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三章 ギルド

いや、ちょっと、的!

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「あー、ちょっと待ってくれ」

 クロスボウを構えるマリアンヌにチューヤがストップを掛ける。

「ん? どしたの?」
「ああ、どうせだから森に行ってやろう。ジルさんも一緒に来るっすか?」
「ああ。面白そうだね。ご一緒させてもらおう」

 チューヤの提案は、いきなり実戦でクロスボウの威力を試そうというものだ。そして彼の事だ。強力な変異種を探してそれを獲物にするに違いない。マリアンヌは苦笑し、ジルは思わぬ展開に目を輝かせる。
 先日のイングラ村での依頼で入手した四頭の馬は、そのまま彼等の所有物として屋敷の敷地の一角で飼育されている。三人はその馬たちに向かって行った。

「あれ? カールの野郎とスージィは馬で出かけたのか」

 しかし急遽建てられた馬房には二頭しかいない。

「ふむふむ、じゃあ私はマリアンヌ君の後ろに――「あ、ボクはチューヤと一緒に!」」
「ちっ……」
「「舌打ち!?」」

 ジルのワキワキした手に怯えながらマリアンヌがチューヤに駆け寄ると、あからさまに残念そうな表情になったジルの舌打ちが馬房に響き渡った。
 ともあれ、二頭に分乗した三人はピットアインを出て森の方向へ向かう。
 街の近辺は定期的に憲兵や傭兵組合が駆除をしているが、野生の動物が変異してしまって自然発生するのが変異種というものだ。完全に根絶するのは不可能に近い。なので人気の少ない森の奥や山中の深い所にはいくらでもいるし、それが人里近くに来て人間のテリトリーを荒らすというのも日常茶飯事だ。
 カールとスージィは、そういった変異種の討伐依頼を引き受けて出かけていた。

「あら、カール達がいるみたいだね」
「へえ、アイツらこっちに来てたのか。行ってみっか」
「……相変わらずマリアンヌ君の能力は凄いね。私にはさっぱりだよ」

 ジルが常識外れのマリアンヌの索敵範囲に舌を巻く。そしてそれに慣れてしまっているチューヤの反応が対照的だ。それからしばらく馬を進めると、スージィが土系統魔法で掘った穴に、何かを投げ入れた後それを埋めている所だった。

「……? お前達も来たのか? もう粗方狩り尽くしたが?」

 チューヤ達に気付いたカールがそう声を掛けてきた。

「大きな野ネズミの変異種が繁殖しててね。弱いんだけど数だけは多くて大変だったよ。あははは」

 そのネズミの変異種の骸を埋めていたスージィも、土系統魔法で地面を均しながら苦笑いだ。

「いや、ちょっと新しい武器を試したくてさ、適当な獲物を探しに来たら二人を見つけたんだ」

 チューヤの馬の後ろから、長いケースを手にしたマリアンヌがひょこりと顔を出す。

「ほう、それは興味深いな。私達もいいか?」
「うん、もちろん!」

 目をハート形にしてスージィの肢体に見惚れているジルをスルーし、アストレイズの四人の話がまとまった。
 共に戦う仲間の新しい武器と聞けば、出来得る限りその特性を知っておいた方がいいだろう。そういった共通認識から、この時ばかりはチューヤとカールも衝突はしなかった。
 ところが。

「う~ん、近くにはいないね」

 マリアンヌの魔眼を以てしても、付近に変異種の存在は把握できなかった。

「あたし達が狩りすぎちゃって、逃げちゃったのかしら?」

 今スージィが言った事は、実際にはそんな的外れな事でもなかった。カールとスージィの放つ魔法は当然ながら多くの魔力が動く。それを察知した野生の生物達が避難したのは十分あり得る話だった。

「ま、いねえモンはしゃーねえよ。スージィが魔法でめっちゃ固い土人形作って、それで試し撃ちすればいいじゃねえか」

 そんなチューヤの意見に、一同がなるほどと頷いた。土系統魔法も込める魔力量次第で威力や強度が変化する。魔族と戦った時のスージィは防壁を作るのに大量の魔力を消費した直後だった為、もしも彼女が万全の状態であったならば魔族の一撃を防ぎきる盾を作り出せる可能性はあった。それだけの時間を魔族がくれたのなら、だが。

「はい、これでいいかしら? 強度で言えばイングラ村の防壁の三倍。その辺の岩より固いわよ?」

 スージィがあっという間に土人形を作りだした。かなりの魔力を込めたらしく、大きな胸を張ってドヤ顔をする。

「「「「……」」」」

 しかし他の四人はみな微妙な表情だ。

「なあ、なんで俺なんだよ?」
「そうだよ、ボクこんなの撃てないよう」

 そう、背格好に逆立った髪。挑発的な笑みを浮かべた顔。それはまさにチューヤの土人形だった。
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