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二章 立志

バトルメイド?

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 ジルが斡旋してくれた豪邸と、ミラと名乗るハウスキーパーの少女。黒いゴシックドレスを着ているところを見ると、メイドとして住み込むのかも知れない。

「君がジル会長の代わりに私達を監視するという訳か?」

 そのミラを真っ直ぐ見据えながらカールが言う。しかし、当のミラはコテンと首を傾げて不思議そうな表情で答えた。

「監視、ですか?」
「……」

 そのまま二人の視線が交錯する。やがて、ミラがふっと柔らかい笑みを浮かべた。黒いメイド服に花が咲いたような可憐な笑顔。このコンボにはカールも一瞬虚を突かれたようだ。
 その様子を緊張しながら見ているのはスージィ。ゴグルをしながら魔眼・つくもを発動しているマリアンヌ。チューヤは厳しい表情だ。
 そんな中、ミラが口を開いて朗らかに言う。

「ジル様がこのお屋敷をあてがわれたという事は、皆様はとても大事なお客様という事です。私はそんな皆様に不自由させる事が無いよう、誠心誠意お仕えするだけです」
 
 聞けば、この屋敷は元々とある貴族の屋敷で、この屋敷を抵当にいれてジルのパーソン商会から借金をしていたのだという。しかし支払いが滞り、ジルの手に渡った。
 しかし元の主である貴族はジルの父親の代から商会の後ろ盾となっていた事もあり、その貴族にはきちんとした仕事を斡旋し、現在はミナルディ王都にいるという事だ。

「ジル様が大変お世話になったお方のお屋敷という事で、大切にお手入れしていますし。滅多な事ではこのお屋敷を他人にあてがう事はありません。というか、初めてなんですよ?」

 先程と変わらぬ可憐な笑顔のミラ。
 しかしマリアンヌがチラリとチューヤを見た。それだけでチューヤは、ミラの言葉そのまますべてを信じられない事を悟る。魔眼・つくもを発動させていたマリアンヌが反応したという事は、ミラの体内で魔力が動いたか、放出させたという事だ。
 また彼女の方も、カールに疑われた時点ですぐさま反応出来るように準備を整えていたという事になる。つまり、このミラという少女は只者ではない。

(ま、確かめてみりゃ分かんだろ)

 一歩前でミラと話していたカール以外の三人は、彼女との距離およそ五メートル。しかしその程度の間合い、チューヤの身体強化に掛かれば一瞬で詰められる。
 そしてチューヤが足に魔力を流して力を込めた瞬間。

「――!!」

 目を見開いたミラが二歩、三歩と後方に飛び退いた。
 そして片膝を地面に付き、両手を前に出して叫ぶ。

「お待ちください! 全てお話しします!」

(へえ~?)

 その反応にチューヤは感心する。カールの後方にいた自分の、ほんの僅かな兆候を見逃さずに危機を回避しようとしたその能力にだ。特殊な力かそれともカンか。はたまた観察眼が優れているのか。いずれにしてもかなりの手練れである事は今ので明らかになった。
 そんなミラの反応に、何が起こったのか分からなかったのはスージィ。またマリアンヌはその魔眼ゆえ、チューヤのやろうとした事は分かる。しかしそれに反応したミラには驚きを隠せない。
 そしてカールは、チューヤと同じ事をしようとしていたのか、腰のエストックに手が掛けられていた。故に、やはりミラの反応の速さには関心していた。

「敵対したり危害を加えたりするつもりは一切ありません! ほら! ほらっ!」

 立ち上がったミラは、おもむろにスカートをたくし上げる。小さな布地が露わになるが、それは決して色仕掛けなどではなく、武器等隠し持っていないという身の潔白を示すものだ。そこにいる全員がそれを分かってはいるが、咄嗟にマリアンヌがミラの前に立ちふさがった。

「チューヤは見ちゃダメ!」
「ンだよ? カールのヤロウはガン見してるぞ?」
「カールは!……別にいいかな」

 そこでようやく、カールが美少女メイドの下着を見ているという事態に気付いたスージィが、カールの首を強引に横に向けた。

「おゴッ!?」
「ちょっと! いつまでパンツ見てるのよ!」
「わ、私はパンツなど見ていない!」
「……じゃあ、どんなパンツだった?」
「ドットだ……あ、いや、よく分からんな」

 ミラのパンツの柄まで口にしたカールに、全員のジト目が集まる。

「「「ギルティ」」」
「あの~?」

 ジト目を浴びて居たたまれなくなっているカールに助け舟を出した訳でもないだろうが、ミラがおずおずと声をあげた。

「もうよろしいでしょうか? 恥ずかしいです……」

 そう言って、彼女はスカートをたくし上げたままの状態で俯いた。
 
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