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三章 ギルド

マリには見えていたらしい

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「へえ、そんな面白い事があったんだ? ボクも見たかったなぁ」

 翌日、家族と一緒に過ごしてきたマリアンヌとスージィが屋敷に戻ってきた。そこで昨日あった事の顛末をお互いに報告しているところである。執事のマンセルが腕利きの元暗殺者であり、模擬戦でチューヤを圧倒したという事から、マリアンヌは興味津々だ。
 そしてもう一人、スージィはというと。

「え? チューヤが手も足も出ない? ウソでしょ?」

 養成学校では首席。魔法が使えないというハンデを物ともせず、伝説のスキル纏魔てんまを自力で発動させ、教官を相手に圧倒する。そんなチューヤが防御一辺倒だったという事が信じられないようだ。
 彼女にとってチューヤとカールは超えるべき目標であり、憧れでもある。なのでその驚きはマリアンヌよりも大きいと言えるかも知れない。
 その点マリアンヌはスージィとは少々スタンスが違う。彼女はチューヤに全幅の信頼を置いており、たとえどれだけ苦戦しようとも最後には必ず勝つ。そう信じて疑っていない。仮にピンチに陥っても、自分がチューヤをフォローして勝利に導くという確固とした信念がある。彼女が驚いたのはむしろマンセルの正体と、チューヤを追い詰める程の使い手だったという事だ。

「多分ね、見えない感じないなんてものはチューヤの弱点にはならないよ」

 マリアンヌがドヤ顔でそう言う。なぜチューヤがマンセルの攻撃を躱し続けられたのか。当の本人ですらよく分かっていないそれを、彼女だけは知っているような口ぶりだ。そう言われると、全員の興味がマリアンヌの言葉に注がれるのは無理もない。

「是非、お聞かせ願いですな」
「おう、俺も俺も!」

 中でも模擬戦をした当事者二人は特に食いつきが凄い。

「うん、それはね、チューヤは無意識にだろうけど、いつも薄い魔力を身体にまとっているんだ。魔力のヴェールとでも言ったら分かりやすいかな」

 魔眼つくも。それは通常の視力強化を遥かに超える力をもたらすマリアンヌの奥の手とも言えるスキルだ。通常は見る事が出来ない魔力をことが出来る。

「ボクが師匠の家に転がり込んで修行を始めた頃にはもう視えてたよ? はじめは纏魔の訓練の為に意識的にやっているのかと思ったけど、どうも違うみたいでさ。寝てる時もごはん食べてる時も、学校で座学してる時も、いつもなんだ」
「……お前、いつも俺の事見てたのか」
「うん! そうだよ!」
「あ、そう」

 無意識ゆえに魔力を操作している自覚すらない為、魔法使いですら魔力の流れを感じ取れないのだという。故に、気付いたのは魔眼を持つマリアンヌだけらしい。

「つまり、チューヤの身体の周囲には魔力によるセンサーが張り巡らされているという事か」
「その魔力センサーのエリアを侵すものがあれば、それを感じる事が出来るって事ね」

 カールとスージィがそれなら理解できると納得の表情だ。

「でもチューヤ様、そういう芸当が出来るなら、普段から使えばいいのでは?」

 そんなミラの言葉に一同が頷くが、チューヤとマリアンヌはそれは違うという。

「昨夜のは相手が見えないっていう紙一重の状況だったからな」
「そうそう。普段相手が見える状態だと、やっぱり目に頼っちゃうんだよ。なまじ動体視力に優れていると特にね。これはもう本能的なものだから、ちょっとやそっとじゃどうしようもないんじゃないかなぁ?」

 見える時は目に頼り、聞こえる時は耳に頼る。だが昨夜の模擬戦は五感というものが役に立たなかった。だからこそ開眼したチューヤの素質だという。

「何か不便を感じないと、人間って進化しないのかもね」

 クラスの中でも鳴かず飛ばずでもがいていたマリアンヌだからこそ言える事だろうか。魔法は撃てない。身体強化も弱い。それでも何か出来ないかとあがいた結果が五感の強化であり、それがチューヤによって見出されたのだから。
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