上 下
61 / 160
二章 立志

だって敵だからね

しおりを挟む
 賊のリーダーの男は塩水によるで呆気なく口を割った。

「俺達のアジトに騎士風の男が数人訪ねてきたんだ。この街道を通る商隊キャラバンを襲えってよ」

 その男の言葉を聞いたマリアンヌが頷きながら言った。

「前から迫ってくる騎馬隊と、こいつらがグルなのはほぼ確定だね!」
「へへっ! そうだぜ? 俺達に手を出したお前ら、タダで済むと思うなよ?」

 騎士の話題が出た所で、急に強気になったリーダーの男を見て、カールが深いため息をついた。それはもう、心底呆れたという表情で。

「騎士と言うからには貴族の手の者だろう。それが賊と繋がっていたなどの証拠を残すものか。貴様達は全員口封じされるに決まっているだろう?」

 自らも貴族故に、その汚い世界をよく知っている。敵を蹴落とす為ならばどんな手段も厭わない。そんな人間が跋扈しているのが貴族の社会というものだ。
 そんなカールの言葉には説得力がある。チューヤ達仲間はもちろん、その言葉を信じたくない賊の男ですら納得してしまう程に。
 そこへチューヤが、味方ですら身震いするような凶悪な笑みを浮かべながら近付いていく。

「よお。その騎士どもとはどういう手筈になってたのか吐きやがれ。俺達に協力すればワンチャン生き残れるかも知れねえが、に義理立てしても消されるだけだそうだぜぇ?」

 しかし男は中々答えない。盗賊が捕縛されたら、死罪以外にない事を知っているからだ。だが、隣にいた少女が何かが決壊したように口を開く。

「アンタ達を森に追い込んで、騎士様達を待って……そして共同で攻撃する予定だった! でも何でかすぐ見つかっちゃって! あっという間に壊滅しちゃって……うっ、うぅ……」

 少女は嗚咽混じりにそう叫ぶ。

「あたいは、好きで盗賊になった訳じゃない! 父ちゃん母ちゃんをこいつらに殺されて……無理矢理雑用で働かされ、拒めば酷い目に遭わされ、大きくなってからは身体だって……」

 少女はついに、はらはらと涙を零しながら項垂れる。

「てめえ……そりゃマジか?」

 据わった目をしたチューヤが、底冷えするような低いトーンの声でリーダーの男を問い詰めた。

「し、知らねえ……」

 男は明らかに視線を泳がせながら否定の言葉を口にする。しかしそれは、その場にいた誰もが嘘だと分かるような、薄っぺらい否定の言葉だった。

「……」

 無言でチューヤは『シンシア』を抜く。その剣身は油が滴り落ちるような光沢で輝き、見ているだけでも斬られてしまいそうな、そんな殺気を放出していた。
 直接剣を向けられたリーダーの男のみならず、横にいた少女も動いたら斬られる。そんな恐怖で身を竦ませていた。

「やっぱてめえらはクソだな」

 スッとチューヤが剣を横に薙いだ。リーダーの男の首がゴロリと転がり落ち、盛大に血飛沫が舞う。

「こんな所で汚い噴水を上げるんじゃない」

 カールが噴水のように血飛沫を上げる首の切り口に氷結魔法を放ち、血を止めた。

「ねえチューヤ? まだその子がホントの事言ってるとは限らなかったんじゃないかな?」

 やや咎めるような口調でスージィが言う。

「そうだねえ。仮にチューヤが手を下さなくても、コイツは極刑だった訳だし、チューヤが手を汚す事はなかったかもね」

 スージィに同意するように、マリアンヌもチューヤを見ながら言った。
 どうせ生き延びる運命などなかった盗賊だ。隣の少女にしても、生き延びる為の口から出まかせかも知れない。
 しかしチューヤはあっさりと言い放つ。

「どっちでも同じなら、俺がやっても同じだ。それに、ソイツが嘘ついてたってんなら、ソイツも同じようにブッ殺す。お前ら、模擬戦でデヴィッドのヤツが俺達を殺しに来てたのを忘れたのか?」

 チューヤの思考は至極単純だ。迫っている騎馬隊は、十中八九デヴィッドの手の者だろう。
 デヴィッドは自分達を殺すつもりだった。ならば、デヴィッドの騎馬隊も、それと契約を結んで自分達を襲って来たこの盗賊も、紛れもなく殺すべき敵だ。
 敵は自分達の大事なものを躊躇なく奪っていく。命、財産、家族、仲間……だから自分も躊躇なく敵を屠るのだ。

「ふん。脳筋は単純で羨ましい事だ……だが、私達が養成学校で学んだ事は、人を殺す方法だという事を忘れるべきではない」

 いちいち棘のある言い方ではあるが、カールはチューヤの行動に関して全面的に認めているようだった。それは善悪や正義などという観念にとらわれるものではなく、守る為には当然の事。そして自分達はその術を学ぶために養成学校の門を叩いたという事実。

「分かってるよ。でもチューヤは本当は優しい人だ。その子を殺せるとは思えない。だから、その時はボクが……」

 マリアンヌはマリアンヌで、それなりの覚悟をしていたようだ。その様子を見ていたジルが、場の緊張を和ませる発言をする。

「まあ、嘘か真か、ここで騎馬隊を待ち受けてみようじゃないか。その子は私が引き取ろう。フフフ……磨けば光りそうだしねえ」

 ジルのその表情は、目尻が下がり、舌なめずりせんばかりだった。その顔を見た少女は、自分を抱きしめながらひたすら怯えていた。
 
しおりを挟む
感想 103

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

おっす、わしロマ爺。ぴっちぴちの新米教皇~もう辞めさせとくれっ!?~

月白ヤトヒコ
ファンタジー
 教皇ロマンシス。歴代教皇の中でも八十九歳という最高齢で就任。  前任の教皇が急逝後、教皇選定の儀にて有力候補二名が不慮の死を遂げ、混乱に陥った教会で年功序列の精神に従い、選出された教皇。  元からの候補ではなく、支持者もおらず、穏健派であることと健康であることから選ばれた。故に、就任直後はぽっと出教皇や漁夫の利教皇と揶揄されることもあった。  しかし、教皇就任後に教会内でも声を上げることなく、密やかにその資格を有していた聖者や聖女を見抜き、要職へと抜擢。  教皇ロマンシスの時代は歴代の教皇のどの時代よりも数多くの聖者、聖女の聖人が在籍し、世の安寧に尽力したと言われ、豊作の時代とされている。  また、教皇ロマンシスの口癖は「わしよりも教皇の座に相応しいものがおる」と、非常に謙虚な人柄であった。口の悪い子供に「徘徊老人」などと言われても、「よいよい、元気な子じゃのぅ」と笑って済ませるなど、穏やかな好々爺であったとも言われている。 その実態は……「わしゃ、さっさと隠居して子供達と戯れたいんじゃ~っ!?」という、ロマ爺の日常。 短編『わし、八十九歳。ぴっちぴちの新米教皇。もう辞めたい……』を連載してみました。不定期更新。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

性転のへきれき

廣瀬純一
ファンタジー
高校生の男女の入れ替わり

処理中です...