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三章 ギルド
チューマリサイド
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「ねえチューヤ。ボク、もっとみんなの役に立ちたい」
「あン?」
チューヤの後ろから必要以上に抱き着いているマリアンヌが、真面目な声色でそう語る。もっとも、チューヤからすれば『何言ってんだコイツ』という感じだが。
「ボクさ、今回は戦闘で足を引っ張っちゃった。接近戦しか出来ないのに、それが通用しないとみんながボクを守るために負担が大きくなっちゃう」
「ああ……」
チューヤはそう言えばそうかと思い直す。確かに彼女はバーサク・シープの集団突撃には対応しきれなかったケースもあり、チューヤやカールがフォローに入る場面もいくつかあった。
だが、それを差し引いても彼女の五感を強化する能力は得難いものであり、アストレイズの眼であり耳である。マリアンヌのお陰で優勢に事を運べたケースは数えきれない。
「もうちょっとこう……ボクの能力を活かせるスタイルってないかなぁ?」
人の往来によって踏み固められ、それがそのまま道になったような、ピットアインとイングラ村を繋ぐ街道。その両脇はただの藪であり、さらに逸れていくとそう高くはない山が連なる。
そんな山の緑と空の青を何となく眺めながら、チューヤもマリアンヌの言うスタイルとやらを考えた。
相手の動きをよく観察し、カウンターを当てるのが彼女のスタイルであり、その目のお陰でほぼ攻撃を食らう事は皆無だ。しかし物量にモノを言わせた飽和攻撃にはどうしようもなくなる場合もあるだろう。もっとも、それは彼女だけではなく、チューヤや他のメンバーにも言えた事だ。
それでも、カールやスージィには大出力の魔法という切り札があるし、チューヤにも纏魔という必殺のスキルがある。しかしマリアンヌには戦闘における切り札がない。
(正直ククリナイフも市販されてるヤツだし、火力不足は確かなんだよなぁ……)
「戻ったらマンセルさんや、ジルさんがピットアインにいる時にでも相談してみっか」
「うん!……てか、チューヤ、馬が一頭近付いてくるよ?」
チューヤにはまだ見えない。しかし周囲を警戒しているマリアンヌはそれを捕捉したようだ。
「……誰も乗ってないけど、野生の馬じゃないみたいだね。鞍がある」
「なるほど」
やがてその馬と、チューヤ達が近付くとその馬はチューヤの乗る馬に近寄ってきて、並走し始めた。
「ああ、コイツ、あの時逃げた盗賊共の馬か」
「そうみたいだね」
馬は頭の良い生き物だ。しっかりと仲間の馬を認識していたのだろう。
「マリ、そっちのヤツに乗れよ」
「ボクはチューヤの後ろがいい!」
「駄々捏ねんなバカ」
「ちぇ」
そんな会話を理解している訳でもないだろうが、チューヤ達の乗る馬が並走する空馬に寄せていく。そしてマリアンヌがそちらに飛び乗った。
その二頭の後ろを走る荷車を引いた二頭のペースに合わせているので、歩くよりやや早い程度の速度だ。馬の負担も考えて、途中で野宿する事にした二人。手頃な場所を探して野営の準備をし、食事をとりながらマリアンヌが話す。先程の自分の戦闘スタイルについてだ。
「カウンター攻撃に特化したスタイルもボクの特性には合っているとは思うんだ。だけどボクの攻撃には威力が足りない」
「まあ、そうだな」
それでも、多少なりとも身体強化を施した肉体から繰り出される攻撃は、一般人とは比べ物にはならないのだが。
「それでさ、接近される前に叩くってのはどうかな?」
そう言われてチューヤは考える。魔法攻撃は無理。そうなると弓か投擲武器になるが、そこでハッと気付く。
「なんで今まで気付かなかったんだろな。お前の眼がありゃ、いいスナイパーになれるんじゃね?」
「うん、それを考えてた。それでチューヤに聞きたいんだ」
「うん?」
マリアンヌはチューヤが魔族に放った石礫の事を思い出していた。いくらチューヤが投げたとは言え普通の石ころだ。それが魔族の手を破壊してしまうとは何か絡繰りがあるはず。
「あの時さ、投げた石に纏魔を付与してたよね?」
マリアンヌの指摘の通りだった。咄嗟の事ではあったが、剣に魔力を纏わせる要領で石ころを魔力でコーティング。爆発的に強度を上げた状態にして魔族にぶつけた。元々がただの石ころなので魔族にぶつかった衝撃で粉々になってしまったが、一撃の破壊力は十分。しかも魔法が効かない魔族にも有効。
「あれってさ、ボクにも出来るかな?」
「石ころにか?」
「あははは。ボクは強化してもチューヤ程のパワーは出せないからね。そう、例えば矢とか」
「うーん……マリの魔力量じゃ厳しいかもなあ」
「そっか……」
チューヤの言葉を聞いたマリアンヌが分かりやすく落ち込んだ。
そもそも纏魔を発動するための魔力量も問題だが、それ以外にも問題があった。
「それによ、俺が師匠から貰った『シンシア』は魔剣だからまあいいんだが、普通の武器で纏魔をやっちまうと一発で砕けちまう。つまり使い捨てでやらなきゃいけねえんだよ。コスパ悪すぎだろ?」
「そっか、そうだね」
「まあ、それも含めて、元々『シンシア』の持ち主だったジルさんに聞いてみればいいんじゃね?」
「そっか、そうだね!」
