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壱
29.シスコン登場
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「兄さま!? 何故ここに!?」
マーリが『兄』と呼んだその男。身長は高くない。目測で160センチ程。顔はどちらかと言えばコミカルな造りをしている。真ん中で分けた紫色の髪が特徴的だが、どこにマーリとの共通の遺伝子があるのかコンタにも杏子にも分からなかった。
他に、お付きの騎士が二人いる。
そのマーリの『兄』が、『妹に相応しいかどうか見極めてやる!』と言い放つと、いきなり刃引きもしていない剣を抜き、コンタへと突進していった。
「きぃ~えぇぇぇぇぇ~~いっ!」
コンタは咄嗟にリフレクションフィールドを展開して、奇声を上げて斬りかかってくるマーリの『兄』を弾き飛ばす。
「ふんぎゃぁ~~っ」
「兄さま!? 兄さま!?」
弾き飛ばされ転がっていく『兄』を追いかけて行くマーリ。
コンタはデイジーに視線を振るが、デイジーは無言で首を振るのみ。マーリの『兄』に付き添って来た二人の騎士もこめかみを押さえている。
「ぐぬぬぬぬ……おのれ、魔法を使うとは卑怯な! よし! それなら素手で勝負だ!」
マーリの『兄』はマーリを振り払うように立ち上がると、呆れかえる台詞をコンタに飛ばした。そしてさらに、
「心配するな、マーリよ。お前に取り入ろうとする不届き者はこの俺が成敗してくれる!」
どうすんだんこれ? といった表情で、コンタはデイジー、杏子、そしてマーリの『兄』が連れてきたお付きの騎士を順に見渡した。
杏子以外の三人はコンタから目を逸らしたが、杏子だけはサムズアップした親指を下に向けた。
「どーん」
「了解だ」
コンタは杏子の仕草を見てそう呟き、ファイティングポーズを取る。元より格闘技経験者であるコンタは、武器を持つよりこっちのスタイルが馴染んでいる。
「問答無用で斬りかかってきたアンタが悪い」
大振りで殴りかかってくるマーリの『兄』に対し、コンタは一応の警告とも受け止められる言葉を発しながら、カウンターで回し蹴りを見舞う。
手と足。そのリーチの差は如何ともし難く、マーリの『兄』の拳は空しく空を切り、コンタの足はマーリの『兄』の横っ面にクリーンヒットする。
「おぶぁっ!?」
「兄さま!? 兄さま!?」
またもや吹っ飛ぶ『兄』を追いかけていくマーリを目で追うコンタと杏子。デイジーとお付きの騎士はやはりそっと目を逸らす。
それでも、このままではいろいろとマズいと思ったのか、デイジーがコンタに歩みより、小さな声で囁いた。
「あー、悪く思わないでくれ。若様は……その、マーリ様への愛情が、少々強すぎるきらいがあってだな……」
「つまり、重度のシスコン」
横で話を聞いていた杏子が、言いにくい事をズバリと言ってしまう。
「そ、そうなのだが、もう少し、こう、オブラートに包むように言ってくれないか? あれでも次期当主であり、マーリ様の事を除けばとでもいいお方なのだ」
デイジーが必死になってフォローしているようだが、コンタにしてみればいきなり剣を抜きながら奇声を上げて斬りかかってくる危険人物に過ぎない。
「いやいや、放置してたら危険じゃねえの? 今のうちに止めを刺しておくべきだと思うけど?」
そう言って、コンタと杏子はスタスタと『兄』の元へと歩いていく。
「ちょ!? いや、待って――」
そんなデイジーの制止の声もどこ吹く風といった雰囲気で、コンタと杏子はつかつかと『兄』の元へ歩み寄ると、杏子はMDDを装着した人差し指を、尻餅をついた状態の『兄』の股間付近へと向けた。
それを見たマーリは、自分達を襲おうとした盗賊達の末路を思い出したのか、急に焦り出した。
「兄さま! 謝って下さい! 直ぐにです! 誠心誠意、真心を込めてっ!!」
「な、なぜ俺が謝らねばならんのだ? 俺はただお前に付く悪い虫をだな――」
――ぴちゅん!
