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三章 ギルド

氷結!ダウンバースト

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 V字型に炎の壁を作り出し、バーサク・シープの群れが自分にしか向かって来られないように仕向けたチューヤと、彼に時間稼ぎを任せて特大の魔法を放つために魔力を練り続けるカール。そしてカールの集中を乱さぬよう彼の近くで護衛するマリアンヌ。

「なんだよ。遠巻きにしてるだけじゃ俺は倒せねえぞ?」

 はじめの数頭は勢いよくチューヤに突っ込んでいったが、彼の持つ『シンシア』は容易くバーサク・シープを切り裂いた。鎧の如く強固な体毛も纏魔てんまを発動させた彼とその剣には紙切れ同然だった。しかも、チューヤが敷いた炎の壁は、彼に近付く程に狭くなるため、一度に突撃出来るのはせいぜい二頭。
 突っ込めば必ず死ぬチューヤという壁を前に、バーサク・シープは遠巻きに睨みつける事しか出来ない。

「待たせたな。下がれ」
「おう」

 後方から聞こえるカールの声に応えてチューヤが数歩後退する。それを好機と見たバーサク・シープが動こうとするが、すぐに状況が変わってしまう。
 空にカールが作り出した巨大な水球が現れ、それが無数の雨粒のようになって降り注ごうとする。しかしそれはさらに上空から叩きつけるように吹き付けられた冷たい暴風によって凍らされ、超スピードで降り注ぐ氷の槍となった。

『メ”ェェェェ!?』

 隙間なく降り注ぐ超速の氷の槍に、逃げ場のないバーサク・シープ達が貫かれていく。物理攻撃には無類の強さを誇る体毛すら貫くカールの魔法に、チューヤですら感嘆していた。

「おお、こりゃすげえな。さすがエリート様だぜ」

 チューヤとしては純粋に褒めているのだが、言葉にどこか棘があるのはどうしようもない習性ゆえか。

「貴様が珍しく裏方に徹したからだ」

 もっとも、カールも同じである。チューヤがいつものように飛び出していっても敵を倒す事は可能だろう。しかし一撃で殲滅させるというスピードを求める為には、チューヤが突っ込んで行っては敵が散り散りになってしまう。そこを踏まえたチューヤの行動は理にかなったものだったのだが、やはり褒め言葉にも棘がある。

「もう、二人共機嫌がよさそうじゃないか。さあ、早くスージィの所へ行こう?」

 お互い素直に称え合うよりは、多少毒づいた方がしっくりくるらしい二人は、互いに微笑を浮かべていた。そんな珍しい光景をもう少し眺めていたかったマリアンヌだが、スージィが実質一人で守る村が気掛かりだったため、急いで移動する事を提案した。彼女としてはバーサク・シープそのものより、もう一つの臭いが気になっていたのである。そして彼女の判断は正しかった。
 纏魔状態のチューヤが先行し、やや遅れてマリアンヌ。先程の魔法で魔力をかなり消費したカールが更に遅れる。そんな状況ながら魔眼つくもがアクティブな状態のマリアンヌが叫ぶ。

「チューヤ! なんか大きい魔力が!」
「あン?」

 マリアンヌの叫びに反応してチューヤも視力に魔力を振り分けた。ただの視力強化でしかないが、遠目ながらスージィと何者かが交戦状態なのが分かる。
 はじめに村の方角から草原にいる何者かに向かって大きな魔法が放たれた。続いて草原の方から村へ向かい巨大な魔力が。殆ど同時に村でも魔力が発生したが、それは村から動いていない。
 マリアンヌの眼には、スージィが先制し、何者かが反撃、それをスージィが防御。そして今、何者かが追撃しようとしているところだという事は分かっていた。あのスージィが防御した上に追撃まで許すとは、かなり劣勢に立たされている事は間違いない。

(でもカールは魔力がまだ回復していない。ボクもチューヤもこの距離では……!)

「クソが! 好き勝手やってンじゃねぇぇぇっ!」

 しかし打つ手なしと思われたこの状況でチューヤが取ったのは、足下にある手頃な大きさの石を拾って力いっぱいブン投げるという行動だった。

(え? え? チューヤの投げたあの石!?)

 マリアンヌの眼だけは、その石の違和感を感じ取っていた。

▼△▼

「ん? なんだ――ぐあっ!?」

 今にもスージィに向けて魔法を放とうとしていた人外の者は、スージィに向けて翳していた右手を猛スピードで接近してくる違和感に向けて動かした。
 かなりの速度。人間の攻撃で最も速度が出るのは弓矢の類。それを更に超えるのが一部の攻撃魔法だ。それ故、人外の者は向かってくるモノは魔法だと判断し、スージィの攻撃を受け止めた時と同じように右手を翳したのだ。
 所詮は人間が放った魔法。無効化する事など造作もない。そう考えての行動だったのだが、人外の者の右手はあっさりと砕けてしまった。

「てめえ、何好き勝手やってンだコラ?」

 自分の砕けた右手を信じられないように見ていた人外の者が声に釣られて顔を上げると、そこには肩で息をする燃えるような緋色の髪を逆立てた男が憤怒の表情で剣を握っていた。
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