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三章 ギルド
魔族対策
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パーソン商会が持ち込んだ資材と人員、それに護衛人員は、テキパキとイングラ村の整備にあたり、男爵領の領主館としてはかなり立派なものを建築していた。
村の背後の山の中腹、しかも背後は崖になっている場所を選び、村全体を見下ろせるようになった。
スージィが造った防壁の外側は大草原が広がっており、牧羊に使うだけでは有り余る面積がある。これを有効活用しない手はないと、羊だけではなく馬や牛、さらには農地を拡張しようという計画も持ち上がっている。
ただし現状は人口が少なすぎるのだが、それについてはジルに考えがあるらしい。
「それでは我々は失礼します。私の部下達はスナイデル卿が好きに使っていただいて構いませんので」
ジルがそう言って箱馬車に乗り込んだ。次いでアストレイズのメンバーが。最後に父親に会釈したカールが乗り込むと、ミラが御者席で馬にムチを当てた。
スナイデル男爵は村を去って行く箱馬車に向かって長い間頭を下げて見送った。
「君達が盗賊から奪った馬は、護衛達が村から戻る時の足にさせてもらう。しばらく貸してくれたまえ」
ジルがそう言いながら、煙管の煙をくゆらせる。
四人がそれぞれ問題ないと同意した。それからピットアインへの帰路は特に問題もなく、無事に彼等の屋敷に帰り着いた。
▼△▼
それから更に数日後、ジルが荷馬車を一台率いてアストレイズの屋敷を訪れていた。
「それはそうと、マリアンヌ君はこの数日チューヤと特訓してたようだね。なにか掴めたかい?」
イングラ村での空き時間や、屋敷に戻ってからも、マリアンヌは少しでも強くなろうと努力していた。その事はジルも報告を受けていて、その進捗が気になっていたところだ。
イングラ村から戻って来てからもギルドに小さな依頼は入っていたが、どれも害獣駆除などの比較的簡単なもので、そちらはカールとスージィのコンビで片付けていた。その間も、マリアンヌはチューヤを相手に特訓していた訳だ。
「うーん、だいぶ魔力量も上がってきて、身体強化も中々のモンっすね。ただ、流石に纏魔に至るのは無理みたいっす」
「そうだろうね。私の知る限りでは君とシンシアくらいのものだよ。纏魔の使い手は」
たった一人で敵部隊を殲滅させ、軍では低級士官、出自は平民のシンディが国の超重要人物になっている事から、その希少性と重要性が分かろうというもの。
僅かばかりの期間を訓練につぎ込んだとて、そう簡単に会得出来るものではない。それを自力で、しかも理論も何もない状態で力尽くで発動させたチューヤが規格外なのだ。
「それでも、頑張ってるマリアンヌ君に何かいいものはないかと探したんだがね」
ジルはそう言いながら、木製のケースをテーブルに置いた。そしてそれを開くようにマリアンヌに勧めてきた。
「これは?」
ケースを開くと、そこにはクロスボウが納められていた。クロスボウ自体は特に珍しい武器ではないが、威力を出す為に速射性を犠牲にしているので、あまり使い手は見かけない。
また、ジルが持ち込んだのはかなり大型のもので、全長一メートルを優に超える。その長さ故に片手で扱うのは難しい。左手で支え右手はグリップを握り、そのグリップにトリガーがあり、トリガーを引く事で発射する。
また発射時に安定させるため、肩に当てる為のストックがある。明らかに長距離狙撃用に作られたものだ。また、弓弦を引くためのハンドルが側面に付いており、そのハンドルを回すと滑車が動き、弓弦を引く構造になっているようだ。
「これは弓弦に変異種の筋を使っていてね。なんと有効射程は五百メートルを超える……らしい」
「なんだ、歯切れが悪ィな」
クロスボウを説明するジルが苦笑している。チューヤがそれを怪訝な表情で突っ込むと、彼女は開き直って言った。
