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第四章 スクーデリア争乱

結局は……脳筋的特訓

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 結局全員が走っていた。いつ終わるとも知れない全力疾走。それこそ気力体力魔力、全てが空っぽになるまで。流石に元々魔法が使えないクラスだった連中はエリートクラスから来た者達よりもスタミナはあったが。

「こ、こんなのが何の訓練になるんだ?」

 魔法を使えながらも軍に入らないつもりだった者が、指導していたカールに息も絶え絶えに問いかけた。他の者も口には出さないが同様の疑問を抱いているようで、一様にカールを見上げている。

「あのバカも、スージィもマリも、同じ指導をしていただろう?」

 ぶっ倒れている生徒達をさも面白そうに小突いているチューヤを見ながらカールが答える。

「何をするにもまずは体力と魔力だ。それを鍛えるには魔力は毎日空っぽになるまで使い、筋肉が悲鳴を上げても苛め抜く」

 カールが続けて説明した。
 魔法を使えるからと言って突っ立ったままの戦闘などあり得ない。相手が強ければ強い程、常時身体強化を使いながらの戦闘が基本になる。
 更に、下手に身体強化だけを重視すると肉体が耐え切れず壊れてしまう。なので身体そのものも身体強化に耐えられるように鍛えなければならない。
 魔力も体力と同様、鍛えれば増えるものだ。カールは魔法使いも身体を鍛える事は重要という事を説明する。

「私達はこの他に、筋力トレーニングもやらされていた……」

 最後にカールが遠い目をして呟いた。

「心配するな。上手い飯を食えば少しは回復する。レシピはスージィとマリが師匠から引き継いでいるから、今夜からの夕食は二人が準備してくれるだろう」

 チューヤ達がシンディの家に居候していた頃、食事の手伝いもしていたマリアンヌは、不思議と体力魔力が回復する怪しいレシピを受け継いでいた。怪しいクセに味は抜群なので誰も文句は言わない。ただしマリアンヌは、レシピ通り作ってもシンディのものにはなぜか一歩及ばない事を悔しがっていた。
 それはやがてスージィにも受け継がれており、二人とも怪しい食事を作る事が出来る。ただし回復度合いはシンディの料理に比べれば劣る為、生徒達に施す訓練も、自分達がやってきた事に比べれば軽めにしてある。そうでなければ彼等は明日以降使い物にならないだろう。

 カールがその事を話して聞かせると、神妙に聞いていた生徒の一部が、何かに気付いてざわつき出した。

「てかカールお前! 教官の家に寝泊まりしてたのかぁぁぁっ!」
「ズルいぞお前! しかも教官の手作り料理を毎日だとぉぉぉ!?」
「あ、いや、それはな……チューヤとマリは私よりも以前から……」
「なんだとチューヤァァァ!」
「いつかブッ飛ばす!」

 カールの不用意な一言で、生徒達の殺気がチューヤに向く。カールは心の中でチューヤに謝った。控えめに。

△▼△

「お前、こんなキツイの毎日やってたのか……」

 辛うじてという感じで言葉を紡ぐのは元落ちこぼれクラスの少年。

「こんなの序の口だぜ? 俺達はこの後筋トレやら柔軟やらアレとかソレとか……」

 チューヤもカールと同じように、遠い目で厳しい訓練の日々を思い出していた。もっとも、ギルドの依頼を受けていない日はシンディの扱かれていたメニューを継続して行っている。

「ま、マジかよ……」

 それを聞いて、地面に伏している少年少女達は絶句した。

「でもよ、この先魔人と戦う事になるかも知れねえだろ? そん時ゃ、ぶっちゃけ魔法使いは役に立たねえ。あいつら、魔法を無効化しやがる」

 聞いていた生徒達は、ゴクリ、と喉を鳴らす。

「そうなると、結局頼れるのは自分の身一つって事だからな。自分に甘えたヤツから死んじまう」
「……」

 魔人との実戦を潜り抜けてきたチューヤの言葉には重みがあった。何しろ実際に魔人と交戦して退けたのは、チューヤとシンディしかいないのだから。

「身体を強くしろ。今までより強力な身体強化を身に付けろ。そのために魔力を増やせ。ただの雑兵で終わるな」
 
 少し強い口調のチューヤの言葉に、全員が無理矢理身体を起こして頷いた。元より、このクラスの中でチューヤは英雄的存在だった。彼の言う言葉には素直に従う。

「この訓練で、お前みたいになれるのか?」
「ん~、俺には纏魔てんまって特殊なスキルがあるからなぁ……でもマリアンヌくらいにはなれると思うぜ?」

 ここにいる者達は現在のマリアンヌの実力を知らない。しかしチューヤやカールといった実力者と行動を共にし続けているという事は、その実力者と肩を並べて戦える力があるという事だ。
 その事に思い至った皆が、疲れた身体にムチ打って、やる気を漲らせた。

 



 

 
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