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一章 魔法戦士養成学校編

誇りを持たぬ者

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 水のカーテンでデヴィッドの火球を防いだ後、カールは反撃すべく魔力を練り上げていた。幸いにも辺りは水蒸気に包まれ、視界は悪い。時間は稼げる。
 チューヤが飛び出して行ったのも確認した。あの男ならば尚更時間を稼いでくれるだろうというおかしな信頼感もある。
 決して憎んでいる訳ではない。だが、ウマが合わないというレベルではないほど衝突が絶えない。しかし、実力は認めているから過小評価もしない。いずれは倒さなければならない壁のような男だ。
 カールは冴えた頭で冷静に分析を続けながら魔力を練り上げ続ける。右手のワンドに集中して魔法を組み上げ、更には身体強化へも魔力を割く。ここ数日でどうにかマスターした、魔法と身体強化の同時行使。

「よし、そろそろ行くか」

 カールは背中で纏めた銀髪を靡かせて疾走する。ワンドの先端では青く光る魔法陣が、発動前の段階で保持されたままだ。
 
(このスピード……特訓前半の地道な訓練と、シンディ教官のあの怪しげなドリンクのおかげか)

 いざ実戦で戦うという時になって、基礎的な身体能力がここまで重要な事だったのかと、改めて実感している。
 この基礎的な部分を蔑ろにし、ひたすら高火力の魔法を放つ事だけに注力している今のエリートクラスは絶対に間違っていると、今なら確信できた。

「スージィのところにはマリアンヌが向かったようだが……今のスージィでは勝てないだろうな。むしろ加減の出来ないバカチューヤが行かなかった分、スージィは運がいい」
 
 靡く銀髪、冷たく光るブルーの瞳に涼し気な笑みを浮かべ、カールが見た先では、炎の壁に飛び込むチューヤの姿があった。





「脳筋クラスに相応しく、後先考えないやり方だね」
「目ン玉落ちそうなくらいビックリしてたんだ。俺の勝ちッスよね?」

 デヴィッドが苦虫を噛み潰したような表情でそう言えば、チューヤが相変わらずの獰猛な笑みのままそう返す。

「勝負というものは、どちらが倒れるかで決まるものさ!」
「そうかい!」

 叫びながらチューヤが踏み込んだ。それを迎撃すべく、デヴィッドが無詠唱で小振りな火球を放つ。チューヤはそれをジャンプして躱した。強化された彼の身体は、デヴィッドが見上げる程の高さに達していた。そしてそのまま落下エネルギーをも味方につけて剣を振り下ろしてくる。

(……強化しているとは言え、このスピードと跳躍力は)

 自らが放った火球を躱したチューヤの身体能力に一緒虚を突かれたものの、デヴィッドは逆に冷静になった。

「だが! 宙に跳ぶとは愚かよな!」

 空中では自由に動く事は出来ない。出来る事は落ちる事のみ。言わば、格好の的な訳だ。しかしここでチューヤは全くの想定外の行動を取った。
 デヴィッドが杖を振るって魔法を放つ前に、自ら木剣をデヴィッドに向けて投擲した。腕力のみの投擲だが、それでも強化されている状態で放られた剣は猛スピードでデヴィッドに襲い掛かる。

「くっ! 一体何を!」 

 デヴィッドはそれを辛うじて自分の杖で叩き落した。しかし、次の迎撃の為の魔法を放つ機は失われた。

「うおおりゃああああ!」

 そこへチューヤが全力で殴りかかる。その時、チューヤの右拳が濃密な赤い魔力に包まれている事にデヴィッドは気付いていなかった。

「ぐっ!」

 咄嗟に翳した杖でどうにか直撃を受ける事は免れたが、衝撃を殺す事は出来ずにデヴィッドは十メートル程も吹き飛ばされた。そして、手にしていた鋼鉄製の杖がくの字に折れ曲がっている事に驚愕する。

「バカな! 鋼鉄製の杖が素手で!?」
「あン? 聞いてんじゃねえンすか? 俺ぁ、纏魔てんまを使えるって。けど、まだまだだなあ。その杖ごと頭潰してやろうかと思ったンすけどねえ……?」

 チューヤがさも残念そうに自分の拳を見ながらそう語る。
 そこにチューヤの本気を見たデヴィッドは冷や汗を流した。
 つい先ほどまでは自分が甚振る側。存分に痛めつけてシンディの懇願を誘う。なんなら落ちこぼれの生徒なぞ死んでも構わない。訓練中の事故で済ませばよい。そう思っていた。
 しかし、それはチューヤの側も同じだったのだ。隠そうともしないチューヤの殺気に、これは殺し合いなのだと理解せざるを得なかった。 

「なるほど……貴様が纏魔を使えるのは本当だったか。だが、貴様は教官である僕を殺す気できたな? これは大変な事を仕出かしてくれたものだな……フフフ」

 よろよろと立ち上がりながら、デヴィッドは歪んだ笑みを浮かべてそう語った。だが、視線は校舎で観戦しているシンディに向いている。

「貴様は退学だ! 教官に対する暴行でな!」
「ケッ……テメエの方から殺しに来たクセしやがってよ。負けそうになったらコレかよ。カッコ悪ぃなあ、おい?」

 ここぞとばかり生徒という立場の弱みを突くデヴィッドに、チューヤは心底呆れ果てた。そして、チューヤが同意を求めた相手がそこに現れた。

「ああ。今回ばかりは貴様に同意だ。教官である事以前に、貴族の風上にもおけんな」

 炎すらも凍らせてしまいそうな冷気を纏わせた銀色の貴公子が、ワンドを構えてデヴィッドを見据えていた。
  

 
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