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一章 魔法戦士養成学校編
守るという事
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「シッ!」
チューヤが短く息を吐いた。空気を切り裂く音がデヴィッドの耳元を通り過ぎる。回し蹴りが頬を掠め、一条の赤い傷が刻まれた。
「……躱した筈なのだがな。それに貴様、あれだけ僕の魔法を食らっていながらなぜ動ける?」
「へっ、そんなモン、効いてねえからに決まってんだろがッ!」
ニヤリと笑うと、今度は猛ラッシュを掛けていく。驚くべきことに、チューヤの体術は教官であるデヴィッドを圧倒していた。
身体強化を施しても捌ききる事が出来ずに、デヴィッドは防戦一方。魔法使いの弱点が如実に曝け出されている格好だ。
接近戦を仕掛けて魔法を繰り出す余裕を与えない。今チューヤが仕掛けている戦法こそが攻撃は最大の防御という言葉を体現している。勿論魔法使いも身体強化は使えるが、今の魔法戦士クラスのカリキュラムを見れば分かる通り、接近戦のスキルを上げるような教育はしていない。
「くっ……」
防戦一方のデヴィッドの表情が、焦りと怒りで歪む。例え身体強化による近接格闘になっても、たかが生徒如き圧倒できると高を括っていた。しかし結果はこのザマである。
通常の攻撃の合間に織り交ぜて来る纏魔による攻撃が非常に厄介だった。ガードなどの防御は許されず、完全に回避しなければならない。下手にガードなぞしようものなら、その部位が破壊されてしまう。その証拠に、回避しきれずにねじ切った杖でガードした部分などは無残にひしゃげていた。
「ッ!?」
「ぐぁぁぁっ!!」
そこへカールが放った特大の水弾が着弾した。
チューヤは間一髪飛び退いて無傷だったが、チューヤの猛攻で体勢を崩していたデヴィッドはまともに食らってしまう。
これによりデヴィッドは大ダメージを食らってしまったが、無傷のチューヤは怒り心頭だ。
「テメエ! 今俺毎狙いやがっただろァ!?」
「ちっ……外したか」
激昂するチューヤの抗議にもカールは涼しい顔だ。しかもチューヤ諸共狙った事をあっさりと認めてしまう強かさ。
「ぐ……このバカをぶっ殺した後はテメエの番だぞゴルァ!」
「はいはいチューヤー? そこにいると危ないわよ?」
尚もいきり立つチューヤと、倒れているデヴィッドの上空に黄色い魔法陣が出現した。
「どわあっ!?」
そして雨あられとばかりに小さい石礫が降り注ぐ。
「おわっ!? スージィ、てめっ!」
降り注ぐ石礫は通常の落下エネルギーだけではなく、魔法陣から射出されている為、一発一発の威力が重い。チューヤはまたしても飛び退いて難を逃れるが、デヴィッドの方は直撃を受け、まるで陸に上がってビチビチと跳ねる魚のように、石礫の雨を受け続けていた。
この模擬戦という名の謀略が始まる前までは、爽やかなイケメン教師のイメージだったのだが、今は顔を含めて全身腫れあがり、その面影はない。
事情を知らずに観戦していた女子生徒の中には悲鳴を上げたり、やりすぎだと抗議の声を上げたりしている者もいる。
それが聞こえていたのか、デヴィッドはよろよろと立ち上がり校舎の方向へ逃げようとした。
「ふ、ふふ……生徒や教官の大半はまだ僕の味方だ……これを機会にシンディを追い詰め――」
「そこまでゲスいと、容赦なく殴れるね!」
その逃げ道を塞ぐように立ち塞がったのがマリアンヌだ。
「えいっ!」
まるで行動を見透かされていたかのように目前に現れた彼女に、デヴィッドはただ呆然と立ちすくむ。
そこへ、気の抜けるような気合の声(?)を上げたマリアンヌが、声とは裏腹に見事に腰の入った右フックを繰り出した。
「チューヤー? そっちに行ったよー?」
「おーう、グッジョブだマリ!」
もんどり打ちながら吹っ飛んできたデヴィッドの胸倉を左手で掴んで持ち上げたチューヤの口端が、凶悪に吊り上がる。そして握り締めた右拳には誰が見ても分かるような濃密な赤い魔力が纏う。いや、それは最早拳が燃えていると言っても過言ではなかった。
(チューヤのあれは! マズい!)
