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二章 立志

初めてのフォーマンセル

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 街道から約1.5キロ程外れた森の中。

「うそ……ホントにいた」

 目の前にいる野犬の群れ……と言っても変異種であるが。それを見てスージィが驚いていた。

「さて、この数だ。いがみ合ってる場合じゃねえよなぁ。?」
「珍しく気が合うな。その通りだ筋肉頭」
 
 発した言葉を文字にして読めば、そこまで険悪になるような内容ではないはずなのだが、なぜか二人の口から出るとまるで刃のように刺々しい。お陰で二人は一瞬で沸騰状態になる。

「こら! やめなよ二人とも! ちゃんと協力しないと、二人の恥ずかしい秘密、バラしちゃうよ?」

 しかしそこに割って入ったのがマリアンヌだ。

「恥ずかしい秘密……だぁ?」
「そ、そんなモノは私には……」

 チューヤもカールもピタリと動きを止め、彼女にぎこちなく視線を移した。
 そんな彼等に、マリアンヌはゴーグルを額にズラし、魔眼・つくもをドヤ顔で見せつける。

「ま、待て! 分かった! 俺ら、ホントはすげえ仲良しなんだぜ? なあ、カール君!」
「そ、そうとも! 私達は実は無二の親友なのだ! なあ、チューヤ君!」

 二人の様子にマリアンヌは内心ほくそ笑む。実の所、彼女は二人の弱みなど何一つ握ってはいないし、魔眼で探るようなマナー違反もしていない。だが、彼女の演技は上手く嵌った。これは二人に少々心当たりがあるという事だろう。
 それに、弱みと言うならば、むしろチューヤがマリアンヌの恥ずかしい秘密を握っているのだ。

(チューヤがバカで良かったよ……)

 内心ホッとしているマリアンヌの一方で、スージィは腹の中で唸っていた。

(あの殺気立った二人をいとも簡単に……マリアンヌ、恐ろしい子)

 そんな畏怖を表には出さず、スージィは優等生らしくこの場を纏めにかかる。

「それで、作戦なのだけど……」

 野犬の変異種――以降はバーサク・ハウンドと呼称する――は総数三十頭近くにも及ぶ。その中でも一際大きいリーダー格――以降バーサク・ファングと呼称――と目を合わせたままスージィは続ける。

「私の背後に土系統魔法で壁を作るわ。その後は私は砲台になるから、マリアンヌは私の護衛、チューヤとカールは……私の魔法に当たらないように適当にやってちょうだい」
「適当にあの犬っころ共をぶっ倒すのが作戦か。いいねえ!」
「好き勝手に暴れていればいいというならそうさせてもらおう」

 作戦というにはあまりにも単純。しかしそれはチューヤとしては大歓迎。反対するかと思われたカールですら異議なし。
 スージィはどうだか分からないが、一か月の間二人と共同生活をしていたマリアンヌは、かなり二人の事を把握し始めていた。
 チューヤは単純明快、短気で粗暴。しかしどこまでも真っ直ぐで裏表がなく、根本的には仲間思いの優しい人間だ。
 一方のカールはというと、見た目と普段の口調から、冷静沈着、クールを通り越して冷徹とも取られがちだが、根っこのところはチューヤと同じだと思っている。
 負けず嫌いで心は熱い。そして短気だが仲間の為なら身体を張れる。チューヤと一緒だ。それがマリアンヌの評価だ。結局のところ、二人がいがみ合うのは同族嫌悪に近いものがあるのだろうと思っている。
 そしてそんな二人を競わせるのは良策と思えた。

(まさかそれを狙って? スージィ……恐ろしい子)

 今度はマリアンヌが腹の中で唸る。
 そんな女子達の攻防を余所に、バーサク・ハウンド達は四人を包囲すべく散開した。
 森でのハンティングを熟知しているかの如く、正面で注意を引く者。樹木に隠れて隙を窺う者。死角に回り込もうとする者。まさにこの森は自分達の庭だと言わんばかりの手慣れた展開。
 しかし、隠れようが息を潜めよう死角に回り込もうが、ファングとハウンド達はこの四人の人間には無意味な事を思い知る事になる。

「チューヤ! 四時の方向に三匹隠れてる! 藪の中だよ!」
「おうよ!」

 マリアンヌの指示でチューヤが走る。

「十一時の敵はカール、お願い!」
「引き受けた!」

 そしてカールはエストックを抜き、魔力を練り始めた。

「八時の木陰に六匹いるから、スージィ、纏めて片付けて! 正面から来るのはボクが引き受ける!」
「え、ええ、分かったわ!」

 更に、マリアンヌから指示に戸惑いながらも、スージィが広範囲魔法の構築を始めた。
 マリアンヌの魔眼・つくもの前に、森の狩猟者達は逆に狩られる者の恐怖を味わう事になる。
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