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一章 魔法戦士養成学校編

魔法の威力

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「てめえの為に時間は稼いでやったぜ? 叩いた大口に見合うモン見せてくれよ?」

 展開が終わったカールの魔法陣を見て、チューヤがそう挑発した。魔法陣は濃い青色に発光しており、先程放ったアイス・ニードルの魔法よりも高威力の魔法を構築したであろう事が見てとれた。

(くっ……悔しいがヤツの言う通りか。私が魔法を構築している間、この二人は一体も敵を近付ける事がなかった)

 ロドニー教官が言っていたように、この二人はカールの為に身体を張って時間を稼いでくれた。
 しかしそれはカールがそう望んだからでも、命令を下した訳でもなく、チューヤの判断でそうした事は明白だ。マリアンヌのはチューヤの指示に従っただけのようだが。
 つまり、チューヤは魔法戦士が仲間にいた場合の戦術を心得ていて、何の迷いもなくそれを実行したという事だ。
 一方のカールは、そういう魔法を使えない戦士達に負担を掛ける事なく、自分の力で片を付けたい思いがあった。しかし、身体強化無しでは移動すら満足について行く事も出来ず、高威力の魔法を放つ為には時間を稼いでもらわなくてはならない。
 もっとも、移動の際の自分の不甲斐なさ、そしてバーサク・エイプに率いられたバーサク・モンキーの群れを見た際、カールとしても最善策を考えてはいた。
 体調不十分なチューヤと戦闘が不得意なマリアンヌには援護に徹してもらい、自分の魔法で片を付ける。そして、チューヤとマリアンヌは意外な程あっさりとそれに乗って来た。
 自分を試すという狙いもあったかも知れないが、ここでのという明確な目的の為に、敢えて裏方を受け持つことも辞さない。そんなチューヤがカールにはやけに大きく見えた。

(そんな私に今出来る事は、ヤツを確実に倒す事のみ!)

 カールが振りかざしているワンドの先にある魔法陣の青い輝きが、徐々に魔法陣の中央に集中していく。そうしている間にも、配下のバーサク・モンキーを全て倒された事で激昂したバーサク・エイプがカールに迫る。

「フリージング・キャノン!」

 彼が技の名前を叫ぶと、魔法陣の中央から巨大な氷の塊が射出された。それは全長二メートルを超える程の、巨大な氷柱とでも表現したらよいだろうか。先端が鋭く尖った円錐形。勿論、魔法によって生成されたそれは自然界に出来る氷柱とは強度が違う。
 その巨大な氷柱が、文字通り砲弾キャノンとなってバーサク・エイプに向けて飛翔していく。
 ビュウッという風切音を残し、猛スピードでバーサク・エイプに向かうそれは、螺旋状に回転していた。退屈なエリートクラスの実習時間において、貫通力を高めるために試行錯誤した結果、カールが行きついたのが『回転』。
 複雑な魔法術式を構築しなければならない分時間は掛かるが、その分威力は申し分ないはず。そう信じてカールは放った。

「ギギッ!?」

 猛スピードで目前に迫るカールの氷柱フリージング・キャノンに、バーサク・エイプは咄嗟に両腕をクロスしてガードする。長く、太い腕はそれだけで上半身の殆どをカバーできる程だ。

「フ……」

 カールはそれを見て薄ら笑いを浮かべた。しかしその表情とは裏腹に、額には玉のように汗が浮かび、美麗な銀髪が張り付いている。さらに下半身は自らの身体を支えるのを諦めたかのように膝を付いた。

「ゴバァッ!?」

 果たして、カールの放った魔法はクロスガードした両腕ごと、バーサク・エイプの身体を貫いていた。
 バーサク・エイプは信じられないといった目で自らの身体に空いた風穴を見る。ついで、怨嗟の籠った視線をカールに向けた。そして口から盛大に吐血して大地に倒れ伏す。

「カール君、立てる?」

 バーサク・エイプが倒れた事を確認し、膝を付いたカールを気遣ったマリアンヌが近付いて声を掛けた。

「あ、ああ……少し休めば大丈夫だろう」

 高威力にして複雑な魔法術式の技を放ったせいで、カールは酷く消耗していた。ついにその場にへたり込んでしまう。
 その時だ。

「バカヤロウ! きっちりトドメ刺すまで油断するんじゃねぇぇぇぇっ!」

 猛烈な勢いでチューヤがダッシュする。叫ばれたカールとマリアンヌが何事かと目を見開くが、そこには先程倒したはずの、胸に風穴を開けたバーサク・エイプが最後の力を振り絞り、せめて一人は道連れにしようとばかりに高く跳躍していた。
 跳躍さえしてしまえば、あとはその巨体で圧し潰すだけ。動く事の出来ないカールと、咄嗟の事に反応できていないマリアンヌを見下ろしながらバーサク・エイプは笑みを浮かべたように顔を歪ませた。

「ちっくしょうがぁっ!」

 チューヤは必死にバーサク・エイプの落下地点へと足から飛び込んだ。そこにはカールとマリアンヌがいる。カールは殆ど力尽きている状態だし、マリアンヌはそもそも身体を強化するのが得意ではない。
 二人を圧し潰す寸前のバーサク・エイプに、チューヤは飛び込んだ勢いそのままに飛び蹴りを食らわせた。
 限界を超えた身体強化を果たしたチューヤは、そのまま受け身も取れずに地面に落ちて転がり、蹴り飛ばされたバーサク・エイプは五メートル程も吹っ飛ばされた。
 バーサク・エイプは恨みの籠った視線をチューヤに向けると、そのまま絶命した。

「チューヤ!」

 一方、地面を転がったまま動かないチューヤにマリアンヌが駆け寄る。元々万全ではなかったチューヤが限界を超えて無理をした。自分のせいだ。ちゃんと確認もせずに油断した自分が悪い。涙を浮かべながらチューヤを抱き起こす。

「ぐっ、また貴様はそうやって!」

 カールも動かぬ身体にムチ打って立ち上がろうとするが、悔し気な表情で四つん這いになるのが精いっぱいだった。
 
▼△▼

 教官のシンディは例によって水晶玉が映し出す映像を見ていた。フィールドに散っていった各チームの状況をしっかりと確認している。 

「!? まーたアイツら、厄介なモン見つけたんじゃねえだろうな!」

 水晶が見せてくれる映像には、ひたすら一直線に進むチューヤ達の姿があった。迷いなく進むその姿に、シンディは一抹の不安を覚える、何しろあのチームにはマリアンヌがいる。バケモノ染みた索敵能力を持つ彼女なら、またとんでもない大物を探し出してしまった可能性がある。
 流石に今回は、チューヤが体調不良の上丸腰、カールも初の実戦訓練という事で、無難な相手を探してやるものだと思っていたが、シンディは自分の見通しの甘さに激しく後悔する。
 あの連中がそんな可愛いタマな訳がなかった。

「くっそ、今度は何を見つけやがったんだよォ!」

 言い知れぬ不安がよぎる。シンディはチューヤ達がいるエリアへと急行した。
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