃姫様は人質。いい事なんて一つもありゃしない。
その事はおなつさんも重々承知のようで、桃姫様にちくちくと説教を続けていた。桃姫様は正座で項垂れている。ああ、助けてやりたい。でもダメだな。これはみんなの命が掛かってる事だし。
「……ったんです……」
「はい? なんです?」
蚊の鳴くよう声で何かを呟く桃姫様が、何を言ったのかは聞き取れなかった。一番近くにいるおなつさんですら聞こえなかったらしい。
「弥五郎が心配だったんですっ!」
「な……」
おなつさん、絶句。他の護衛達も顎が外れる程口を開いたまま固まっている。
当の桃姫様は、顔を真っ赤にして俯いてしまった。いや、俺もちょっとどうしたらいいのか分からん。困った。
「おいおい弥五郎殿?」
一番早く復活した孫左衛門が、ニタニタと笑いながら肩を組んできた。
「姫様が暴走しちまったのはあんたのせいだとさ。こりゃあ、責任取らなきゃいけないねぇ?」
「このこの! ニクイでござるな弥五郎殿!」
孫左衛門の一言を切っ掛けに、他の三人の護衛も冷やかし始めた。つか、お前らなんで全員ここにいるんだよ? 舵取りはどうした?
「ちっ、違うのです! 大切な家臣の弥五郎を一人敵中に送り込むのが心配なのです! 決して一人の殿方としてとかそういう事では……」
「え? 違うんですか……」
あまりにも桃姫様が必死で弁解するから、上げて落とされた俺はしょんぼりだ。
「あ、いやっ! 違うけど違わないのです! ああ……困りました」
俺がしょんぼりした事で桃姫様があわあわしだした。そして両手で顔を隠してもじもじしている。なにこれ可愛い。
だけどここまで来ちまって引き返すのもなあ。こうなっちまったもんは仕方ねえだろ。桃姫様は船で待機、島に上陸するのは俺と孫左衛門だけでいいか。桃姫様を危険に晒す訳にはいかねえからな。
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