チューヤの言葉に対するマリアンヌの答えは二度とも同じものだった。しかし、二回目の返事は幾分テンションが上がっていた。
「あン?」
チューヤの後ろから必要以上に抱き着いているマリアンヌが、真面目な声色でそう語る。もっとも、チューヤからすれば『何言ってんだコイツ』という感じだが。
「ボクさ、今回は戦闘で足を引っ張っちゃった。接近戦しか出来ないのに、それが通用しないとみんながボクを守るために負担が大きくなっちゃう」
「ああ……」
チューヤはそう言えばそうかと思い直す。確かに彼女はバーサク・シープの集団突撃には対応しきれなかったケースもあり、チューヤやカールがフォローに入る場面もいくつかあった。
だが、それを差し引いても彼女の五感を強化する能力は得難いものであり、アストレイズの眼であり耳である。マリアンヌのお陰で優勢に事を運べたケースは数えきれない。
「もうちょっとこう……ボクの能力を活かせるスタイルってないかなぁ?」
人の往来によって踏み固められ、それがそのまま道になったような、ピットアインとイングラ村を繋ぐ街道。その両脇はただの藪であり、さらに逸れていくとそう高くはない山が連なる。
そんな山の緑と空の青を何となく眺めながら、チューヤもマリアンヌの言うスタイルとやらを考えた。
相手の動きをよく観察し、カウンターを当てるのが彼女のスタイルであり、その目のお陰でほぼ攻撃を食らう事は皆無だ。しかし物量にモノを言わせた飽和攻撃にはどうしようもなくなる場合もあるだろう。もっとも、それは彼女だけではなく、チューヤや他のメンバーにも言えた事だ。
それでも、カールやスージィには大出力の魔法という切り札があるし、チューヤにも纏魔という必殺のスキルがある。しかしマリアンヌには戦闘における切り札がない。
(正直ククリナイフも市販されてるヤツだし、火力不足は確かなんだよなぁ……)
「戻ったらマンセルさんや、ジルさんがピットアインにいる時にでも相談してみっか」
「うん!……てか、チューヤ、馬が一頭近付いてくるよ?」
チューヤにはまだ見えない。しかし周囲を警戒しているマリアンヌはそれを捕捉したようだ。
「……誰も乗ってないけど、野生の馬じゃないみたいだね。鞍がある」
「なるほど」
やがてその馬と、チューヤ達が近付くとその馬はチューヤの乗る馬に近寄ってきて、並走し始めた。
「ああ、コイツ、あの時逃げた盗賊共の馬か」
「そうみたいだね」
馬は頭の良い生き物だ。しっかりと仲間の馬を認識していたのだろう。
「マリ、そっちのヤツに乗れよ」
「ボクはチューヤの後ろがいい!」
「駄々捏ねんなバカ」
「ちぇ」
そんな会話を理解している訳でもないだろうが、チューヤ達の乗る馬が並走する空馬に寄せていく。そしてマリアンヌがそちらに飛び乗った。
その二頭の後ろを走る荷車を引いた二頭のペースに合わせているので、歩くよりやや早い程度の速度だ。馬の負担も考えて、途中で野宿する事にした二人。手頃な場所を探して野営の準備をし、食事をとりながらマリアンヌが話す。先程の自分の戦闘スタイルについてだ。
「カウンター攻撃に特化したスタイルもボクの特性には合っているとは思うんだ。だけどボクの攻撃には威力が足りない」
「まあ、そうだな」
それでも、多少なりとも身体強化を施した肉体から繰り出される攻撃は、一般人とは比べ物にはならないのだが。
「それでさ、接近される前に叩くってのはどうかな?」
そう言われてチューヤは考える。魔法攻撃は無理。そうなると弓か投擲武器になるが、そこでハッと気付く。
「なんで今まで気付かなかったんだろな。お前の眼がありゃ、いいスナイパーになれるんじゃね?」
「うん、それを考えてた。それでチューヤに聞きたいんだ」
「うん?」
マリアンヌはチューヤが魔族に放った石礫の事を思い出していた。いくらチューヤが投げたとは言え普通の石ころだ。それが魔族の手を破壊してしまうとは何か絡繰りがあるはず。
「あの時さ、投げた石に纏魔を付与してたよね?」
マリアンヌの指摘の通りだった。咄嗟の事ではあったが、剣に魔力を纏わせる要領で石ころを魔力でコーティング。爆発的に強度を上げた状態にして魔族にぶつけた。元々がただの石ころなので魔族にぶつかった衝撃で粉々になってしまったが、一撃の破壊力は十分。しかも魔法が効かない魔族にも有効。
「あれってさ、ボクにも出来るかな?」
「石ころにか?」
「あははは。ボクは強化してもチューヤ程のパワーは出せないからね。そう、例えば矢とか」
「うーん……マリの魔力量じゃ厳しいかもなあ」
「そっか……」
チューヤの言葉を聞いたマリアンヌが分かりやすく落ち込んだ。
そもそも纏魔を発動するための魔力量も問題だが、それ以外にも問題があった。
「それによ、俺が師匠から貰った『シンシア』は魔剣だからまあいいんだが、普通の武器で纏魔をやっちまうと一発で砕けちまう。つまり使い捨てでやらなきゃいけねえんだよ。コスパ悪すぎだろ?」
「そっか、そうだね」
「まあ、それも含めて、元々『シンシア』の持ち主だったジルさんに聞いてみればいいんじゃね?」
「そっか、そうだね!」
チューヤの言葉に対するマリアンヌの答えは二度とも同じものだった。しかし、二回目の返事は幾分テンションが上がっていた。
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