『兄』が全てを言い終える前に、無表情の杏子の指先から氷弾が放たれた。着弾したのは地面だが、その場所はまさに股間ギリギリである。
「おフッ!?」
その様子を見ていたコンタとお付きの騎士達は、思わず内股になる。
「兄さま! 謝罪を! この方々は私達をイーオンバレーから救ってくださった命の恩人なのですよ!? しかも、相手が貴族だろうが領主だろうが、理不尽な存在には容赦がありません! 兄さまも御覧になったでしょう? あのイーオンバレーの魂の抜けたような様を!」
「し、しかし……」
マーリの説得にも関わらず尚グズグズしている『兄』の様子についにマーリがキレた。
「もう、兄さまなんて大っ嫌いっ!」
――いっ嫌い……
――っ嫌い……
――きらい……
――らい らい らい……
「すみませんでしたぁっ!!」
マーリの声が残響するなか、見事な土下座をする『兄』だった。
マーリが『兄』と呼んだその男。身長は高くない。目測で160センチ程。顔はどちらかと言えばコミカルな造りをしている。真ん中で分けた紫色の髪が特徴的だが、どこにマーリとの共通の遺伝子があるのかコンタにも杏子にも分からなかった。
他に、お付きの騎士が二人いる。
そのマーリの『兄』が、『妹に相応しいかどうか見極めてやる!』と言い放つと、いきなり刃引きもしていない剣を抜き、コンタへと突進していった。
「きぃ~えぇぇぇぇぇ~~いっ!」
コンタは咄嗟にリフレクションフィールドを展開して、奇声を上げて斬りかかってくるマーリの『兄』を弾き飛ばす。
「ふんぎゃぁ~~っ」
「兄さま!? 兄さま!?」
弾き飛ばされ転がっていく『兄』を追いかけて行くマーリ。
コンタはデイジーに視線を振るが、デイジーは無言で首を振るのみ。マーリの『兄』に付き添って来た二人の騎士もこめかみを押さえている。
「ぐぬぬぬぬ……おのれ、魔法を使うとは卑怯な! よし! それなら素手で勝負だ!」
マーリの『兄』はマーリを振り払うように立ち上がると、呆れかえる台詞をコンタに飛ばした。そしてさらに、
「心配するな、マーリよ。お前に取り入ろうとする不届き者はこの俺が成敗してくれる!」
どうすんだんこれ? といった表情で、コンタはデイジー、杏子、そしてマーリの『兄』が連れてきたお付きの騎士を順に見渡した。
杏子以外の三人はコンタから目を逸らしたが、杏子だけはサムズアップした親指を下に向けた。
「どーん」
「了解だ」
コンタは杏子の仕草を見てそう呟き、ファイティングポーズを取る。元より格闘技経験者であるコンタは、武器を持つよりこっちのスタイルが馴染んでいる。
「問答無用で斬りかかってきたアンタが悪い」
大振りで殴りかかってくるマーリの『兄』に対し、コンタは一応の警告とも受け止められる言葉を発しながら、カウンターで回し蹴りを見舞う。
手と足。そのリーチの差は如何ともし難く、マーリの『兄』の拳は空しく空を切り、コンタの足はマーリの『兄』の横っ面にクリーンヒットする。
「おぶぁっ!?」
「兄さま!? 兄さま!?」
またもや吹っ飛ぶ『兄』を追いかけていくマーリを目で追うコンタと杏子。デイジーとお付きの騎士はやはりそっと目を逸らす。
それでも、このままではいろいろとマズいと思ったのか、デイジーがコンタに歩みより、小さな声で囁いた。
「あー、悪く思わないでくれ。若様は……その、マーリ様への愛情が、少々強すぎるきらいがあってだな……」
「つまり、重度のシスコン」
横で話を聞いていた杏子が、言いにくい事をズバリと言ってしまう。
「そ、そうなのだが、もう少し、こう、オブラートに包むように言ってくれないか? あれでも次期当主であり、マーリ様の事を除けばとでもいいお方なのだ」
デイジーが必死になってフォローしているようだが、コンタにしてみればいきなり剣を抜きながら奇声を上げて斬りかかってくる危険人物に過ぎない。
「いやいや、放置してたら危険じゃねえの? 今のうちに止めを刺しておくべきだと思うけど?」
そう言って、コンタと杏子はスタスタと『兄』の元へと歩いていく。
「ちょ!? いや、待って――」
そんなデイジーの制止の声もどこ吹く風といった雰囲気で、コンタと杏子はつかつかと『兄』の元へ歩み寄ると、杏子はMDDを装着した人差し指を、尻餅をついた状態の『兄』の股間付近へと向けた。
それを見たマーリは、自分達を襲おうとした盗賊達の末路を思い出したのか、急に焦り出した。
「兄さま! 謝って下さい! 直ぐにです! 誠心誠意、真心を込めてっ!!」
「な、なぜ俺が謝らねばならんのだ? 俺はただお前に付く悪い虫をだな――」
――ぴちゅん!
『兄』が全てを言い終える前に、無表情の杏子の指先から氷弾が放たれた。着弾したのは地面だが、その場所はまさに股間ギリギリである。
「おフッ!?」
その様子を見ていたコンタとお付きの騎士達は、思わず内股になる。
「兄さま! 謝罪を! この方々は私達をイーオンバレーから救ってくださった命の恩人なのですよ!? しかも、相手が貴族だろうが領主だろうが、理不尽な存在には容赦がありません! 兄さまも御覧になったでしょう? あのイーオンバレーの魂の抜けたような様を!」
「し、しかし……」
マーリの説得にも関わらず尚グズグズしている『兄』の様子についにマーリがキレた。
「もう、兄さまなんて大っ嫌いっ!」
――いっ嫌い……
――っ嫌い……
――きらい……
――らい らい らい……
「すみませんでしたぁっ!!」
マーリの声が残響するなか、見事な土下座をする『兄』だった。
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