上 下
87 / 160
二章 立志

閑話

しおりを挟む
「へえ、ピットアインでギルド設立ねえ……」

 シンディは折り畳まれていた手紙を開き、一通り読み終えるとフッと鼻で笑った。
 言うまでもなく、ジルからの近況報告である。

「個性が強い連中だからねぇ、組合でうまくやって行けるか心配だったんだが……まさか組合の商売敵になっちまうとは。ははは!」

 チューヤ達がミナルディへと旅立ってから、心の底から笑えたのは初めてだったかも知れない。
 彼等が国外へ脱出する原因となったあの事件の後、シンディ自ら禍根となる伯爵家を潰した。
 チューヤ達に非がないにもかかわらず、私兵や盗賊を動かして暗殺紛いの事をする。決して許される事ではないが、国に裁きを任せておくと、軽いお咎め程度で済んでしまうのが貴族というものだ。
 それでは例え国外に脱出したとしても、彼等に危害が及ぶ危険はあるし、何よりも国内に残っているカール、スージィ、マリアンヌの家族が危ない。
 それを事前に食い止めるために、シンディはデヴィッド教官諸共、彼の伯爵家を潰したのだ。勿論、デヴィッドの悪行の数々の証拠は揃えており、国を相手に喧嘩する覚悟は出来ている。それでもまだグダグダと言ってくるようであれば。

「そうですか。仕方ありませんね。出奔します」

 シンディの行為はやりすぎだの、裁定は国の然るべき機関に任せるべきだなどとねちっこく小言を言われた挙句にシンディの事まで罪に問おうとした、事情聴取を行っていた高位の役人に向かって言い放った言葉である。
 その一言で役人は顔色を失った。何しろスクーデリア王国最強と言われる『殲滅』が、他国へ流出するというのだ。中立国ならまだしも、敵国へ出奔されでもしたら……
 それに、このシンディという人間はやると言ったらやる。実際にやらかした上級貴族を一家丸ごと消し炭にしたが故に、こうして事情聴取しているのだ。

 結局、その場は役人が折れて、シンディもチューヤ達も無罪という事になった。役人が自分の判断で最強戦力を流出させるという責任を負いたくなかったが故だ。
 しかし、そういった面子やプライドを潰された者の恨みが消え去る訳でもなく、報復の機会を窺っている。
 シンディもそれが分かっているから、国内に残る家族達を守る為に尽力していた。しかし、最近になってきな臭い噂が流れ始めていた。

「教官、ちらっと小耳に挟んだんすけど……」

 養成学校での休み時間、そう言って話しかけてきたのは『脳筋クラス』の生徒だった。

「ウチの親父、街で酒場をやってるんすよ。そこで酔っぱらった憲兵達が……」

 その生徒の話を要約すると、養成学校を退学になった生徒の家族を近いうちに拘束する作戦が計画されているらしい。向こうとしてもシンディの息が掛かっているのが承知している為、念入りに作戦を練っているようだ。
 誰の差し金かまでは分からないが、そこまでする以上、カールの両親に対しても動きがあるはずだ。

「それってやっぱり、スージィやマリアンヌの事っすよね?」
「ん? さあな。まあ、お前は心配しないで訓練に励みな。午後も厳しくいくぞ?」

 表面上は明るくそう返したものの、シンディは次の一手に向けて行動を移そうとしていた。
 
(ま、遅かれ早かれ、こうなるのは仕方なかったからな)

 シンディはその夜、とある人物と接触を持った。


 
しおりを挟む
感想 103

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

性転のへきれき

廣瀬純一
ファンタジー
高校生の男女の入れ替わり

今日の授業は保健体育

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。 その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。 ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

処理中です...