チューヤの拳を見たシンディが、身体強化に全魔力を割いて飛び出した。
そしてチューヤの拳がデヴィッドの顔を貫く寸前、シンディの飛び蹴りがデヴィッドに炸裂し、チューヤの拳を空を斬る。
「……何のつもりっすか?」
「こんな奴でも一応貴族の坊ちゃんなんでな。殺しちまったらお前がこの先色々と生き難くなっちまう」
シンディは憂いを帯びた笑顔を浮かべ、チューヤに向き直る。
彼は初めて見るその表情に、立ち尽くす事しか出来なかった。
チューヤが短く息を吐いた。空気を切り裂く音がデヴィッドの耳元を通り過ぎる。回し蹴りが頬を掠め、一条の赤い傷が刻まれた。
「……躱した筈なのだがな。それに貴様、あれだけ僕の魔法を食らっていながらなぜ動ける?」
「へっ、そんなモン、効いてねえからに決まってんだろがッ!」
ニヤリと笑うと、今度は猛ラッシュを掛けていく。驚くべきことに、チューヤの体術は教官であるデヴィッドを圧倒していた。
身体強化を施しても捌ききる事が出来ずに、デヴィッドは防戦一方。魔法使いの弱点が如実に曝け出されている格好だ。
接近戦を仕掛けて魔法を繰り出す余裕を与えない。今チューヤが仕掛けている戦法こそが攻撃は最大の防御という言葉を体現している。勿論魔法使いも身体強化は使えるが、今の魔法戦士クラスのカリキュラムを見れば分かる通り、接近戦のスキルを上げるような教育はしていない。
「くっ……」
防戦一方のデヴィッドの表情が、焦りと怒りで歪む。例え身体強化による近接格闘になっても、たかが生徒如き圧倒できると高を括っていた。しかし結果はこのザマである。
通常の攻撃の合間に織り交ぜて来る纏魔による攻撃が非常に厄介だった。ガードなどの防御は許されず、完全に回避しなければならない。下手にガードなぞしようものなら、その部位が破壊されてしまう。その証拠に、回避しきれずにねじ切った杖でガードした部分などは無残にひしゃげていた。
「ッ!?」
「ぐぁぁぁっ!!」
そこへカールが放った特大の水弾が着弾した。
チューヤは間一髪飛び退いて無傷だったが、チューヤの猛攻で体勢を崩していたデヴィッドはまともに食らってしまう。
これによりデヴィッドは大ダメージを食らってしまったが、無傷のチューヤは怒り心頭だ。
「テメエ! 今俺毎狙いやがっただろァ!?」
「ちっ……外したか」
激昂するチューヤの抗議にもカールは涼しい顔だ。しかもチューヤ諸共狙った事をあっさりと認めてしまう強かさ。
「ぐ……このバカをぶっ殺した後はテメエの番だぞゴルァ!」
「はいはいチューヤー? そこにいると危ないわよ?」
尚もいきり立つチューヤと、倒れているデヴィッドの上空に黄色い魔法陣が出現した。
「どわあっ!?」
そして雨あられとばかりに小さい石礫が降り注ぐ。
「おわっ!? スージィ、てめっ!」
降り注ぐ石礫は通常の落下エネルギーだけではなく、魔法陣から射出されている為、一発一発の威力が重い。チューヤはまたしても飛び退いて難を逃れるが、デヴィッドの方は直撃を受け、まるで陸に上がってビチビチと跳ねる魚のように、石礫の雨を受け続けていた。
この模擬戦という名の謀略が始まる前までは、爽やかなイケメン教師のイメージだったのだが、今は顔を含めて全身腫れあがり、その面影はない。
事情を知らずに観戦していた女子生徒の中には悲鳴を上げたり、やりすぎだと抗議の声を上げたりしている者もいる。
それが聞こえていたのか、デヴィッドはよろよろと立ち上がり校舎の方向へ逃げようとした。
「ふ、ふふ……生徒や教官の大半はまだ僕の味方だ……これを機会にシンディを追い詰め――」
「そこまでゲスいと、容赦なく殴れるね!」
その逃げ道を塞ぐように立ち塞がったのがマリアンヌだ。
「えいっ!」
まるで行動を見透かされていたかのように目前に現れた彼女に、デヴィッドはただ呆然と立ちすくむ。
そこへ、気の抜けるような気合の声(?)を上げたマリアンヌが、声とは裏腹に見事に腰の入った右フックを繰り出した。
「チューヤー? そっちに行ったよー?」
「おーう、グッジョブだマリ!」
もんどり打ちながら吹っ飛んできたデヴィッドの胸倉を左手で掴んで持ち上げたチューヤの口端が、凶悪に吊り上がる。そして握り締めた右拳には誰が見ても分かるような濃密な赤い魔力が纏う。いや、それは最早拳が燃えていると言っても過言ではなかった。
(チューヤのあれは! マズい!)
チューヤの拳を見たシンディが、身体強化に全魔力を割いて飛び出した。
そしてチューヤの拳がデヴィッドの顔を貫く寸前、シンディの飛び蹴りがデヴィッドに炸裂し、チューヤの拳を空を斬る。
「……何のつもりっすか?」
「こんな奴でも一応貴族の坊ちゃんなんでな。殺しちまったらお前がこの先色々と生き難くなっちまう」
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