「そもそも弓弦が強すぎて、常人じゃあハンドルを回す事しか出来ない。身体強化が出来る人間ならワンチャンあるだろうけど、じゃあ五百メートル先の標的が見えるかい?」
「ああ……そっか」
つまりはそういう事だ。射程距離が長くても普通の人間では標的が見えない。ジルが掛けているモノクルのように、レンズで拡大してものを見る技術が無い訳ではないが、倍率の高いものは高価すぎて出回っていないのが実情だ。
「そんな訳で、画期的ではあるが使い手がいなくてお蔵入りになっていたコイツを思い出してね」
「これが矢か?」
箱の中には矢のような物が十本程並べられていたが、普通の弓に使うものとは若干違う。
「これはボルトと言ってね。クロスボウ専用に使うものさ。鏃が無い代わりに鋼鉄の棒の先を鋭く尖らせている。そこそこ重量もあるから貫通力も高いよ。ただ、抜けやすいがね」
ジルがそう言って苦笑する。ボルトを作るのにはかなり精度の高い仕事が要求されるようで、職人からはなるべく回収して再利用するように言われているのだと、ジルは頭を掻いた。
「マリ、ちょっと試してみたらどうだ?」
「うん! そうだね!」
マリアンヌがケースからクロスボウを取り出した。底面には五本のボルトを装着できるホルダーがあるが、今回は試射用に一本だけ持ち出した。
本体は木製だが、弓の部分は硬いが良くしなる、金属でも木でもない、よく分からない材質。弓弦は変異種の筋繊維を束ねたものだ。
「うわ、おもっ!」
マリアンヌが試しにハンドルを回そうとするが、あまりの重さにピクリとも動かない。そして次は身体強化を掛けてハンドルを回す。カタカタと滑車が回り始めると、ギリリと弓弦は引き絞られた。所定の位置まで引くと、カチリとハマる音がする。
そしてボルトをセットせずに、そのまま構えて狙いを定めるポーズを取った。呼吸を整えてトリガーを引く。
――バシュン!
「おっとぉ!」
思いのほか発射の衝撃が大きかったのか、マリアンヌが驚きの表情を浮かべた。そしてニヤリと笑みを浮かべる。
「今度はボルトをセットして撃ってみるね」
マリアンヌは一本だけ持ち出してきたボルトをセットした。
村の背後の山の中腹、しかも背後は崖になっている場所を選び、村全体を見下ろせるようになった。
スージィが造った防壁の外側は大草原が広がっており、牧羊に使うだけでは有り余る面積がある。これを有効活用しない手はないと、羊だけではなく馬や牛、さらには農地を拡張しようという計画も持ち上がっている。
ただし現状は人口が少なすぎるのだが、それについてはジルに考えがあるらしい。
「それでは我々は失礼します。私の部下達はスナイデル卿が好きに使っていただいて構いませんので」
ジルがそう言って箱馬車に乗り込んだ。次いでアストレイズのメンバーが。最後に父親に会釈したカールが乗り込むと、ミラが御者席で馬にムチを当てた。
スナイデル男爵は村を去って行く箱馬車に向かって長い間頭を下げて見送った。
「君達が盗賊から奪った馬は、護衛達が村から戻る時の足にさせてもらう。しばらく貸してくれたまえ」
ジルがそう言いながら、煙管の煙をくゆらせる。
四人がそれぞれ問題ないと同意した。それからピットアインへの帰路は特に問題もなく、無事に彼等の屋敷に帰り着いた。
▼△▼
それから更に数日後、ジルが荷馬車を一台率いてアストレイズの屋敷を訪れていた。
「それはそうと、マリアンヌ君はこの数日チューヤと特訓してたようだね。なにか掴めたかい?」
イングラ村での空き時間や、屋敷に戻ってからも、マリアンヌは少しでも強くなろうと努力していた。その事はジルも報告を受けていて、その進捗が気になっていたところだ。
イングラ村から戻って来てからもギルドに小さな依頼は入っていたが、どれも害獣駆除などの比較的簡単なもので、そちらはカールとスージィのコンビで片付けていた。その間も、マリアンヌはチューヤを相手に特訓していた訳だ。
「うーん、だいぶ魔力量も上がってきて、身体強化も中々のモンっすね。ただ、流石に纏魔に至るのは無理みたいっす」
