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二章 立志

王立魔法戦士養成学校、歴史的な転換期を迎える。

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「なんでこうなった……?」

 シンディは教官室での出来事を振り返り、通称脳筋クラスの教室を前にして眉間を押さえていた。

▼△▼

 弟子達との晩餐を終えた翌日、シンディは四人を送り出し、やや遅めに学校へと向かった。
 教官室へ入ると、彼女に視線が集中する。その光景に既視感を覚え、彼女は嫌な予感が頭をよぎる。
 学校長の困ったような視線。そして他の教官達の恨みの籠った視線。好意的なものは皆無だ。

「あン? 何だってんだい?」

 そんな視線を正面から受け止め、逆に挑発するように教官室内を見渡すシンディに、他の教官達は舌打ちをしながら目を逸らす。

「君の机の上を見給え」

 学校長が溜息をつきながらそう言って、彼女の執務用の机を見る。そこには書類の束があった。

「はぁ!? 正気かよ……」

 彼女の机の上の書類は、エリートクラスの生徒達が昨日の内に学校長に宛てた、脳筋クラスへの編入願いだった。

「しかも全員かよ……」

▼△▼

 シンディは先程の朝礼での出来事が夢である事を願いつつ、教室の扉を開く。

「きりーつ!」

(……ああ、コイツはチューヤに号令係を押し付けられたヤツだっけな)

 最前列の席を定位置にしている見慣れた男子生徒が、いつもの日常の始まりを告げる号令をかけた。だが、目の前の広がる光景は、昨日までの日常と違っていた。
 何しろ生徒が二倍以上に増えているのである。シンディは思わず天を仰いだ。

「礼!」
「おう、おはよう諸君。座っていいぞ」

 挨拶を終えた生徒達を座らせ、シンディは大きくため息をついた。そして生徒達を見渡す。

「元々このクラスだったヤツはともかく、エリートクラスの諸君はどういうつもりだ?」

 理由なんて聞かなくても分かってる。こいつらは昨日のチューヤとマリアンヌ、そしてカールの戦いを見て感化されてしまったんだろう。特に、スージィを圧倒したマリアンヌに。
 エリートクラスの中のエリートであるスージィが、脳筋クラスでも目立たない存在であるマリアンヌに敗れた。チューヤとカールは別格という認識はあったが、まさかマリアンヌがあそこまで強くなっているのは衝撃的だったのだろう。
 故に、シンディが転籍してきた生徒達に理由を問うたのは様式美というヤツだろう。

「言っとくが、このクラスに来たからって、みんながみんな、奴らみてえになれる訳じゃねえぞ?」

 そう、転籍してきた生徒達の思いはただ一つ。強くなりたい。それだけだろう。それが分かっているからこそ、シンディは残酷な現実を敢えて突きつける。
 
「それでも! あのまま座学と動かない的に魔法をぶつける訓練をしているよりは!」

 ある生徒が立ち上がり、そう言った。そしてそれに他の生徒も同調する。

「そうか。分かった。そんじゃ、奴らにやってた訓練をやってもらおうかねえ……?」

 シンディの唇が邪悪に歪んだ。
 生徒達に背中に冷たいものが流れるが、彼女を有無を言わせず外に連れ出すのだった。

 


 生徒達が血反吐を吐く程の|(それでもチューヤ達の半分以下)スパルタ訓練を施したあと、シンディは教官室へ向かう。
 用があるのは他の教官達だ。

「あー、皆さん聞いてくれますか? デヴィッドのクソ野郎があんなになったのはヤツの自業自得なんで。アタシや生徒達を恨むのは筋違いってヤツですからね? もし、アタシの生徒や、生徒の家族に危害が及ぶような事があれば……」

 シンディはそこで一旦言葉を切る。そして全身に魔力を巡らせた。
 もしマリアンヌがこの場で魔眼を使っていたならば全身から湧き立つような魔力に驚愕していただろう。赤、青、黄、緑……様々な系統の色が複雑に混じり合い、グラデ―ジョンを描き出していた。
 そしてその魔力を、殺気と共に放射した。

「例え貴族だろうが王様だろうが、この『殲滅のシンシア』が徹底的にツブす!」

(アイツら、無事にキャラバンと合流出来たかな? ま、あの人なら心配いらねェか」

 冷や汗を流しながらコクコクと頷く教官達を前に、チューヤ達の身柄を任せた人物を思い出し、ニヤリと笑みを浮かべるシンディだった。
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