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第四章 スクーデリア争乱
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翌日きちんと教官として養成学校に出勤したシンディは、教え子達に改めて今後の進路を問うた。もちろん、家族には予め了承を取った事を伝えた上で。
しかし、問題は貴族の子供達だ。生徒本人と家の間で希望が一致しているのならば問題ないが、その生徒の望みが家の方針に逆らう事になった場合。
嫡子として家の跡継ぎになる立場の者は誰一人としてアストレイズに参加しようとする者はいなかった。それは致し方ない事でもあるのでシンディも何も言わない。しかし、次男以下や女子の場合は中々複雑な事になる。
「君達は本当にそれでいいのか? もし家名を捨ててまでアストレイズに参加すると言うのならばアタシは全力で支援するが」
「「「お願いします!」」」
答えたのは三人。男爵家の次男、騎士爵家の長男、子爵家の長女だった。いずれも元エリートクラスの者で、入学試験の序列ではトップ10に入っている有望株である。
「私は家を継げる訳でもありませんし、折角ですので貴族という堅苦しい生活よりももう少し楽に生きていこうと思います」
上の爵位の方々の顔色を窺いながら生きるのもイヤですしね。そう付け加えて少しはにかみながら語るのはフレイザー・マートン。マートン男爵家の次男である。
「僕は父が騎士という事で、国のために働く姿を見てきました。ですがそれはあくまでも国のお偉方を守るためのものであり、民を守るとは少し違うように思いました。ですから、カール達のように民の為に戦うのは、僕の憧れでもありますので」
彼はジョーイ。一代限りの騎士爵の長男だ。特に家が反対しているという訳ではないのだが、騎士爵とはいえ貴族に連なる者が出奔に近い形で隣国のギルドに所属しようと言うのだから、それなりに問題にはなる。シンディは最悪、彼の家族を丸ごと脱出させる事も視野に入れている。
「私は顔も知らないどこかの貴族の殿方に嫁ぐなんてまっぴらです!」
彼女はデイジー。シューマン子爵家の長女である。彼女の家は中々に黒い噂が絶えないので、悪い意味で有名だ。上にへつらい下には厳しくあたり、ハラスメントや搾取は当たり前、取り入る為には上に賄賂を渡すなど日常茶飯事。そんな家の道具に成り下がるのは断固拒否する。それが彼女の動機だ。
他国の組織の庇護を受ければ、父と言えどもおいそれと手は出せないだろうという計算もある。
そして残るは平民の出である生徒達だ。これは生徒自身は全員がアストレイズ参加を希望した。次いでに言えば、その生徒達の家族もミナルディへの移民を了承している。平民としてはスクーデリア王国の貴族の横暴はやはり面白くないのだろう。ほとんどが二つ返事だったという。
もっとも、それにはシンディとジルが予め根回ししていた秘策もあったのだが。
「ん。それではこの養成学校のカリキュラム終了までそうそう時間もない。これからは厳しくいくから。軍に入隊しようが家を継ごうが、フリーの傭兵になろうが関係ない。アタシは諸君らが生き延びる確率を高めるためにシゴキまくるからそのつもりでな!」
教え子を前にそう語るシンディだが、内心ではもう一つの事を考えていた。
(せめて愛弟子達の足を引っ張らない程度には仕上げてやらないと、師匠の面目が立たないからねぇ)
生徒達と比べればあまりも隔絶した強さを持った弟子達を思うと、自然と笑みが零れるシンディだった。
△▼△
「旦那様、パーソン商会のジル様から書状が届いております」
「ふ、商会長殿からか」
ミナルディ王国、ブリタ―領はイングラ村。領主館の執務室でスナイデル子爵は家令より手紙を預かる。カールの父親である彼は、魔人との交戦やその後の処理等で功績を上げ、男爵から陞爵し子爵となっている。
ところが領地が増えた訳ではなく、村を三つ治めているだけで子爵とは名ばかりの小規模な土地の領主だ。そこへ届いたジルからの手紙。
差出人がパーソン男爵ではなく商会長としての立場を使っている事から、手紙の内容が政治的な事より経済的な内容だろうとアタリを付けたスナイデル子爵は、ついつい笑いを零してしまった。
「楽しそうでございますな」
「まあな。領地の地図を」
「は」
手紙を読んでいた様子を見た家令に言葉には直接答えず、スナイデル子爵は地図を持ってくるように申しつけた。
家令から差し出された地図をひとしきり見つめると、目頭を揉む仕草をしながら首と肩を回して凝りをほぐした。
「どうやらまた移民が増えそうだ。今度は規模が大きい。村を拡張するか、もう一つ村を造るか、忙しくなりそうだぞ」
手紙には、魔法戦士養成学校の生徒の家族が移民してくる旨が記されていた。以前もスージィやマリアンヌの親類一族をスクーデリアから受け入れているが、今度は数百人規模になる見込みだと言う。
イングラ村はスージィが魔法で築いた防壁があり半ば要塞化しているため現実問題として拡張するなら彼女の協力が不可欠だ。
「いっそ村から街にしてはいかがでしょうか? 防壁のお陰で治安も良い事ですし、ピットアインとの街道も整備して一気に発展させる好機かと。カール様も協力していただけるでしょう」
「ふむ。せっかく子爵になった事だしな。久しぶりに領主としての腕を振るってみせるか。アストレイズへ依頼を出すぞ」
