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二章 立志
それぞれのプライド
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戦場に残された武具や装備品を拾い集め、それを売却して金を稼ぐ。貴族であるカールから見て、それは酷く下衆な行為に思えた。ある意味、戦場で散った者達への冒涜とすら思える。
彼の表情が厳しかったのは、その行為を悪びれる事なく行おうとするチューヤに対して侮蔑の念を抱いたからだ。
「貴様は、そんな盗賊紛いの真似をして、恥ずかしくはないのか」
使えそうな物を見繕って拾い集めているチューヤに、思わず口をついて出てしまったその言葉。それを耳にしたチューヤの動きが止まる。
「あ? 全てが終わった後で戦場跡にノコノコ現れて、モノを漁る行為と一緒にすンじゃねえよ。こりゃあ立派な戦利品だろが?」
「そんな事をしなければならない程私は落ちぶれてはいないぞッ!!」
カールの叫びに、辺りの空気が凍り付く。チューヤのみならず、他の面々も動きを止めて成り行きを見守り始めた。チューヤの言う事も頷けるし、カールの話も分からなくはない。
「……てめえはそれでいいンだよ。貴族サマだからな。けど、俺はそんなプライドなんぞクソくらえだ。プライドじゃ飢えは凌げねえんだよ」
「――ッ!!」
カールのみならず、マリアンヌやスージィ、ジルもチューヤの言葉に息を飲んだ。
いつもなら喧嘩腰で対応する筈のチューヤが、意外にも冷静に話した事も驚きだったが、その言葉の重さが今までの彼の人生が容易いものではなかった事を窺わせる。
「見栄張って野垂れ死ぬのがてめえの美学ならそうすりゃいいさ。それも尊い死に様だろうぜ。けどな、俺はまだ死ぬ訳にゃあいかねえんだよ。生きる為には金が必要だからな」
いつになく静かな語り口が、逆に迫力を醸し出す。
お前にはお前の、俺には俺のプライドがある。お前がそれを守るのは勝手だし、それは尊重されるべきだ。だから、俺のプライドにお前の価値観を押し付けるな。チューヤはそう言っている。
そこでカールは思い出した。自分達が幼い頃、両親を失ったチューヤに支援をするべきだと言った事を。そしてチューヤが頑としてそれを受け入れなかったという事を。
(そうか。例え卑しい行為と見られようとも、他人の世話にならずに自分の力で生き抜く。それがヤツのプライドか)
しばし目を閉じ、黙していたカールが顔を上げ、チューヤに近付いて行った。
ピンと張りつめた空気が、一触即発の空気へと変わって行く。チューヤも向かってくるカールをまっすぐ見据えていた。
二人の距離、およそ一メートル程。そこまで来てカールが立ち止まる。
「ンだよ?」
口調はいつもと変わらずぶっきらぼうだが、チューヤの言葉はどこかカールを気遣うような柔らかさが含まれていた。
カールのブルーの瞳は相変わらず冷たい印象だが、そこに秘められた僅かな動揺と悔恨の色。チューヤはそれを見逃さなかった。
――!!
