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第四章 スクーデリア争乱

進路分け関係なくない……?

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 支援的ポジションを志す者達にマリアンヌが課したのは『身体の強さ』を上げる事。とにもかくにも身体を虐めぬき、その上で魔力も空っぽにさせた。彼女のみならず、チューヤもカールもシンディに課されていた訓練を、生徒達にも踏襲させる。

 マリアンヌ以外はどうか。後衛専門の魔法砲台として軍を目指す者達を受け持ったスージィも、やはり走らせる。身体強化をしたままひたすら走らせる。
 魔法使いに体力が必要なのかと文句を言う者ももちろんいた。

「今ブーブー言ってたひとー、ちょっと前に出て?」
「「「?」」」

 スージィが指名したのは三名。何が起こるのか分からず、頭を傾げながら取り敢えず前に出る三人。いずれも子爵右家以上の家格の者だ。
 以前と比べれば他人を見下す態度は随分と改められたようだが、まだ魔法使いや貴族は後方で控えているのが当然といった思い上がりがどこかにあるのだろう。身体を鍛える事に意味を見出せないでいる。

「この辺でいいかしら」

 スージィは三人から五メートル程離れた場所に立つ。

「好きに魔法を撃っていいわよ? 先手は譲ってあげる」
「いやしかし……」

 五メートルという距離は、魔法を撃ちあうにしては至近距離。撃たれた魔法を躱すにも発動させるにも近すぎる。

「あたし達は魔人と戦って生き残り、魔獣を討伐したのよ?」
「それはそうだが……」

 たしかにアストレイズの戦果は耳に入っている。ただ、エウロペで軍が敗走した事は教官のところで情報が止まっていた。後方で戦っていた魔法戦士達が歯が立たずに壊滅した事は知らない。

「魔人の恐ろしさのほんの一部だけど、教えてあげるわ」

 かなり挑発的に言い放つスージィに、三人はプライドを揺すられた。いくら腕が立つとはいえ、ほんの少し前までは同級生としてともに学んでいた少女が相手。
 自分達もシンディを教官と仰いで修練してきた自負がある。そう簡単にスージィを認める訳にはいかなかった。

「それならいくぞ! 怪我をしても知らないぞ!」

 一人がワンドを構えて詠唱を始めると、他の二人も愛用の杖を構えてそれに続く。先手を譲ると宣言したスージィは、不敵な笑みを浮かべたままただ杖を構えていた。
 三人が放ったのはそれぞれ火系統、土系統、風系統の射出系の魔法。

(はあ、これだから。実戦経験が足りないのよね)

 内心でそう毒づきながら、スージィは瞬時に土系統の魔法を発動、自分の全面に分厚い壁を作りだした。魔法を詠唱、そして魔法陣を展開。それだけの時間的余裕があれば対処は容易い。しかも詠唱の内容から彼等の魔法がどんなものか丸分かりだ。正面からくると分かっている攻撃を防ぐ事など、今のスージィには息をするように自然にできる。

 魔法が土の防壁に着弾し、土煙が辺りを包む。自分達の魔法が直撃したと思った三人は警戒もせずに土煙の向こうにいるであろうスージィを姿が現れるの待っていた。
 だがしかし――

「ぐあっ!」
「ゲフッ!」
「うあぁ!」

 次の瞬間、死角に現れたスージィの持つ杖に打ちのめされた。

「安心してね。手加減してるから」

 にっこりと微笑みそう語るスージィを、倒れたまま見上げる三人。

「ウソだろ……」
「一体どうやって……」
「直撃したんじゃなかったのか」

 ただ魔法を撃つ事だけに集中していた三人は、スージィが詠唱もせず魔法陣も展開させておらず、完全に油断していた。正確に言えば、彼女が瞬時に無詠唱で地面に展開させた魔法陣に気付かなかった。
 スージィは今の一瞬で起った事を三人に説明した。
 詠唱と魔法陣のおかげで攻撃手段がバレていたため対処が余裕だった事。
 土煙を利用して身体強化による死角への高速移動。
 土煙のなかでも視界を確保するために視力の強化も同時に行う。

「まあ、いくら視力を強化したところで、土煙の向こうまで完全に見通す事はできないけど、ぼんやりとだけど見える事は見えるのよ」

 そして彼女は土人形を三つ作り出した。

「見ててね?」

 身体強化を施しつつ、魔法で土人形の足下に礫を撃ち込み、土煙で視界を悪くした。そして、高速で移動する。
 走りながら、土煙に覆われた土人形に対して水系統魔法の水弾を撃ち込んでいく。

「ちょ、身体強化で高速移動しながら魔法だと?」
「あの土煙でまともに当たるのかよ」
「いくらスージィでも無理だろ」

 スージィの様子を見学している三人の側にスージィが戻る。激しく動き回りながら魔法を連発したというのに涼しい顔だ。

「まあ、見てなさい」

 土煙は晴れた後には、水弾によって粉々に砕かれた土人形の残骸が散らばっていた。

「「「な!?」」」
「魔人にはね、基本的に魔法が効かないと思っていいわ。そして今のあたしとは比べ物にならない運動能力ととんでもない耐久力とパワーがあるの」

 さっきまでとは打って変わって神妙な顔で話始めるスージィに、三人も真剣に耳を傾けた。

「とにかく動いて的を絞らせず、少しでも死角に回って対処しにくいようにしながら魔法を撃つ。魔法使いが魔人に対抗するにはそれしかないのよ」

 魔人襲来時に手酷い怪我を負ったスージィだからこその発言には重みがあった。

「動きながら魔法を撃つ。それにはみんなの体力も魔力も足りないの」

 その言葉に三人に頷いた。
 
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