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76.久しぶりのソドー城
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マーリ達にレベッカの事情を話し、この先はハンター『ベック』として活動する旨を伝えたあと、一行はマーリが乗ってきた馬車へと乗り込み、ソドー城へと向かった。
「なるほど、それではこのまま王家の目を眩ませるために、敢えて王家と近いハムエイダ伯爵家のお膝元で活動していくと……」
「そうだな。マーリの兄貴にはその情報を開示した上で、レベッカを保護してもらおうと思う」
馬車の中では、マーリとコンタの間でそんな会話が交わされていた。
「ふふふ。もしもの時は王家に背いてでもレベッカ様をお助けせよと、そういう事ですか」
「まあな。こっちにマーリがいれば、あの兄貴も逆らえないだろ」
とんでもない話だった。
マーリを人質に、命懸けでレベッカを守れ。そういうつもりでコンタはここに来たのだ。だがそれをマーリに告げたのは、この上ないマーリへの信頼の証でもある。
マーリはそれが嬉しかった。
「うふふふ。これはわたくしもコンタを全面的に支援せねばなりませんね。兄の事はお任せ下さい。蔑むような視線を浴びせれば一発で撃沈ですから」
茶目っ気たっぷりにそう語るマーリに、ベックは目を白黒させている。やはり、自分の知っている伯爵令嬢のマーリとはどこか違う気がする。
家格は下だけれども頼れる姉のような存在。清楚で上品で美しく、且つ凛々しさを備えた貴族令嬢としてのモデルのような人物。
しかし今のマーリはどうだろう? まるで庶民の少女のような気安さがある。そもそも貴族令嬢が庶民の殿方とこのように親し気に話す事など考えられない。
これが本来のマーリの姿なのだとすれば、貴族の立場を捨てたこれからの自分の人生が、急に明るいものに思われた。
そして彼女を変えたのはコンタと杏子、二人との出会いなのだろうか。そんな事を考えるベックだった。
そうしている内に馬車は城門を潜り、屋敷の前で停車した。以前、マーリやジェームズ達を救出する為に暴れた場所でもあり、勝手は大体分かっている。
そして、脱出の際に手を貸してくれたギャリソンの存在を思い出す。
「あの野郎、上手くやってるといいんだがな……」
「え? 何か言いましたか?」
「いや、ここから脱出する時手を貸してくれた執事、アイツ元気にしてるかなと思ってさ」
何気なく発したコンタの独り言に耳聡く反応したマーリを、コンタはごく自然に煙に巻く。
マーリによれば、ギャリソンはあの監禁事件の後すぐに姿をくらまし、城の連中の間では逃げだした臆病者という事になっているらしい。
もっとも、マーリは自分達の脱出の手助けをした人物が臆病者だとは思っていないらしく、何か事情があるのだろうと考えているらしい。
(臆病者って……アイツがそんな可愛いタマかよ)
そんな事を考えながら、コンタは入り口の扉の前に立つ。
「さて……」
御者を務めていたデイジーが観音開きの豪華な扉を開こうとするその前に、コンタはアナライザーゴグルを装着する。杏子も同様にアナライザーゴグル越しに扉の奥を見つめた。
「コンタ……」
「ああ、こんな事だろうと思ったぜ」
そんな二人の様子に首を傾げながら、デイジーが扉を開いた。その瞬間だ。
――キエエエエエィッ!!
奇声を上げながらコンタに向かって斬りかかる人物がいた。
「はぁ……リフレクションフィールド」
コンタは一つため息をつき、投げやりな態度で左手を襲撃者に向かって翳した。
コンタが所持するアーティファクト、リフレクションフィールド。あらゆる攻撃をそのままの威力で跳ね返す防御魔法が発動する能力を持つ。
――ふんぎゃあああああ!?
