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一章 魔法戦士養成学校編
火種
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二度目のゲームの勝者は、今回もチューヤ達だった。その戦果を聞いた他のチームの者達は、流石に異論を口にする事が出来ない。それどころか、呆れて開いた口が塞がらないといった様子だった。
マリアンヌが逆お姫様抱っこで医務室までチューヤを運び、ベッドに寝かしつけると、カールも隣のベッドに寝ているようシンディに厳命された。そしてマリアンヌは二人の付き添いという名の監視。
「そんな! 無理無理無理ですっ! あの二人が喧嘩になったらボクなんかに止められる訳ないじゃないですか!」
シンディに付き添いを命じられた時、マリアンヌはそう言って食い下がったが、シンディの一言で押し黙った。
「チューヤの寝込みを襲うのは許可すンぜ?」
「ボクに任せてください! しっかり監視しますっ!」
その変わり身の早さに、思わずシンディは爆笑してしまった。クラスの中でも引っ込み思案で目立たなかったマリアンヌも、チューヤと行動を共にする事が多くなった事で、随分と明るくなった。他の生徒達とのコミュニケーションも多くなり、必要最低限の自己主張もするようになってきている。そしてチューヤが彼女を認めている事で、他の生徒達も一目置くようになってきているのだ。
「……まあ、カールもいるんで、控えめにな?」
「……あ!……」
「それと、約束通り、お前ら全員アタシの家で晩飯だ。アタシが戻るまでここで休んどけ」
そう言い残して、シンディは教官室へと去って行った。
教官室。この魔法戦士養成学校の教官達が、授業を受け持たない時にデスクワークを熟すための部屋。それ以外にも教官達のミーティングなどにも使用される。
もっとも、エリートクラスとは違い、脳筋クラスを受け持つのはシンディ一人の為、この教官室を使うのは朝のミーティングと、放課後の雑務の時くらいだ。
その彼女がいつものように今日一日の雑務を処理しようと教官室に入ると、他の教官のみならず、学校長までも勢ぞろいでシンディに視線を集中させてきた。
「……?」
「シンディ君、急なのだがね、教官会議を始める。自分の席に座ってくれたまえ」
怪訝な表情で室内を見回すシンディに、校長が威厳たっぷりの声で着席を促す。
「おほん。では早速、今日の議題についてだが……」
シンディが着席するのを見届けて、校長が議事を進行させた。
「チューヤという生徒と……そして今日のカール君の件だな」
シンディは内心舌打ちをした。どうせ、彼等の実績を素直に認められない教官の誰かが校長に告げ口をしたのだろう。彼女はそう踏んでいた。
「大型変異種のベアをただの剣で倒し、今日は群れで行動するエイプをたった三人で倒した。まだ訓練中の学生に、そんな事は不可能だ!」
「そうだ! シンディ教官、あなたが手助けしたのではないのか!?」
エリートクラスを受け持つ教官達が唾を飛ばしながらがなり立てている様子を見て、周囲に分かるように、わざとらしくため息をついた。それを見て、他の教官達が青筋を立てる。
「チューヤの件に関しては先日お話したと思いますが? ヤツが一人で片付けたのはこの目で見てましたので間違いありません。それに、今日のエイプに関しても、大きな魔力の波動を感じました。あなた方が手放したカールが大出力魔法で片付けたのでしょうね。何しろ私が受け持つのは『脳筋クラス』ですから、他に魔法を使える者はおりませんので」
いつもよりも丁寧な口調で、自信たっぷりに笑みさえ浮かべてそう語る彼女に、エリートクラスの教官達は押し黙ってしまう。
しかし、そこに嫌らしく口元を歪めながら言葉を発する者がいた。
「それが信じられないからこうして集まっているのですよ。彼等だけで討伐したという証拠でも出せるのですか?」
サラサラヘアのイケメン教官、デヴィッドだった。整った端正な顔が、ゆがめた口元の為に酷く下卑た表情になっている事に本人は気付いているのだろうか。
「……つまり、君はアタシが不正をしているとでも言いたいのかい?」
そう返したシンディの目が据わる。
「い、いや、しかし未だかつて訓練課程の生徒が単独で大型の変異種を討伐した記録はない!」
シンディの眼圧に及び腰になるデヴィッドだが、どうしても認められないのか、引こうとはしない。
「……確かに奴らが自力で討伐したという証拠は出せねえけどよ、ならてめえは奴らがやってねえっていう証拠出せンのか? あ?」
もはや怒りから言葉も普段通りに戻り、溢れ出る殺気を隠そうともしない。室内が俄かに緊張感で満たされていく。
「抑えなさい、シンディ君。それなら実際出来るか出来ないか、全員の前でお披露目してはどうかな?」
その緊張感を一気に霧散させたのは学校長の一言。シンディは腹の中で唸る。
(やっぱりこの爺さん、油断ならねえな)
内心そう毒づきながらも、もっと重要な要素を話さない訳にはいかないシンディは、まっすぐ学校長を見据えた。
「チューヤが使った技が纏魔でもですか?」
――!!
