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三章 ギルド
バーサク・シープ
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「マリ! 馬を頼んだ!」
「うん!」
チューヤは手綱をマリアンヌに任せ、走っている馬から飛び降り前転して衝撃を殺す。それだけでも身体能力の高さを窺わせるが、背中の愛剣『シンシア』を抜くと刃に炎の魔力を纏わせた。これが纏魔の真骨頂である魔法剣だ。ここまでの動作が途轍もなく速い。
元々使い手が少ない纏魔だが、チューヤのように外部に魔法を放てないというタイプはさらに珍しい。師匠であるシンディは魔法の腕も超一流の纏魔の使い手であり、そういった才能に恵まれた者に発現するケースが殆どだからだ。しかしチューヤは有り余る保有魔力で強引に発現させてしまった。
そして纏魔のもう一つの性能とでも言えるのが魔法の吸収だ。吸収というのは語弊があるかもしれないが、纏魔を発動した状態で魔法攻撃を喰らいながらも耐えきる。それにより、その属性魔法を身体が覚えてしまうというものだ。
しかしチューヤの場合はせっかく身体が覚えた属性魔法も、魔法陣を生成して魔法を発動させるという能力がない。それゆえに落ちこぼれクラスに編入された訳だ。
それでもそれを補うのが纏魔というレアスキルで、覚えた属性魔法を身に纏ったり手にした武器に纏わせたりする事が出来る。もっとも、並の武器では強度を高めるのが関の山なのだが、魔法剣という技を十全に発揮できるのが魔剣『シンシア』なのだ。
「おらあああああ!」
チューヤは炎を纏わせた刃を縦に振り下ろす。すると、羊の変異種と村との間に一条の炎が奔った。
ゴウッ! と音をたてて燃え上がる炎の壁は、これ以上変異種の侵入を許さない。しかしすでに侵入してしまった変異種は角を突き立て突進し、村人を襲っている。
「マリ! 中に入っちまったヤツを頼めるか!?」
「任せて!」
「
外見はモコモコとした羊毛に包まれた巨大な羊だが、その羊毛は変異によって鎧と化しているという。武器による攻撃も魔法も、打撃や斬撃といった攻撃ならば身体に届く前に衝撃を殺してしまう。
しかし弱点が無い訳ではない。それは頭部だ。マリアンヌの動体視力と身体強化ならばピンポイントで眉間に一撃食らわせる事も可能だろう。そう踏んだチューヤは村落に入ってしまった変異種をマリアンヌに任せ、自分は炎の壁の外にいる変種達に対峙した。
「……二十頭ってトコか? 聞いてたより少ねえな。まあいいか。ブッ飛ばす!」
『メエェェェ……』
羊の変異種――バーサク・シープが威嚇するように低い唸り声を上げる。身体が大きいだけではなく、くるりと巻いた角の先端が鋭く前方を向いている。より攻撃的に変異したか。
そのバーサク・シープが一斉にチューヤを見て前脚でカツカツと地面を掻く。これから突進するぞ、の合図だ。種族の習性とでも言うか、群れが纏まって行動するあたりはまさに羊で、全てが密集しながら突っ込んできた。
「へっ、バカヤロウが」
チューヤは笑みを浮かべながら『シンシア』を横に一閃する。もちろんただ剣を振っただけではない。そこから発せられたのは水属性の氷の斬撃だった。
チューヤとバーサク・シープとの間の地面が凍り付く。先頭を切っていたバーサク・シープが足を滑らせて転倒すると、それに躓いた後続も次々と転倒していく。中には難を逃れてチューヤに迫る個体もいるが。
「けっ! 黙ってコケてりゃいいのによ」
今度は属性魔法は使わず、純粋な纏魔による剣と身体の強化。途轍もないスピードとパワー、そして切れ味と硬度。その全てが凝縮された斬撃は、容易くバーサク・シープの首を落としていく。刃物が通らないと言われていた羊毛に守られた首が、まるで抵抗なく斬られていく。
「おらおら! 次行くぞ次!」
足場を凍らされて思うように動けないバーサク・シープに容赦なく斬撃を加えていく。七頭ほど倒しただろうか。そこでチューヤを脅威と認識したのかバーサク・シープが反転して逃げ出していく。纏魔起動中のチューヤならば追い付けないスピードではないが、ここは村の中を優先すべきとの判断で追撃を諦め、炎の壁を消火し村の中へ向かった。