「は!」
家令の意見を受け、子爵はすぐに指示を出す。ミナルディの辺境にある領地を発展させる。なんとも領主としての心を揺さぶられる話だった。
しかし、問題は貴族の子供達だ。生徒本人と家の間で希望が一致しているのならば問題ないが、その生徒の望みが家の方針に逆らう事になった場合。
嫡子として家の跡継ぎになる立場の者は誰一人としてアストレイズに参加しようとする者はいなかった。それは致し方ない事でもあるのでシンディも何も言わない。しかし、次男以下や女子の場合は中々複雑な事になる。
「君達は本当にそれでいいのか? もし家名を捨ててまでアストレイズに参加すると言うのならばアタシは全力で支援するが」
「「「お願いします!」」」
答えたのは三人。男爵家の次男、騎士爵家の長男、子爵家の長女だった。いずれも元エリートクラスの者で、入学試験の序列ではトップ10に入っている有望株である。
「私は家を継げる訳でもありませんし、折角ですので貴族という堅苦しい生活よりももう少し楽に生きていこうと思います」
上の爵位の方々の顔色を窺いながら生きるのもイヤですしね。そう付け加えて少しはにかみながら語るのはフレイザー・マートン。マートン男爵家の次男である。
「僕は父が騎士という事で、国のために働く姿を見てきました。ですがそれはあくまでも国のお偉方を守るためのものであり、民を守るとは少し違うように思いました。ですから、カール達のように民の為に戦うのは、僕の憧れでもありますので」
彼はジョーイ。一代限りの騎士爵の長男だ。特に家が反対しているという訳ではないのだが、騎士爵とはいえ貴族に連なる者が出奔に近い形で隣国のギルドに所属しようと言うのだから、それなりに問題にはなる。シンディは最悪、彼の家族を丸ごと脱出させる事も視野に入れている。
「私は顔も知らないどこかの貴族の殿方に嫁ぐなんてまっぴらです!」
彼女はデイジー。シューマン子爵家の長女である。彼女の家は中々に黒い噂が絶えないので、悪い意味で有名だ。上にへつらい下には厳しくあたり、ハラスメントや搾取は当たり前、取り入る為には上に賄賂を渡すなど日常茶飯事。そんな家の道具に成り下がるのは断固拒否する。それが彼女の動機だ。
他国の組織の庇護を受ければ、父と言えどもおいそれと手は出せないだろうという計算もある。
そして残るは平民の出である生徒達だ。これは生徒自身は全員がアストレイズ参加を希望した。次いでに言えば、その生徒達の家族もミナルディへの移民を了承している。平民としてはスクーデリア王国の貴族の横暴はやはり面白くないのだろう。ほとんどが二つ返事だったという。
もっとも、それにはシンディとジルが予め根回ししていた秘策もあったのだが。
「ん。それではこの養成学校のカリキュラム終了までそうそう時間もない。これからは厳しくいくから。軍に入隊しようが家を継ごうが、フリーの傭兵になろうが関係ない。アタシは諸君らが生き延びる確率を高めるためにシゴキまくるからそのつもりでな!」
教え子を前にそう語るシンディだが、内心ではもう一つの事を考えていた。
(せめて愛弟子達の足を引っ張らない程度には仕上げてやらないと、師匠の面目が立たないからねぇ)
生徒達と比べればあまりも隔絶した強さを持った弟子達を思うと、自然と笑みが零れるシンディだった。
△▼△
「旦那様、パーソン商会のジル様から書状が届いております」
「ふ、商会長殿からか」
ミナルディ王国、ブリタ―領はイングラ村。領主館の執務室でスナイデル子爵は家令より手紙を預かる。カールの父親である彼は、魔人との交戦やその後の処理等で功績を上げ、男爵から陞爵し子爵となっている。
ところが領地が増えた訳ではなく、村を三つ治めているだけで子爵とは名ばかりの小規模な土地の領主だ。そこへ届いたジルからの手紙。
差出人がパーソン男爵ではなく商会長としての立場を使っている事から、手紙の内容が政治的な事より経済的な内容だろうとアタリを付けたスナイデル子爵は、ついつい笑いを零してしまった。
「楽しそうでございますな」
「まあな。領地の地図を」
「は」
手紙を読んでいた様子を見た家令に言葉には直接答えず、スナイデル子爵は地図を持ってくるように申しつけた。
家令から差し出された地図をひとしきり見つめると、目頭を揉む仕草をしながら首と肩を回して凝りをほぐした。
「どうやらまた移民が増えそうだ。今度は規模が大きい。村を拡張するか、もう一つ村を造るか、忙しくなりそうだぞ」
手紙には、魔法戦士養成学校の生徒の家族が移民してくる旨が記されていた。以前もスージィやマリアンヌの親類一族をスクーデリアから受け入れているが、今度は数百人規模になる見込みだと言う。
イングラ村はスージィが魔法で築いた防壁があり半ば要塞化しているため現実問題として拡張するなら彼女の協力が不可欠だ。
「いっそ村から街にしてはいかがでしょうか? 防壁のお陰で治安も良い事ですし、ピットアインとの街道も整備して一気に発展させる好機かと。カール様も協力していただけるでしょう」
「ふむ。せっかく子爵になった事だしな。久しぶりに領主としての腕を振るってみせるか。アストレイズへ依頼を出すぞ」
「は!」
家令の意見を受け、子爵はすぐに指示を出す。ミナルディの辺境にある領地を発展させる。なんとも領主としての心を揺さぶられる話だった。
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