75 / 76
参
75.ベックはガークの事が苦手のようです
しおりを挟む
夜間の攻防戦のおかげでコンタ以外は全員ぐったりしていたが、それでも今日は大事な用があるためしっかりと朝食を摂っている。
「ひょうはおっちかあいふ?」
「あ? 杏子、飲み込んでからしゃべれ」
「ん、ごくっ」
「……」
杏子は飲み込んだあと、再び焼きたてフカフカのパンを口にした。
「おい!」
てっきりさっきの話を言い直すのかと思っていたら、また食べ始めた杏子にコンタがツッコミをいれる。
「ん? むぐむぐ……ごっくん。今日はどっちから行く?」
「ああ、それか。先にソドー城に行ってマーリのバカ兄貴に話を通しとこう。アレを後回しにすると色々面倒になりそうだ」
「ん」
マーリのバカ兄貴とは、現在このソドーの街の代官を務めているガーク・ハムエイダ。仮にもハムエイダ伯爵家の嫡男なのだが、シスコンを拗らせすぎていきなりコンタに斬りかかってきた残念な男だ。
しかし、それ以外のところでは比較的有能な男らしく、悪い話も聞かないし、無難に政務をこなしているようだ。
ハムエイダ伯爵家は王家との繋がりも深いため、元侯爵令嬢であるベックを預かる身としては、一応話を通しておくべきとの判断だ。
「あの……ガーク様をそのような……その、大丈夫なのですか?」
侍女であるヴァージニアが心配そうに聞いてくる。
それはそうだろう。代官とは王家の直轄領に派遣されて来た、この街の首長と同じだ。そんな人物に無礼極まる物言いをすれば、通常なら不敬罪で処刑されても文句は言えない。
「ああ。あの兄貴はマーリに頭上がらねえし、杏子が指にちくw――MDDを嵌めてちらつかせれば、涙目、内股になってガクブルだ」
コンタがちくわと言いかけたところで発した杏子の殺気で、過去にガークがどんな目に遭ったのか一同は察した。
「ひええ、このヒト達は相手が貴族様でも遠慮なしかよ……」
「ああ、さすがだぜ……」
「俺達、よく生きてたな……」
三連星だか三騎士だかの三人は、恐縮したり尊敬の眼差しを送ったり、自らの幸運を喜んだりと様々な反応だ。だが、当のベックは。
「うげえ……ガークは苦手です」
と、露骨に嫌そうな顔をしている。
「? まあ、杏子がいればアイツも暴走はしないだろ?」
「ん。任せる」
ベックとガークの間に何があったかは知らないが、杏子が目を光らせていれば滅多な事にはならないだろうし、杏子も物凄く分かりにくいがドヤ顔をしている。
「ああ! キョーコ姉さん!」
「ん。よしよし」
ベックが目をキラキラさせて杏子を見つめれば、杏子も杏子でベックの頭をよしよしと撫でている。ベックはアーティファクトのお陰で見た目は美少年な訳だが、その二人の様子は背後に百合の花のエフェクトが見えるが如し。
正統派美少年姿のベックと、よく見れば美少女の杏子の組み合わせはどこか耽美で、周囲の者達も思わずため息を漏らすほどだ。
「茶番もいい加減にしとけ」
「あうっ!」
「いたっ!」
それを呆れて見ていたコンタが二人の脳天にチョップを食らわせ、朝食のテーブルが静かになった所でパンを頬張った。
*****
「ついこの間の事なのに、随分久しぶりな気がするな」
「ん」
コンタと杏子、ベックとヴァージニアは、マーリやガークに会うために、ソドー城を訪れている。ガイア、マッシュ、オルテガの三人は、ソドーの街を拠点にするからにはいつまでも宿を借りる訳にもいかないと、家を探すと言って別行動を取っている。
尚、『股間氷結姫』の存在がある限り、連中が逃げ出す事はない。
山の上にあるこのソドー城、いかにも防御力が高い立地に加えて城壁に囲まれているため『城』などと呼ばれているが、実際は領主館である。
山道を登るにはそれなりに体力を消耗するため、まだ毒が抜けて間もないベックを気遣いながらの登坂だ。
「ベック、少し休むか?」
「なんのこれしきです!」
肩で息をしながらも、弱音を吐く事なく食いついてくるベックの根性に感心しながらも、コンタはそれと分からないようにペースを落としながら進んだ。
少し進むと、前方から一頭立ての馬車が近付いてきた。コンタ達が馬車の為に道を譲ると、馬車は一行の前で停車した。
「ふふ。相変わらず優しいな、コンタ」
