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75.ベックはガークの事が苦手のようです

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 夜間の攻防戦のおかげでコンタ以外は全員ぐったりしていたが、それでも今日は大事な用があるためしっかりと朝食を摂っている。

「ひょうはおっちかあいふ?」
「あ? 杏子、飲み込んでからしゃべれ」
「ん、ごくっ」
「……」

 杏子は飲み込んだあと、再び焼きたてフカフカのパンを口にした。

「おい!」

 てっきりさっきの話を言い直すのかと思っていたら、また食べ始めた杏子にコンタがツッコミをいれる。

「ん? むぐむぐ……ごっくん。今日はどっちから行く?」
「ああ、それか。先にソドー城に行ってマーリのバカ兄貴に話を通しとこう。アレを後回しにすると色々面倒になりそうだ」
「ん」

 マーリのバカ兄貴とは、現在このソドーの街の代官を務めているガーク・ハムエイダ。仮にもハムエイダ伯爵家の嫡男なのだが、シスコンを拗らせすぎていきなりコンタに斬りかかってきた残念な男だ。
 しかし、それ以外のところでは比較的有能な男らしく、悪い話も聞かないし、無難に政務をこなしているようだ。
 ハムエイダ伯爵家は王家との繋がりも深いため、元侯爵令嬢であるベックを預かる身としては、一応話を通しておくべきとの判断だ。

「あの……ガーク様をそのような……その、大丈夫なのですか?」

 侍女であるヴァージニアが心配そうに聞いてくる。
 それはそうだろう。代官とは王家の直轄領に派遣されて来た、この街の首長と同じだ。そんな人物に無礼極まる物言いをすれば、通常なら不敬罪で処刑されても文句は言えない。

「ああ。あの兄貴はマーリに頭上がらねえし、杏子が指にちくw――MDDマルチパーパス・ダークデバイスを嵌めてちらつかせれば、涙目、内股になってガクブルだ」

 コンタがちくわと言いかけたところで発した杏子の殺気で、過去にガークがどんな目に遭ったのか一同は察した。

「ひええ、このヒト達は相手が貴族様でも遠慮なしかよ……」
「ああ、さすがだぜ……」
「俺達、よく生きてたな……」

 三連星だか三騎士だかの三人は、恐縮したり尊敬の眼差しを送ったり、自らの幸運を喜んだりと様々な反応だ。だが、当のベックは。

「うげえ……ガークは苦手です」

 と、露骨に嫌そうな顔をしている。

「? まあ、杏子がいればアイツも暴走はしないだろ?」
「ん。任せる」

 ベックとガークの間に何があったかは知らないが、杏子が目を光らせていれば滅多な事にはならないだろうし、杏子も物凄く分かりにくいがドヤ顔をしている。

「ああ! キョーコ姉さん!」
「ん。よしよし」

 ベックが目をキラキラさせて杏子を見つめれば、杏子も杏子でベックの頭をよしよしと撫でている。ベックはアーティファクトのお陰で見た目は美少年な訳だが、その二人の様子は背後に百合の花のエフェクトが見えるが如し。
 正統派美少年姿のベックと、よく見れば美少女の杏子の組み合わせはどこか耽美で、周囲の者達も思わずため息を漏らすほどだ。

「茶番もいい加減にしとけ」
「あうっ!」
「いたっ!」

 それを呆れて見ていたコンタが二人の脳天にチョップを食らわせ、朝食のテーブルが静かになった所でパンを頬張った。

*****

「ついこの間の事なのに、随分久しぶりな気がするな」
「ん」

 コンタと杏子、ベックとヴァージニアは、マーリやガークに会うために、ソドー城を訪れている。ガイア、マッシュ、オルテガの三人は、ソドーの街を拠点にするからにはいつまでも宿を借りる訳にもいかないと、家を探すと言って別行動を取っている。
 尚、『股間氷結姫』の存在がある限り、連中が逃げ出す事はない。

 山の上にあるこのソドー城、いかにも防御力が高い立地に加えて城壁に囲まれているため『城』などと呼ばれているが、実際は領主館である。
 山道を登るにはそれなりに体力を消耗するため、まだ毒が抜けて間もないベックを気遣いながらの登坂だ。

「ベック、少し休むか?」
「なんのこれしきです!」

 肩で息をしながらも、弱音を吐く事なく食いついてくるベックの根性に感心しながらも、コンタはそれと分からないようにペースを落としながら進んだ。
 少し進むと、前方から一頭立ての馬車が近付いてきた。コンタ達が馬車の為に道を譲ると、馬車は一行の前で停車した。

「ふふ。相変わらず優しいな、コンタ」

 御者をやっていた女が声を掛けてくる。金髪をふわりと三つ編みに纏めた『お姉さま的』な美人は馴染みの顔だった。どうやらペースを落としたコンタを見ていたらしい。

「よお、デイジーか! あれ? 一人?」

 御者をしていたのは、マーリの専属護衛騎士で、現在はコンタ達と同じパーティでハンターとして活動しているデイジーだった。
 マーリの専属護衛騎士が一人で行動するのは珍しく、それだけにコンタも不思議に思って聞いたのだが。

「そんな訳ありません! 迎えに来ましたよ!」

 バン! と馬車の扉が開き、飛び出してきたのは青髪の美少女。そのままコンタに抱き着く勢いで出てきたのだが、そこは杏子がインターセプトする。

「どうどう。マーリ、落ち着く」
「む、キョーコ。久しぶりなのですから少しくらいコンタを貸して下さい」

 それを見ているデイジーもコンタも苦笑いだ。対照的にポカンとしているのがベックとヴァージニアだ。マーリとは幼少期から面識があるが、こんな印象だっただろうかと困惑している。

「あの、マーリ?」

 思わずベックが言葉をかける。

「あら、コンタ。こちらの方は? それに、レベッカ様が見当たらないようですが」

 今の今までコンタしか目に入っていなかったかのようなマーリに呆れながら、コンタがベックを紹介する。

「コイツがそのレベッカ様だよ」
「「えええ~~~!?」」

 マーリとデイジーの絶叫が木霊した。

 

 
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