「うん!」
チューヤは手綱をマリアンヌに任せ、走っている馬から飛び降り前転して衝撃を殺す。それだけでも身体能力の高さを窺わせるが、背中の愛剣『シンシア』を抜くと刃に炎の魔力を纏わせた。これが纏魔の真骨頂である魔法剣だ。ここまでの動作が途轍もなく速い。
元々使い手が少ない纏魔だが、チューヤのように外部に魔法を放てないというタイプはさらに珍しい。師匠であるシンディは魔法の腕も超一流の纏魔の使い手であり、そういった才能に恵まれた者に発現するケースが殆どだからだ。しかしチューヤは有り余る保有魔力で強引に発現させてしまった。
そして纏魔のもう一つの性能とでも言えるのが魔法の吸収だ。吸収というのは語弊があるかもしれないが、纏魔を発動した状態で魔法攻撃を喰らいながらも耐えきる。それにより、その属性魔法を身体が覚えてしまうというものだ。
しかしチューヤの場合はせっかく身体が覚えた属性魔法も、魔法陣を生成して魔法を発動させるという能力がない。それゆえに落ちこぼれクラスに編入された訳だ。
それでもそれを補うのが纏魔というレアスキルで、覚えた属性魔法を身に纏ったり手にした武器に纏わせたりする事が出来る。もっとも、並の武器では強度を高めるのが関の山なのだが、魔法剣という技を十全に発揮できるのが魔剣『シンシア』なのだ。
「おらあああああ!」
チューヤは炎を纏わせた刃を縦に振り下ろす。すると、羊の変異種と村との間に一条の炎が奔った。
ゴウッ! と音をたてて燃え上がる炎の壁は、これ以上変異種の侵入を許さない。しかしすでに侵入してしまった変異種は角を突き立て突進し、村人を襲っている。
「マリ! 中に入っちまったヤツを頼めるか!?」
「任せて!」
「
外見はモコモコとした羊毛に包まれた巨大な羊だが、その羊毛は変異によって鎧と化しているという。武器による攻撃も魔法も、打撃や斬撃といった攻撃ならば身体に届く前に衝撃を殺してしまう。
しかし弱点が無い訳ではない。それは頭部だ。マリアンヌの動体視力と身体強化ならばピンポイントで眉間に一撃食らわせる事も可能だろう。そう踏んだチューヤは村落に入ってしまった変異種をマリアンヌに任せ、自分は炎の壁の外にいる変種達に対峙した。
「……二十頭ってトコか? 聞いてたより少ねえな。まあいいか。ブッ飛ばす!」
『メエェェェ……』
羊の変異種――バーサク・シープが威嚇するように低い唸り声を上げる。身体が大きいだけではなく、くるりと巻いた角の先端が鋭く前方を向いている。より攻撃的に変異したか。
そのバーサク・シープが一斉にチューヤを見て前脚でカツカツと地面を掻く。これから突進するぞ、の合図だ。種族の習性とでも言うか、群れが纏まって行動するあたりはまさに羊で、全てが密集しながら突っ込んできた。
「へっ、バカヤロウが」
チューヤは笑みを浮かべながら『シンシア』を横に一閃する。もちろんただ剣を振っただけではない。そこから発せられたのは水属性の氷の斬撃だった。
チューヤとバーサク・シープとの間の地面が凍り付く。先頭を切っていたバーサク・シープが足を滑らせて転倒すると、それに躓いた後続も次々と転倒していく。中には難を逃れてチューヤに迫る個体もいるが。
「けっ! 黙ってコケてりゃいいのによ」
今度は属性魔法は使わず、純粋な纏魔による剣と身体の強化。途轍もないスピードとパワー、そして切れ味と硬度。その全てが凝縮された斬撃は、容易くバーサク・シープの首を落としていく。刃物が通らないと言われていた羊毛に守られた首が、まるで抵抗なく斬られていく。
「おらおら! 次行くぞ次!」
足場を凍らされて思うように動けないバーサク・シープに容赦なく斬撃を加えていく。七頭ほど倒しただろうか。そこでチューヤを脅威と認識したのかバーサク・シープが反転して逃げ出していく。纏魔起動中のチューヤならば追い付けないスピードではないが、ここは村の中を優先すべきとの判断で追撃を諦め、炎の壁を消火し村の中へ向かった。
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