御者をやっていた女が声を掛けてくる。金髪をふわりと三つ編みに纏めた『お姉さま的』な美人は馴染みの顔だった。どうやらペースを落としたコンタを見ていたらしい。
「よお、デイジーか! あれ? 一人?」
御者をしていたのは、マーリの専属護衛騎士で、現在はコンタ達と同じパーティでハンターとして活動しているデイジーだった。
マーリの専属護衛騎士が一人で行動するのは珍しく、それだけにコンタも不思議に思って聞いたのだが。
「そんな訳ありません! 迎えに来ましたよ!」
バン! と馬車の扉が開き、飛び出してきたのは青髪の美少女。そのままコンタに抱き着く勢いで出てきたのだが、そこは杏子がインターセプトする。
「どうどう。マーリ、落ち着く」
「む、キョーコ。久しぶりなのですから少しくらいコンタを貸して下さい」
それを見ているデイジーもコンタも苦笑いだ。対照的にポカンとしているのがベックとヴァージニアだ。マーリとは幼少期から面識があるが、こんな印象だっただろうかと困惑している。
「あの、マーリ?」
思わずベックが言葉をかける。
「あら、コンタ。こちらの方は? それに、レベッカ様が見当たらないようですが」
今の今までコンタしか目に入っていなかったかのようなマーリに呆れながら、コンタがベックを紹介する。
「コイツがそのレベッカ様だよ」
「「えええ~~~!?」」
マーリとデイジーの絶叫が木霊した。
「ひょうはおっちかあいふ?」
「あ? 杏子、飲み込んでからしゃべれ」
「ん、ごくっ」
「……」
杏子は飲み込んだあと、再び焼きたてフカフカのパンを口にした。
「おい!」
てっきりさっきの話を言い直すのかと思っていたら、また食べ始めた杏子にコンタがツッコミをいれる。
「ん? むぐむぐ……ごっくん。今日はどっちから行く?」
「ああ、それか。先にソドー城に行ってマーリのバカ兄貴に話を通しとこう。アレを後回しにすると色々面倒になりそうだ」
「ん」
マーリのバカ兄貴とは、現在このソドーの街の代官を務めているガーク・ハムエイダ。仮にもハムエイダ伯爵家の嫡男なのだが、シスコンを拗らせすぎていきなりコンタに斬りかかってきた残念な男だ。
しかし、それ以外のところでは比較的有能な男らしく、悪い話も聞かないし、無難に政務をこなしているようだ。
ハムエイダ伯爵家は王家との繋がりも深いため、元侯爵令嬢であるベックを預かる身としては、一応話を通しておくべきとの判断だ。
「あの……ガーク様をそのような……その、大丈夫なのですか?」
侍女であるヴァージニアが心配そうに聞いてくる。
それはそうだろう。代官とは王家の直轄領に派遣されて来た、この街の首長と同じだ。そんな人物に無礼極まる物言いをすれば、通常なら不敬罪で処刑されても文句は言えない。
「ああ。あの兄貴はマーリに頭上がらねえし、杏子が指にちくw――MDDを嵌めてちらつかせれば、涙目、内股になってガクブルだ」
コンタがちくわと言いかけたところで発した杏子の殺気で、過去にガークがどんな目に遭ったのか一同は察した。
「ひええ、このヒト達は相手が貴族様でも遠慮なしかよ……」
「ああ、さすがだぜ……」
「俺達、よく生きてたな……」
三連星だか三騎士だかの三人は、恐縮したり尊敬の眼差しを送ったり、自らの幸運を喜んだりと様々な反応だ。だが、当のベックは。
「うげえ……ガークは苦手です」
と、露骨に嫌そうな顔をしている。
「? まあ、杏子がいればアイツも暴走はしないだろ?」
「ん。任せる」
ベックとガークの間に何があったかは知らないが、杏子が目を光らせていれば滅多な事にはならないだろうし、杏子も物凄く分かりにくいがドヤ顔をしている。
「ああ! キョーコ姉さん!」
「ん。よしよし」
ベックが目をキラキラさせて杏子を見つめれば、杏子も杏子でベックの頭をよしよしと撫でている。ベックはアーティファクトのお陰で見た目は美少年な訳だが、その二人の様子は背後に百合の花のエフェクトが見えるが如し。
正統派美少年姿のベックと、よく見れば美少女の杏子の組み合わせはどこか耽美で、周囲の者達も思わずため息を漏らすほどだ。
「茶番もいい加減にしとけ」
「あうっ!」
「いたっ!」
