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三章 ギルド

侵攻

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 ドッケンがピットアインを去ってから半年余り。ギルド『アストレイズ』の評判は高まり、依頼は絶える事がない。
 この頃にはアストレイズもかなり著名な存在になっており、顔も名前も市民に浸透していた。このタイミングから、四人の装備はパーソン商会のブランドで揃えたものになっており、広告塔代わりになっている。
 それがまた人気を博し、アストレイズへの依頼が殺到する事になった。仕方なしに、アストレイズの後見人でありスポンサーでもあるジルが傭兵組合に仕事を回すという荒業に出た。
 傭兵組合とアストレイズはいわば喧嘩別れした仲であり、さらに言えば商売敵でもある。そしてその生存競争に勝ったのはアストレイズであった。
 横暴な傭兵とあくまでも傭兵の立場に立つ組合長に反感を持つ市民は多く、組合の窓口は閑古鳥が鳴く有様だ。しかしアストレイズの四人、場合によってはマンセルやミラまでも手伝ったりしているが、それでも到底捌ける量ではなく、双方にメリットのある話としてアストレイズが傭兵組合に仕事を回す形態を取った。
 見方によっては傭兵組合がアストレイズの下請けになっているとも言える奇妙な状態だが、それは逆に傭兵組合の評価を上げる結果になっている。なにしろ適当な仕事をしていたのではアストレイズが黙っていない。特に恐れられたのはカールだった。
 彼がイングラ領の領主の息子だという噂が広がり、さらに父親のスナイデル男爵も魔族の件で国王の覚えが良くなっている。子爵に陞爵しょうしゃくされるのではないかという噂までまことしやかに流れている始末だ。
 そんなカールに絶対零度の視線を浴びせられては、組合長といえども平身低頭である。組織というものは頭が折れれば後は容易いもので、組合長からトップダウン式に構成員に指示が飛んだ。仕事に手を抜くな、と。
 はじめはその指示にいやいや従っていた構成員たちも、まともに仕事をやり切った後の依頼者の感謝というものが存外気分がいい事に気付く。さらに、いい仕事をした後はアストレイズの面々の対応が非常に良い。彼等は単に傭兵組合を敵視しているのではなく、仕事に関しては意外な程にフラットなものの見方をしていた。
 元よりアストレイズは美男美女の集まりであり、マンセルやミラ、ハナとキクも含めたギルドのメンバーは、誰か一人は好みに刺さる容姿をしているのも大きい。

 こうして依頼を熟しながらも、アストレイズは鍛錬を欠かさなかった。対人戦の訓練ならチューヤ、魔法戦闘ならカールとスージィ。ゲリラ戦ならマリアンヌ。それぞれが互いに絶好の訓練相手である為、彼等はメキメキと実力を伸ばしていった。
 また、ミナルディ王国としても軍備の増強に努めており、より精強さを増している。その事について周辺国からはクレームも入っていたようだが、ミナルディ王は意にも介さず強兵策を進めている。

「貴国も滅びたくなくば強くなる事だ」

 国王は隣国の使者にそう言い放ったという。魔族の攻撃を直接受けただけに、危機感も周辺国とは比べ物にならないのだろう。その実、ドッケンが持ち帰ったチューヤの情報はその危機感をおおいに高めた。
 ドッケン程の強者が子ども扱いされた。そのチューヤでさえ、魔族には苦戦したという。その事が、国王に本腰を入れさせた一因だと言われている。

 そんなある日の事。珍しく慌てた様子のジルがアストレイズの屋敷の敷地に駆け込んできた。いつものパンツスーツではなく、皮のパンツにブーツ、そしてジャケットという、戦闘にも対応できるような動きやすい恰好だ。

「おっ? ジルさんどうした?」
「珍しいね、そんなに慌てて」

 出迎えたのはちょうど模擬戦をやっていたチューヤとマリアンヌ。そんな二人への挨拶もそこそこに、ジルは屋敷に全員を集めるように言った。それとは別に、マンセルにも指示を出す。

「組合長を呼んできてくれないか」
「畏まりました」

 しばらく待つと、組合長を連れたマンセルが戻って来た。
 その組合長が席に着いたところで、ジルが静かに口を開いた。

「スクーデリア王都の衛星都市がひとつ、突如現れた魔族と、それが率いる変異種の大軍によって陥落した。

 その衝撃の内容に、室内はしんと静まり返った。

  

 
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