直後、教官室が静まり返った。
マリアンヌが逆お姫様抱っこで医務室までチューヤを運び、ベッドに寝かしつけると、カールも隣のベッドに寝ているようシンディに厳命された。そしてマリアンヌは二人の付き添いという名の監視。
「そんな! 無理無理無理ですっ! あの二人が喧嘩になったらボクなんかに止められる訳ないじゃないですか!」
シンディに付き添いを命じられた時、マリアンヌはそう言って食い下がったが、シンディの一言で押し黙った。
「チューヤの寝込みを襲うのは許可すンぜ?」
「ボクに任せてください! しっかり監視しますっ!」
その変わり身の早さに、思わずシンディは爆笑してしまった。クラスの中でも引っ込み思案で目立たなかったマリアンヌも、チューヤと行動を共にする事が多くなった事で、随分と明るくなった。他の生徒達とのコミュニケーションも多くなり、必要最低限の自己主張もするようになってきている。そしてチューヤが彼女を認めている事で、他の生徒達も一目置くようになってきているのだ。
「……まあ、カールもいるんで、控えめにな?」
「……あ!……」
「それと、約束通り、お前ら全員アタシの家で晩飯だ。アタシが戻るまでここで休んどけ」
そう言い残して、シンディは教官室へと去って行った。
教官室。この魔法戦士養成学校の教官達が、授業を受け持たない時にデスクワークを熟すための部屋。それ以外にも教官達のミーティングなどにも使用される。
もっとも、エリートクラスとは違い、脳筋クラスを受け持つのはシンディ一人の為、この教官室を使うのは朝のミーティングと、放課後の雑務の時くらいだ。
その彼女がいつものように今日一日の雑務を処理しようと教官室に入ると、他の教官のみならず、学校長までも勢ぞろいでシンディに視線を集中させてきた。
「……?」
「シンディ君、急なのだがね、教官会議を始める。自分の席に座ってくれたまえ」
怪訝な表情で室内を見回すシンディに、校長が威厳たっぷりの声で着席を促す。
「おほん。では早速、今日の議題についてだが……」
シンディが着席するのを見届けて、校長が議事を進行させた。
「チューヤという生徒と……そして今日のカール君の件だな」
シンディは内心舌打ちをした。どうせ、彼等の実績を素直に認められない教官の誰かが校長に告げ口をしたのだろう。彼女はそう踏んでいた。
「大型変異種のベアをただの剣で倒し、今日は群れで行動するエイプをたった三人で倒した。まだ訓練中の学生に、そんな事は不可能だ!」
「そうだ! シンディ教官、あなたが手助けしたのではないのか!?」
エリートクラスを受け持つ教官達が唾を飛ばしながらがなり立てている様子を見て、周囲に分かるように、わざとらしくため息をついた。それを見て、他の教官達が青筋を立てる。
「チューヤの件に関しては先日お話したと思いますが? ヤツが一人で片付けたのはこの目で見てましたので間違いありません。それに、今日のエイプに関しても、大きな魔力の波動を感じました。あなた方が手放したカールが大出力魔法で片付けたのでしょうね。何しろ私が受け持つのは『脳筋クラス』ですから、他に魔法を使える者はおりませんので」
いつもよりも丁寧な口調で、自信たっぷりに笑みさえ浮かべてそう語る彼女に、エリートクラスの教官達は押し黙ってしまう。
しかし、そこに嫌らしく口元を歪めながら言葉を発する者がいた。
「それが信じられないからこうして集まっているのですよ。彼等だけで討伐したという証拠でも出せるのですか?」
サラサラヘアのイケメン教官、デヴィッドだった。整った端正な顔が、ゆがめた口元の為に酷く下卑た表情になっている事に本人は気付いているのだろうか。
「……つまり、君はアタシが不正をしているとでも言いたいのかい?」
そう返したシンディの目が据わる。
「い、いや、しかし未だかつて訓練課程の生徒が単独で大型の変異種を討伐した記録はない!」
シンディの眼圧に及び腰になるデヴィッドだが、どうしても認められないのか、引こうとはしない。
「……確かに奴らが自力で討伐したという証拠は出せねえけどよ、ならてめえは奴らがやってねえっていう証拠出せンのか? あ?」
もはや怒りから言葉も普段通りに戻り、溢れ出る殺気を隠そうともしない。室内が俄かに緊張感で満たされていく。
「抑えなさい、シンディ君。それなら実際出来るか出来ないか、全員の前でお披露目してはどうかな?」
その緊張感を一気に霧散させたのは学校長の一言。シンディは腹の中で唸る。
(やっぱりこの爺さん、油断ならねえな)
内心そう毒づきながらも、もっと重要な要素を話さない訳にはいかないシンディは、まっすぐ学校長を見据えた。
「チューヤが使った技が纏魔でもですか?」
――!!
直後、教官室が静まり返った。
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