それを呆れて見ていたコンタが二人の脳天にチョップを食らわせ、朝食のテーブルが静かになった所でパンを頬張った。
*****
「ついこの間の事なのに、随分久しぶりな気がするな」
「ん」
コンタと杏子、ベックとヴァージニアは、マーリやガークに会うために、ソドー城を訪れている。ガイア、マッシュ、オルテガの三人は、ソドーの街を拠点にするからにはいつまでも宿を借りる訳にもいかないと、家を探すと言って別行動を取っている。
尚、『股間氷結姫』の存在がある限り、連中が逃げ出す事はない。
山の上にあるこのソドー城、いかにも防御力が高い立地に加えて城壁に囲まれているため『城』などと呼ばれているが、実際は領主館である。
山道を登るにはそれなりに体力を消耗するため、まだ毒が抜けて間もないベックを気遣いながらの登坂だ。
「ベック、少し休むか?」
「なんのこれしきです!」
肩で息をしながらも、弱音を吐く事なく食いついてくるベックの根性に感心しながらも、コンタはそれと分からないようにペースを落としながら進んだ。
少し進むと、前方から一頭立ての馬車が近付いてきた。コンタ達が馬車の為に道を譲ると、馬車は一行の前で停車した。
「ふふ。相変わらず優しいな、コンタ」
御者をやっていた女が声を掛けてくる。金髪をふわりと三つ編みに纏めた『お姉さま的』な美人は馴染みの顔だった。どうやらペースを落としたコンタを見ていたらしい。
「よお、デイジーか! あれ? 一人?」
御者をしていたのは、マーリの専属護衛騎士で、現在はコンタ達と同じパーティでハンターとして活動しているデイジーだった。
マーリの専属護衛騎士が一人で行動するのは珍しく、それだけにコンタも不思議に思って聞いたのだが。
「そんな訳ありません! 迎えに来ましたよ!」
バン! と馬車の扉が開き、飛び出してきたのは青髪の美少女。そのままコンタに抱き着く勢いで出てきたのだが、そこは杏子がインターセプトする。
「どうどう。マーリ、落ち着く」
「む、キョーコ。久しぶりなのですから少しくらいコンタを貸して下さい」
それを見ているデイジーもコンタも苦笑いだ。対照的にポカンとしているのがベックとヴァージニアだ。マーリとは幼少期から面識があるが、こんな印象だっただろうかと困惑している。
「あの、マーリ?」
思わずベックが言葉をかける。
「あら、コンタ。こちらの方は? それに、レベッカ様が見当たらないようですが」
今の今までコンタしか目に入っていなかったかのようなマーリに呆れながら、コンタがベックを紹介する。
「コイツがそのレベッカ様だよ」
「「えええ~~~!?」」
マーリとデイジーの絶叫が木霊した。
0
お気に入りに追加
356
あなたにおすすめの小説
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな
カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界
魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた
「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね?
それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」
小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く
塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう
一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが……
◇◇◇
親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります
(『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です)
◇◇◇
ようやく一区切りへの目処がついてきました
拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる