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一章 魔法戦士養成学校編

アタシの立場は?

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「どうだい? 出来るかい?」

 至近距離での妖艶な笑みを浮かべたまま、シンディがチューヤを煽る。そのチューヤはと言えば、頬を染めながら視線を泳がせているが、口調はしっかりと、澱みなく答えた。

「纏うだけなら、多分出来るッスよ」
「何だと?」

 今度はシンディが真顔に戻り、真剣な眼差しをチューヤに向ける。

「基礎訓練の間も、ずっとイメージトレーニングはしてたッスから」

 チューヤはそう言うと、シンディから一歩離れ、体内の魔力を手先に集中させるイメージを強くした。すると、手先が薄っすらと魔力の輝きを纏った。範囲はまだ手首から上のみ。だが薄緑色の魔力光はシンディのものより濃く強い。

(バカな……纏魔てんまってのはそう簡単に――)

「あー、でも、これやると思ったように動けねえんすよね。手先の魔力を維持するのに精一杯で、身体強化にまで思考が回らねえっつーか」

 シンディの思考を遮り続けられたチューヤの言葉は、紙一重の所で彼女の教官としてのプライドを挫くのをやめたようだ。
 彼の纏魔は部分的、そして身体強化との併用はまだ無理。先日のバーサク・ベアを倒した時は出来ていたように思うが、それは実戦独特の緊張感が集中力を高めた故か。いずれにせよ、訓練の状態では出来ないらしい。

「そんならお前の訓練もカールと似たような感じだ。纏魔と身体強化、両方できるようにイメージ力を高めろ。それから……」
「はい?」

 一度言葉を切ったシンディに、チューヤが何となく注目する。

「身体が悲鳴を上げたらすぐやめろ。この間みてえにまた寝込むからな」
「ウッス」
「さて、と……」

 三人共、方向性は決まった。が、チューヤとカールは当面は自分との戦いとなる。となれば、先程から何故かスクワットを続けているマリアンヌがシゴキ……いや、特訓の対象となる。

「おーい、マリ! こっち来い。組手の相手をしてやっから」
「あ、はい!」
「アタシから仕掛けっからな。必死で避けろよ? ああ、隙があったら攻撃しても構わねえぞ?」
「は、はい!」

 両者共に無手。互いに拳を握ってファイティングポーズを取る。同時にシンディは身体強化。対するマリアンヌも視力をメインに身体強化の為、魔力を循環させる。

(へえ、瞳の色が変わったか。こりゃ楽しみだな)

 視力を強化したマリアンヌの双眸が銀色に変わる。魔力による視力強化で瞳の色が変わる程の使い手はかなり珍しく、それは魔眼持ちとして一級品の証。
 それを見て、シンディの口角が吊り上がる。

「んじゃ、行くぞぉ!?」

 シンディがぐっっと腰を落とし、下半身を中心に魔力を循環させる。

(来る!)

 一方のマリアンヌの魔眼もそれを捉えている。シンディの体勢は間合いを詰めて来る全長。しかし両手の強化はそれほどでもない為、彼女の攻撃は蹴りが来ると予想を立てる。
 そして、シンディの視線は真っ直ぐ自分の顔を捉えて離さない。

(いきなりボクみたいな女の子の顔面狙いだなんて、教官もえげつないなあ)

 内心そう思いながらも、マリアンヌには余裕があった。来ると分かっている攻撃ならばやりようはある。
 ……とマリアンヌは思っていた。

「――!?」

 シンディは真っ直ぐ間合いを詰めて正面から飛び蹴りを放ってきた。何の変哲もなく、何の小細工もない飛び蹴り。それを躱す事が出来れば、着地の際に大きな隙を晒してしまうようなハイリスクな攻撃。
 しかしマリアンヌは躱す事が出来ず、どうにか両腕をクロスしてガードするのが精一杯だった。
 シンディの飛び蹴りは、ガードしたマリアンヌを5メートル程も吹き飛ばし、彼女自身はマリアンヌの両腕を支点にバック中して着地、さらに追撃のために大地を蹴る。

「へっ、来るのが分かってりゃあ全部避けられるとでも思ってたか? 甘えなぁ!」

(くっ……魔力は左腕! でも視線はボクの左の脇腹を見てる……どっちさ!)

 シンディの明らかなフェイント。魔力が視えるマリアンヌにしか通用しないような高度なものだ。
 マリアンヌはガードの体勢を取った。右腕は顔面を、左腕をボディをガードするように。

「ちっ! アタシは避けろって言ってんだよ!」

 そう叫びながらシンディが繰り出したのは左のジャンピング・ニー。それがマリアンヌの腹部に炸裂した。

「ぐほっ!?」

 無防備だった腹部にシンディの膝蹴りをまともに食らったマリアンヌは、腹を押さえながら両膝を崩れさせ、前のめりに倒れた。

「お前はンだよ。変異種相手ならこの上なく有効だが、人間相手だとこういう戦法を取ってくるヤツもいるって事だ」
「ど、どうすれば……」

 マリアンヌは涙目になってはいるが、シンディを見上げるその白色化した瞳の輝きは失っていない。

「対人戦ってのは駆け引きだ。十日かそこらで身に付くようなモンじゃねえよ。ヤツみてえな天才とか、野生のカンで生きてるみてえなのじゃねえとな」

 そう言ったシンディの視線の先には、右腕に濃密な魔力を纏わせたまま高速で動き回るチューヤと、左右の手にそれぞれ別々の魔法陣を浮かべているカールの姿があった。

(ったく、半日かそこらであそこまでやれちまうとは……アタシの立場がねえよ。くっくっく……)

 然程遠くない未来、あの二人の弟子が自分を遥かに超えていくだろうという予感は、シンディの表情を自然と柔らかくする。そして数か月前までとは別人のように強くなった目の前の少女に手を差し伸べた。

「とは言っても、やりようがねえ訳じゃねえ。それを叩き込んでやっからしっかり付いて来い」
「はい!」

 シンディは闘志が衰えていないマリアンヌの返事に満足気に頷いた。そして、頼もしい弟子達に少しだけ豪華な夕食を食わせてやろうと、献立を考えるのだった。
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