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三章 ギルド
強敵の影
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水系統魔法を中心とした攻撃に刺突剣術を絡め、変幻自在な戦術を取るカールと、纏魔による圧倒的な暴力で敵を屠るチューヤ。二人は既にかなりの数のバーサク・シープを倒していた。
「くぅっ!」
マリアンヌは正面から来るバーサク・シープの額にククリナイフを突き刺し、そのまま跳躍してやり過ごす。しかしその着地点を狙うように別のバーサク・シープの角が襲う。しかしそれにはカールの氷弾が直撃し、マリは無事に着地点を確保出来た。
先程額にナイフを突き刺した個体は既に事切れており、マリアンヌはナイフを回収しに走る。しかしそこにも別のバーサク・シープが襲い掛かった。
「あぶねえ!」
今度はチューヤが属性を込めていない普通の剣閃を飛ばしてそのバーサク・シープの首を刎ねた。危ういところで危機を回避したマリアンヌが油断なく周囲を窺うが、再びバーサク・シープが彼女を襲う。
なぜかマリアンヌに集中するヘイトを引きはがそうと、チューヤとカールが必死で攻撃するが、バーサク・シープの群れは執拗に彼女を狙う。
「ちっくしょ! なんだよこいつら!」
通常ならヘイトを既に奪っているはずなのに、マリアンヌにばかり向かうバーサク・シープにイラつきを隠せないチューヤ。『シンシア』を乱舞しながらマリアンヌに近付き彼女を守るポジションに移る。
「防御陣形で迎え撃つぞ!」
同じくカールもマリアンヌの近くに移動し、マリアンヌを守る陣形を形成した。
(くぅ、ボクに力があれば!)
マリアンヌも変異種相手に一対一なら引けは取らない。それだけでも一般人とは一線を画している。しかしカールやスージィのような攻撃魔法は撃てないし、チューヤの纏魔のような奥の手も無い上に、武器も一般的なものだ。そんな彼女が変異種から集中攻撃を受けては、折角の五感を強化するスキルも回避を手助けするにすぎない。
また、チューヤもカールもそれは承知しているため、バーサク・シープのヘイト管理が全く出来ない事が分かるとすぐさまマリアンヌの援護に回った。
そもそもの戦略が、カールがバーサク・シープのヘイトを引き受けチューヤがそれに横槍を入れて群れの行動を混乱させる。それを一歩引いた場所からマリアンヌが指示を出し、効率良く敵を倒していこうというものだった。
しかし司令塔とも言える彼女を真っ先に潰そうとするバーサク・シープ達の行動は全くの予想外で、いきなりのピンチを迎えた。しかも。
「チューヤ! カール! 五頭くらいが村に向かった!」
マリアンヌの魔眼白がそれを捉えた。しかし、自分達も三十から四十程は残っていると思われるバーサク・シープを相手どっているため、村に救援に向かうのも容易ではない。
カールならば広範囲を殲滅する大魔法も撃てるだろうが、状況は接近戦、魔法を撃つためのタメを稼ぐ事が容易ではない。
「おい。テメエはこいつらを全部ブッ殺せるだけのでけえヤツぶちかませ。その時間は俺が稼いでやる。マリはそいつの護衛を頼む」
「うん!」
そこでチューヤがひとつの決断をした。
今頃スージィは村を囲むように防壁を構築しているだろう。それに彼女ならば、防壁を盾に魔法で一方的に攻撃できる可能性が高い。つまり、村の救援は後回しにしても十分だという決断。
「手早く終わらせる」
カールもそれを理解しているのか、前線をチューヤに任せ後退した。チューヤを先頭にやや離れてマリアンヌ、その後方にカールという陣形だ。
「こっから先は一歩も通さねえ!」
チューヤは赤い魔力を纏わせた『シンシア』二度振るった。二本の赤い直線がチューヤを頂点にVの字型に奔った。その赤い線はバーサク・シープを包み込み、燃え盛る炎の壁となった。
「さあ、俺に斬られるか炎の壁に焼かれるか、好きな方を選びやがれ!」
チューヤが指をチョイチョイと動かしバーサク・シープを挑発しながら凶悪に笑った。
一方、マリアンヌは、後ろで魔法陣を作り出しそれに魔力を注ぎ込んでいるカールに懸念している事を告げていた。
「やっぱりおかしい。変異種がここまで人間的な作戦を……変だよね?」
変異種というものは元になっている獣よりも全てにおいて強化されているが、それは知能においても例外ではない。例えば野生で群れを成して生きている獣が変異した場合、さらに洗練された集団行動を取る事は珍しくない事は知られている。しかしそれには群れを統率する強力な個体がいる事が前提だ。
「少なくともこの群れにはリーダーのようなものは見受けられないな」
マリアンヌに答えたカールが言う通り、このバーサク・シープの群れにはリーダーがいなかった。にもかかわらず、まるで優秀な軍師に率いられた軍団のように攻撃してくる。さらに村に向かう集団を別行動させるなど、もはや人間が指揮しているのではないかとすら思える。
「だが、それは後回しだ。まずはこの集団を殲滅するぞ」
「……うん」
