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三章 ギルド
防壁
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村の被害は死者こそいなかったものの、重軽傷問わず怪我人は多数出ていた。三十戸程に百人程度だというこの村で、重傷者は十八人。殆どが村を守る為に先頭に立って戦った憲兵は若者だった。命にかかわる怪我ではなかった事は不幸中の幸いだが、村を復旧させるための男手という意味では実に痛い。
そのためにアンドリューがミラを伴って近隣のウェル村とスコティ村へ応援を募りに行ったのだが、早くてもあと二日程は掛かるという。しかも応援の人員がどれだけ来るのかは不確定だ。
「こいつらも使いましょ」
スージィがそう言って盗賊の四人を見る。カールの魔法による氷の手枷は解除されており、代わりにスージィの魔法による石の手枷が嵌められている盗賊達は、その重さに辟易とした表情だ。
「しかし、途中で逃げたり襲ってきたりはしませんかな?」
村長のジョージが心配そうに訊ねるが、スージィの方は涼しい顔だ。
「あら、大丈夫よ。手枷から逃れるには手首から先を斬り落とすか、あたしを倒すしかないもの。それが出来るならどうぞご自由に」
「しかし、今はお嬢さん一人だ。万が一という事も……」
ジョージはあくまでスージィを心配しているらしい。いや、スージィに万が一の事があった場合、盗賊達が自分達に対する報復するのを恐れているのか。
「そうねえ。じゃあその万が一があり得るかどうか、あたしの力をとくと見なさい」
彼女は捻じれた木製の杖を掲げる。すでに日は沈み、辺りの空は紫色から紺色へと色を変えていく中で、その杖からは黄色く輝く直径三メートルはあろうかという巨大な魔法陣が展開された。黄昏が終わり本格的な闇が訪れ、かがり火のオレンジと魔法陣の黄色が神秘的ですらある。
かなりの大規模魔法を行使するつもりなのか、スージィが集中している時間が長い。息遣いも荒くなり、額からは汗が滴り落ちる。その様子を、村人はおろか盗賊達も息を呑んで見つめていた。
「ふう~」
スージィが一息。そして杖を扇状に動かした。
すると、杖に合わせて魔法陣も動く。しかも、ただ動くのではなく村の外周に向かって光線を放っていた。
――ズズズズ……
その光線が着弾すると、地響きを立てながら地面が隆起し、高さ三メートルもある防壁があっという間に築かれてしまった。
「ははは、ちょっと頑張っちゃったわ。村長さん、一応あの防壁を確認してもらえるかしら?」
「え、ええ」
額の汗を拭いながらそう言うスージィに頷き、ジョージが防壁へと小走りで向かって行った。
「こ、これは!」
そこでジョージが見たものは、想像を遥かに超えたものだった。
高さ三メートル、厚さ一メートルの分厚い壁。内側から見ただけでは分からなかったその厚さも驚きだったが、ジョージが驚愕したのはそれだけではない。
「ファランクスか槍衾か……」
その防壁から、鋭く尖った突起がまるで槍のように無数に外に向かって突き出されている。その姿は槍を持った部隊の密集陣形を連想させた。
驚きから落ち着きを取り戻したジョージが戻り、スージィに言う。
「まるで要塞ですな」
「そうね。あいつらが失敗するとは思えないけど、これならバーサク・シープがこっちに逃げて来ても跳ね返せるでしょ。あ、心配しないで。魔法を解除すれば地形は元に戻るから」
そんな彼女の言葉を聞いたジョージが苦笑する。
(魔法を解除するなど勿体ない話ですな。できればこのまま使わせていただきたいものです)
後にこの防壁は、スージィ・ファランクスと呼ばれ、長い間村を守ったと言う。
そのためにアンドリューがミラを伴って近隣のウェル村とスコティ村へ応援を募りに行ったのだが、早くてもあと二日程は掛かるという。しかも応援の人員がどれだけ来るのかは不確定だ。
「こいつらも使いましょ」
スージィがそう言って盗賊の四人を見る。カールの魔法による氷の手枷は解除されており、代わりにスージィの魔法による石の手枷が嵌められている盗賊達は、その重さに辟易とした表情だ。
「しかし、途中で逃げたり襲ってきたりはしませんかな?」
村長のジョージが心配そうに訊ねるが、スージィの方は涼しい顔だ。
「あら、大丈夫よ。手枷から逃れるには手首から先を斬り落とすか、あたしを倒すしかないもの。それが出来るならどうぞご自由に」
「しかし、今はお嬢さん一人だ。万が一という事も……」
ジョージはあくまでスージィを心配しているらしい。いや、スージィに万が一の事があった場合、盗賊達が自分達に対する報復するのを恐れているのか。
「そうねえ。じゃあその万が一があり得るかどうか、あたしの力をとくと見なさい」
彼女は捻じれた木製の杖を掲げる。すでに日は沈み、辺りの空は紫色から紺色へと色を変えていく中で、その杖からは黄色く輝く直径三メートルはあろうかという巨大な魔法陣が展開された。黄昏が終わり本格的な闇が訪れ、かがり火のオレンジと魔法陣の黄色が神秘的ですらある。
かなりの大規模魔法を行使するつもりなのか、スージィが集中している時間が長い。息遣いも荒くなり、額からは汗が滴り落ちる。その様子を、村人はおろか盗賊達も息を呑んで見つめていた。
「ふう~」
スージィが一息。そして杖を扇状に動かした。
すると、杖に合わせて魔法陣も動く。しかも、ただ動くのではなく村の外周に向かって光線を放っていた。
――ズズズズ……
その光線が着弾すると、地響きを立てながら地面が隆起し、高さ三メートルもある防壁があっという間に築かれてしまった。
「ははは、ちょっと頑張っちゃったわ。村長さん、一応あの防壁を確認してもらえるかしら?」
「え、ええ」
額の汗を拭いながらそう言うスージィに頷き、ジョージが防壁へと小走りで向かって行った。
「こ、これは!」
そこでジョージが見たものは、想像を遥かに超えたものだった。
高さ三メートル、厚さ一メートルの分厚い壁。内側から見ただけでは分からなかったその厚さも驚きだったが、ジョージが驚愕したのはそれだけではない。
「ファランクスか槍衾か……」
その防壁から、鋭く尖った突起がまるで槍のように無数に外に向かって突き出されている。その姿は槍を持った部隊の密集陣形を連想させた。
驚きから落ち着きを取り戻したジョージが戻り、スージィに言う。
「まるで要塞ですな」
「そうね。あいつらが失敗するとは思えないけど、これならバーサク・シープがこっちに逃げて来ても跳ね返せるでしょ。あ、心配しないで。魔法を解除すれば地形は元に戻るから」
そんな彼女の言葉を聞いたジョージが苦笑する。
(魔法を解除するなど勿体ない話ですな。できればこのまま使わせていただきたいものです)
後にこの防壁は、スージィ・ファランクスと呼ばれ、長い間村を守ったと言う。
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