襲撃者はリフレクションフィールドにそのまま跳ね返され、ぐるぐると転げながら壁にぶち当たった。その転がり具合から、全力で斬りかかってきたのが分かる。
「この野郎……真剣かよ。マジで殺しに来やがった」
「もいでいい?」
呆れるコンタの隣で、目の据わった杏子が人差し指に凶悪なアーティファクトを装着する。
「いいんじゃねえの? 反応真っ赤だったろ?」
「ん。敵認定。なら容赦はいらない」
要はこの二人、事前にアナライザーゴグルで扉の向こうに潜む敵を察知していた。そしてなぜ予めアナライザーゴグルで警戒したかと言えば、そこに転がっている男ならやりかねないと思ったからに他ならない。
「ちょっ!? 兄さん!?」
そう、襲撃者はマーリの兄にしてこのソドーの街を実質的に治めている、ガーク・ハムエイダだった。
「なるほど、それではこのまま王家の目を眩ませるために、敢えて王家と近いハムエイダ伯爵家のお膝元で活動していくと……」
「そうだな。マーリの兄貴にはその情報を開示した上で、レベッカを保護してもらおうと思う」
馬車の中では、マーリとコンタの間でそんな会話が交わされていた。
「ふふふ。もしもの時は王家に背いてでもレベッカ様をお助けせよと、そういう事ですか」
「まあな。こっちにマーリがいれば、あの兄貴も逆らえないだろ」
とんでもない話だった。
マーリを人質に、命懸けでレベッカを守れ。そういうつもりでコンタはここに来たのだ。だがそれをマーリに告げたのは、この上ないマーリへの信頼の証でもある。
マーリはそれが嬉しかった。
「うふふふ。これはわたくしもコンタを全面的に支援せねばなりませんね。兄の事はお任せ下さい。蔑むような視線を浴びせれば一発で撃沈ですから」
茶目っ気たっぷりにそう語るマーリに、ベックは目を白黒させている。やはり、自分の知っている伯爵令嬢のマーリとはどこか違う気がする。
家格は下だけれども頼れる姉のような存在。清楚で上品で美しく、且つ凛々しさを備えた貴族令嬢としてのモデルのような人物。
しかし今のマーリはどうだろう? まるで庶民の少女のような気安さがある。そもそも貴族令嬢が庶民の殿方とこのように親し気に話す事など考えられない。
これが本来のマーリの姿なのだとすれば、貴族の立場を捨てたこれからの自分の人生が、急に明るいものに思われた。
そして彼女を変えたのはコンタと杏子、二人との出会いなのだろうか。そんな事を考えるベックだった。
そうしている内に馬車は城門を潜り、屋敷の前で停車した。以前、マーリやジェームズ達を救出する為に暴れた場所でもあり、勝手は大体分かっている。
そして、脱出の際に手を貸してくれたギャリソンの存在を思い出す。
「あの野郎、上手くやってるといいんだがな……」
「え? 何か言いましたか?」
「いや、ここから脱出する時手を貸してくれた執事、アイツ元気にしてるかなと思ってさ」
何気なく発したコンタの独り言に耳聡く反応したマーリを、コンタはごく自然に煙に巻く。
マーリによれば、ギャリソンはあの監禁事件の後すぐに姿をくらまし、城の連中の間では逃げだした臆病者という事になっているらしい。
もっとも、マーリは自分達の脱出の手助けをした人物が臆病者だとは思っていないらしく、何か事情があるのだろうと考えているらしい。
(臆病者って……アイツがそんな可愛いタマかよ)
そんな事を考えながら、コンタは入り口の扉の前に立つ。
「さて……」
御者を務めていたデイジーが観音開きの豪華な扉を開こうとするその前に、コンタはアナライザーゴグルを装着する。杏子も同様にアナライザーゴグル越しに扉の奥を見つめた。
「コンタ……」
「ああ、こんな事だろうと思ったぜ」
そんな二人の様子に首を傾げながら、デイジーが扉を開いた。その瞬間だ。
――キエエエエエィッ!!
奇声を上げながらコンタに向かって斬りかかる人物がいた。
「はぁ……リフレクションフィールド」
コンタは一つため息をつき、投げやりな態度で左手を襲撃者に向かって翳した。
コンタが所持するアーティファクト、リフレクションフィールド。あらゆる攻撃をそのままの威力で跳ね返す防御魔法が発動する能力を持つ。
――ふんぎゃあああああ!?
襲撃者はリフレクションフィールドにそのまま跳ね返され、ぐるぐると転げながら壁にぶち当たった。その転がり具合から、全力で斬りかかってきたのが分かる。
「この野郎……真剣かよ。マジで殺しに来やがった」
「もいでいい?」
呆れるコンタの隣で、目の据わった杏子が人差し指に凶悪なアーティファクトを装着する。
「いいんじゃねえの? 反応真っ赤だったろ?」
「ん。敵認定。なら容赦はいらない」
要はこの二人、事前にアナライザーゴグルで扉の向こうに潜む敵を察知していた。そしてなぜ予めアナライザーゴグルで警戒したかと言えば、そこに転がっている男ならやりかねないと思ったからに他ならない。
「ちょっ!? 兄さん!?」
そう、襲撃者はマーリの兄にしてこのソドーの街を実質的に治めている、ガーク・ハムエイダだった。
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