カールの言葉に頷くマリアンヌだが、バーサク・シープの臭いとは別の臭いが、村に向かった集団の後を追うように動いている事に気付いた。
「何か別の臭いが村に向かってる!」
「もう少しだ!」
濃い青と緑。カールが構築した二つの魔法陣が徐々に光の強さを増していた。
「くぅっ!」
マリアンヌは正面から来るバーサク・シープの額にククリナイフを突き刺し、そのまま跳躍してやり過ごす。しかしその着地点を狙うように別のバーサク・シープの角が襲う。しかしそれにはカールの氷弾が直撃し、マリは無事に着地点を確保出来た。
先程額にナイフを突き刺した個体は既に事切れており、マリアンヌはナイフを回収しに走る。しかしそこにも別のバーサク・シープが襲い掛かった。
「あぶねえ!」
今度はチューヤが属性を込めていない普通の剣閃を飛ばしてそのバーサク・シープの首を刎ねた。危ういところで危機を回避したマリアンヌが油断なく周囲を窺うが、再びバーサク・シープが彼女を襲う。
なぜかマリアンヌに集中するヘイトを引きはがそうと、チューヤとカールが必死で攻撃するが、バーサク・シープの群れは執拗に彼女を狙う。
「ちっくしょ! なんだよこいつら!」
通常ならヘイトを既に奪っているはずなのに、マリアンヌにばかり向かうバーサク・シープにイラつきを隠せないチューヤ。『シンシア』を乱舞しながらマリアンヌに近付き彼女を守るポジションに移る。
「防御陣形で迎え撃つぞ!」
同じくカールもマリアンヌの近くに移動し、マリアンヌを守る陣形を形成した。
(くぅ、ボクに力があれば!)
マリアンヌも変異種相手に一対一なら引けは取らない。それだけでも一般人とは一線を画している。しかしカールやスージィのような攻撃魔法は撃てないし、チューヤの纏魔のような奥の手も無い上に、武器も一般的なものだ。そんな彼女が変異種から集中攻撃を受けては、折角の五感を強化するスキルも回避を手助けするにすぎない。
また、チューヤもカールもそれは承知しているため、バーサク・シープのヘイト管理が全く出来ない事が分かるとすぐさまマリアンヌの援護に回った。
そもそもの戦略が、カールがバーサク・シープのヘイトを引き受けチューヤがそれに横槍を入れて群れの行動を混乱させる。それを一歩引いた場所からマリアンヌが指示を出し、効率良く敵を倒していこうというものだった。
しかし司令塔とも言える彼女を真っ先に潰そうとするバーサク・シープ達の行動は全くの予想外で、いきなりのピンチを迎えた。しかも。
「チューヤ! カール! 五頭くらいが村に向かった!」
マリアンヌの魔眼白がそれを捉えた。しかし、自分達も三十から四十程は残っていると思われるバーサク・シープを相手どっているため、村に救援に向かうのも容易ではない。
カールならば広範囲を殲滅する大魔法も撃てるだろうが、状況は接近戦、魔法を撃つためのタメを稼ぐ事が容易ではない。
「おい。テメエはこいつらを全部ブッ殺せるだけのでけえヤツぶちかませ。その時間は俺が稼いでやる。マリはそいつの護衛を頼む」
「うん!」
そこでチューヤがひとつの決断をした。
今頃スージィは村を囲むように防壁を構築しているだろう。それに彼女ならば、防壁を盾に魔法で一方的に攻撃できる可能性が高い。つまり、村の救援は後回しにしても十分だという決断。
「手早く終わらせる」
カールもそれを理解しているのか、前線をチューヤに任せ後退した。チューヤを先頭にやや離れてマリアンヌ、その後方にカールという陣形だ。
「こっから先は一歩も通さねえ!」
チューヤは赤い魔力を纏わせた『シンシア』二度振るった。二本の赤い直線がチューヤを頂点にVの字型に奔った。その赤い線はバーサク・シープを包み込み、燃え盛る炎の壁となった。
「さあ、俺に斬られるか炎の壁に焼かれるか、好きな方を選びやがれ!」
チューヤが指をチョイチョイと動かしバーサク・シープを挑発しながら凶悪に笑った。
一方、マリアンヌは、後ろで魔法陣を作り出しそれに魔力を注ぎ込んでいるカールに懸念している事を告げていた。
「やっぱりおかしい。変異種がここまで人間的な作戦を……変だよね?」
変異種というものは元になっている獣よりも全てにおいて強化されているが、それは知能においても例外ではない。例えば野生で群れを成して生きている獣が変異した場合、さらに洗練された集団行動を取る事は珍しくない事は知られている。しかしそれには群れを統率する強力な個体がいる事が前提だ。
「少なくともこの群れにはリーダーのようなものは見受けられないな」
マリアンヌに答えたカールが言う通り、このバーサク・シープの群れにはリーダーがいなかった。にもかかわらず、まるで優秀な軍師に率いられた軍団のように攻撃してくる。さらに村に向かう集団を別行動させるなど、もはや人間が指揮しているのではないかとすら思える。
「だが、それは後回しだ。まずはこの集団を殲滅するぞ」
「……うん」
カールの言葉に頷くマリアンヌだが、バーサク・シープの臭いとは別の臭いが、村に向かった集団の後を追うように動いている事に気付いた。
「何か別の臭いが村に向かってる!」
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