「そうだろうね。私の知る限りでは君とシンシアくらいのものだよ。纏魔の使い手は」
たった一人で敵部隊を殲滅させ、軍では低級士官、出自は平民のシンディが国の超重要人物になっている事から、その希少性と重要性が分かろうというもの。
僅かばかりの期間を訓練につぎ込んだとて、そう簡単に会得出来るものではない。それを自力で、しかも理論も何もない状態で力尽くで発動させたチューヤが規格外なのだ。
「それでも、頑張ってるマリアンヌ君に何かいいものはないかと探したんだがね」
ジルはそう言いながら、木製のケースをテーブルに置いた。そしてそれを開くようにマリアンヌに勧めてきた。
「これは?」
ケースを開くと、そこにはクロスボウが納められていた。クロスボウ自体は特に珍しい武器ではないが、威力を出す為に速射性を犠牲にしているので、あまり使い手は見かけない。
また、ジルが持ち込んだのはかなり大型のもので、全長一メートルを優に超える。その長さ故に片手で扱うのは難しい。左手で支え右手はグリップを握り、そのグリップにトリガーがあり、トリガーを引く事で発射する。
また発射時に安定させるため、肩に当てる為のストックがある。明らかに長距離狙撃用に作られたものだ。また、弓弦を引くためのハンドルが側面に付いており、そのハンドルを回すと滑車が動き、弓弦を引く構造になっているようだ。
「これは弓弦に変異種の筋を使っていてね。なんと有効射程は五百メートルを超える……らしい」
「なんだ、歯切れが悪ィな」
クロスボウを説明するジルが苦笑している。チューヤがそれを怪訝な表情で突っ込むと、彼女は開き直って言った。
「そもそも弓弦が強すぎて、常人じゃあハンドルを回す事しか出来ない。身体強化が出来る人間ならワンチャンあるだろうけど、じゃあ五百メートル先の標的が見えるかい?」
「ああ……そっか」
つまりはそういう事だ。射程距離が長くても普通の人間では標的が見えない。ジルが掛けているモノクルのように、レンズで拡大してものを見る技術が無い訳ではないが、倍率の高いものは高価すぎて出回っていないのが実情だ。
「そんな訳で、画期的ではあるが使い手がいなくてお蔵入りになっていたコイツを思い出してね」
「これが矢か?」
箱の中には矢のような物が十本程並べられていたが、普通の弓に使うものとは若干違う。
「これはボルトと言ってね。クロスボウ専用に使うものさ。鏃が無い代わりに鋼鉄の棒の先を鋭く尖らせている。そこそこ重量もあるから貫通力も高いよ。ただ、抜けやすいがね」
ジルがそう言って苦笑する。ボルトを作るのにはかなり精度の高い仕事が要求されるようで、職人からはなるべく回収して再利用するように言われているのだと、ジルは頭を掻いた。
「マリ、ちょっと試してみたらどうだ?」
「うん! そうだね!」
マリアンヌがケースからクロスボウを取り出した。底面には五本のボルトを装着できるホルダーがあるが、今回は試射用に一本だけ持ち出した。
本体は木製だが、弓の部分は硬いが良くしなる、金属でも木でもない、よく分からない材質。弓弦は変異種の筋繊維を束ねたものだ。
「うわ、おもっ!」
マリアンヌが試しにハンドルを回そうとするが、あまりの重さにピクリとも動かない。そして次は身体強化を掛けてハンドルを回す。カタカタと滑車が回り始めると、ギリリと弓弦は引き絞られた。所定の位置まで引くと、カチリとハマる音がする。
そしてボルトをセットせずに、そのまま構えて狙いを定めるポーズを取った。呼吸を整えてトリガーを引く。
――バシュン!
「おっとぉ!」
思いのほか発射の衝撃が大きかったのか、マリアンヌが驚きの表情を浮かべた。そしてニヤリと笑みを浮かべる。
「今度はボルトをセットして撃ってみるね」
マリアンヌは一本だけ持ち出してきたボルトをセットした。
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