そしてカールの取った行動に一同が驚愕する。中でも、二人の仲を良く知るマリアンヌとスージィの驚きは尋常ではなかった。
「チューヤもカールも、いつもと違うね……」
「そうね……いつもならその辺爆発してるわよね……」
カールがとって見せたのは、なんと謝罪の姿勢。
「……おいてめえ、なんの真似だ?」
折り目正しく腰を折ったカールの姿にチューヤも動揺を隠せない。
「……済まなかった。確かに私の矜持をお前に押し付けるべきではなかった」
「……お、おう」
カールによるまさかの謝罪に、チューヤはバツの悪そうな顔で頭を掻く。
カールにとってのチューヤとは、貴族と平民という身分の壁を超えた、乗り越えるべき存在であり、父親の世代から引き継いでいる借りを返すべき相手。知らず知らずのうちにチューヤを対等以上の存在として認識していた事に、今更ながら気付く。しかし、対等以上と認めてはいても、チューヤはあくまでも平民だ。貴族の誇りを求めるのは間違っている事に思い至った。
「ま、俺はてめえのプライドとやらを共有できねえし、てめえも同じだろ? お互いそれでいいんじゃね?」
「ふ、そうだな」
チューヤがバツの悪い顔のままソッポを向いてそう言うと、カールもまた表情を緩めて頷いた。
彼の表情が厳しかったのは、その行為を悪びれる事なく行おうとするチューヤに対して侮蔑の念を抱いたからだ。
「貴様は、そんな盗賊紛いの真似をして、恥ずかしくはないのか」
使えそうな物を見繕って拾い集めているチューヤに、思わず口をついて出てしまったその言葉。それを耳にしたチューヤの動きが止まる。
「あ? 全てが終わった後で戦場跡にノコノコ現れて、モノを漁る行為と一緒にすンじゃねえよ。こりゃあ立派な戦利品だろが?」
「そんな事をしなければならない程私は落ちぶれてはいないぞッ!!」
カールの叫びに、辺りの空気が凍り付く。チューヤのみならず、他の面々も動きを止めて成り行きを見守り始めた。チューヤの言う事も頷けるし、カールの話も分からなくはない。
「……てめえはそれでいいンだよ。貴族サマだからな。けど、俺はそんなプライドなんぞクソくらえだ。プライドじゃ飢えは凌げねえんだよ」
「――ッ!!」
カールのみならず、マリアンヌやスージィ、ジルもチューヤの言葉に息を飲んだ。
いつもなら喧嘩腰で対応する筈のチューヤが、意外にも冷静に話した事も驚きだったが、その言葉の重さが今までの彼の人生が容易いものではなかった事を窺わせる。
「見栄張って野垂れ死ぬのがてめえの美学ならそうすりゃいいさ。それも尊い死に様だろうぜ。けどな、俺はまだ死ぬ訳にゃあいかねえんだよ。生きる為には金が必要だからな」
いつになく静かな語り口が、逆に迫力を醸し出す。
お前にはお前の、俺には俺のプライドがある。お前がそれを守るのは勝手だし、それは尊重されるべきだ。だから、俺のプライドにお前の価値観を押し付けるな。チューヤはそう言っている。
そこでカールは思い出した。自分達が幼い頃、両親を失ったチューヤに支援をするべきだと言った事を。そしてチューヤが頑としてそれを受け入れなかったという事を。
(そうか。例え卑しい行為と見られようとも、他人の世話にならずに自分の力で生き抜く。それがヤツのプライドか)
しばし目を閉じ、黙していたカールが顔を上げ、チューヤに近付いて行った。
ピンと張りつめた空気が、一触即発の空気へと変わって行く。チューヤも向かってくるカールをまっすぐ見据えていた。
二人の距離、およそ一メートル程。そこまで来てカールが立ち止まる。
「ンだよ?」
口調はいつもと変わらずぶっきらぼうだが、チューヤの言葉はどこかカールを気遣うような柔らかさが含まれていた。
カールのブルーの瞳は相変わらず冷たい印象だが、そこに秘められた僅かな動揺と悔恨の色。チューヤはそれを見逃さなかった。
――!!
そしてカールの取った行動に一同が驚愕する。中でも、二人の仲を良く知るマリアンヌとスージィの驚きは尋常ではなかった。
「チューヤもカールも、いつもと違うね……」
「そうね……いつもならその辺爆発してるわよね……」
カールがとって見せたのは、なんと謝罪の姿勢。
「……おいてめえ、なんの真似だ?」
折り目正しく腰を折ったカールの姿にチューヤも動揺を隠せない。
「……済まなかった。確かに私の矜持をお前に押し付けるべきではなかった」
「……お、おう」
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カールにとってのチューヤとは、貴族と平民という身分の壁を超えた、乗り越えるべき存在であり、父親の世代から引き継いでいる借りを返すべき相手。知らず知らずのうちにチューヤを対等以上の存在として認識していた事に、今更ながら気付く。しかし、対等以上と認めてはいても、チューヤはあくまでも平民だ。貴族の誇りを求めるのは間違っている事に思い至った。
「ま、俺はてめえのプライドとやらを共有できねえし、てめえも同じだろ? お互いそれでいいんじゃね?」
「ふ、そうだな」
チューヤがバツの悪い顔のままソッポを向いてそう言うと、カールもまた表情を緩めて頷いた。
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