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二章 立志

ジルとシンディ①

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「ジルさん、あなたは今、私達を『王立魔法戦士養成学校の関係者』と言ったな。私達はそこまで名乗ってはいないはずだが?」

 カールが目を細め、鋭い視線でジルに問いかける。
 室内の空気が一気に冷え込んだような錯覚を受けるほどだ。同乗している二人の護衛がゴクリと生唾を飲み込む。

「フ……」

 そんな緊迫した空気を意にも介さず、ジルは短く笑い、続けた。

「商人の武器ってのは何も金や金で雇った護衛だけじゃない。情報も大事な武器なのさ」

 窓に流れる景色から目を逸らさず、そう言い終えたジルは煙管に火を付けた。
 煙を肺の奥深くまで吸い込み、細く長く、煙を吐き出す様は、いかにも馴染んでいる。長年続けている仕草なのだろう。

「……あなたは、ただの商人ではなさそうだ。物腰といい、この雰囲気で落ち着いていられる胆力といい……何者なのだ?」
「やめなさい、カール」

 今にも魔力を練り始めそうなカールに、スージィが制止を掛けた。
 ただならぬ雰囲気に、護衛の二人も剣に手を掛けている。

「あー、ちょっと待て。お前らはバカか? こんな狭い馬車の中で魔法ぶっ放すとか長剣振り回すとか」

 そこで車内の雰囲気をガラリと変えたのはチューヤだった。逆立った緋色の髪をバリバリと掻きながら、面倒くさそうに立ち上がり、ツカツカとジルの元に歩み寄る。
 ジルはそこで漸く車窓からチューヤに視線を移した。
 そんな彼女に、チューヤが親指で背後を指差した先にあったのは立てかけてあったバスタードソード。

「アイツだろ?」
「……」

 一瞬呆けたような表情をしたジルは、表情を緩め、両手を上げて降参のジェスチャーをした。

「君は、見かけによらず鋭いんだな。さすがアイツが見込んだだけの事はある。それに銀髪の君……カール君だったか。君もだ。その感覚、大切にするんだな」

 ここまでの一連のやり取りをカールをはじめとした面々が呆けたまま見守っていた。

「ねえチューヤ……どゆことだい?」

 マリアンヌが不思議そうに訪ねる。
 
「ん?……ああ、そりゃあな」

 あくまでもチューヤの主観だが、シンディから譲り受けたバスタードソードソードを見るジルの目。それは商人のそれではなく、懐かしいものを見るような、なんだか温かみのある視線だった。
 そこから導きだ出される答えは一つ。ジルはシンディの関係者という事だ。それを考えれば、自分達が魔法戦士養成学校の関係者……もっと詳しく言えばシンディの関係者である事は容易に想像できるだろう。
 そんなチューヤの説明に、一同は呆けた表情から驚きの表情へと変わる。あのカールですら。

「まあ……概ねチューヤ君の言う通りだ――」

 そんなチューヤの発言を肯定するジルの言葉を遮り、キラキラと瞳を光らせたマリアンヌがチューヤに駆け寄り、両手を胸の前でグーにして彼を見上げる。

「凄い! 凄いよチューヤ! ただの脳筋じゃなかったんだ! みんなはチューヤの事をバカだバカだって言うけど、ボクはそんなにバカじゃないって思ってたよ! バカ――いたいっ!?」
「バカバカ連呼すンじゃねーよバカ。流石の俺も落ち込むだろうが」

 まるっきり悪気がない割にはメンタルをゴリゴリと削るマリアンヌにゲンコツを落とし、ついでにチューヤ自身もガックリと肩を落とす。

「くっ……」

 一方のカールは悔し気な表情で肩を落とした。

「大丈夫よ? チューヤのアレは野生のカンというか、動物的な閃きというか、そういうヤツなの。決してチューヤが頭がいいとか、そういう事ではないのよ?」
「おい。ソイツを慰める為に俺をけなすのはやめるんだ……」

 落ち込むカールを慰めるスージィの容赦ない言葉が、ついにチューヤを撃沈させた。彼はすごすごと自分が座っていた座席に戻り、バスタードソードを抱えて小さく丸くなって座った。
 そんな時、本当に可笑しそう笑うジルが話し始める。
 
「ははは! 君達は面白いねえ。だが、チューヤ君の言う通りでね。私はシンディの知り合いだ」

 そこで全員の視線がジルに集中した。

「チューヤ君。アイツから、その剣の名前を聞いているか?」
「いや……聞いてねえ」
「フフフ、そうかそうか。流石のアイツも恥ずかしかったらしいねぇ」
「「「「恥ずかしい!?」」」」

 思いもよらないジルの言葉に、四人の声が重なる。

「その剣の名前は『シンシア』。私が彼女に授けたものさ。ああ、『シンシア』ってのは、彼女の昔の名前さ」

 これもえにしというものか。偶然出会ったキャラバンが、師匠と関係の深い人物だった事に一同は驚きを隠せなかった。
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