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一章 魔法戦士養成学校編
マリアンヌの悲劇
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「あー、突然なんだが、今日からお前らに仲間が増える。まあ、友達になるかどうかは分からねえがな。それでも仲間は仲間だ」
授業の前の朝礼にて、教室に全揃っているのを確認したシンディがいきなりそんな事を言い始めたものだから、脳筋クラスの全員が騒めきだした。チューヤだけは興味なさげに窓の外を眺めていたが。
「ねえチューヤ、こんな時期に編入生だって! 気にならないの?」
ゲームの時以来、チューヤの隣にいる事が多いマリアンヌが話しかける。
「んあー? 別にぃ。それより俺ぁ教官の扱きで身体ガタガタなんだよ」
その言葉を聞いたマリアンヌが硬直した。
「え? あのシンディ教官が扱き? 嘘だよね? そしてチューヤの身体がガタガタって……どんな訓練なのさ!」
そんなマリアンヌの反応も仕方ないかと、チューヤは苦笑してしまう。シンディの師匠っぷりも鬼畜だが、学校内でもずば抜けて頑丈な自分の身体がガタガタになるほど追い込んでくる。そんな教官の姿は想像できないだろうなと。
「基礎体力向上、筋肉や骨を鍛える訓練。地味だけどキッツイやつばっかりだな」
「えええ~……」
編入生になど興味がないチューヤと話しているうちに、マリアンヌも編入生の事などすっかり忘れていたが、シンディの『そんじゃ、入って挨拶しな』と言われて教壇の方を向く。
そしてあまりに意外な人物が入室してきた事に固まってしまった。
「カールだ。今日からよろしく頼む」
銀髪を後ろで束ねた氷の男。この学校の生徒であれば、例えクラスが違っても誰もが知っている。水氷系の魔法が得意で、次席入学者。エリートクラスの中では珍しく脳筋クラスを見下す事をしない為、それほどこのクラスの評判は悪くはない。
……あくまでもチューヤと絡まなければだが。
さすがに脳筋クラスの面々も、まさかエリートクラスの中でもとびっきりのエリートがこの場所にいる事に戸惑いを隠せない。
「じゃあ、カール。お前の席はあそこの空いてるトコな。もっとも、ここのクラスじゃ座学なんて殆どやンねえけどな!」
はっはっはと笑いながらカールの席を指示したシンディだが、その場所はある意味最悪とも言えた。
つかつかと席に向かって歩いていくカールの視界に中に、興味がなさそうに窓の外を眺めている緋色の髪の男が目に入る。
「チューヤ」
「ん? なんだてめえ、何やらかしたんだ?」
「そんな事はどうでもいい。貴様に聞きたい事がある」
チューヤとカールの接触。それはいつも大喧嘩に発展するフラグだ。そのフラグをへし折る役目のスージィは別のクラス。室内に緊張が走る。教官であるシンディはと言えば、ニタニタと成り行きを見守っているだけだ。
「……ったく、てめえはいつもそうだ。モノの訊ね方ってのを分かっちゃいねえ」
「あ、あの……」
「む、それは悪かったな。貴様に払う敬意というものが分からなくてな」
「え、えっと……?」
「あン? 編入初日から喧嘩売ってんのかてめえ?」
「ちょっと! ボクの頭越しにプレッシャーぶつけ合うのやめてくれないかな!?」
先程から自分の頭の上でやり取りされている濃密な殺気に耐えかねた、マリアンヌが涙目になって叫んだ。そしてそっとチューヤに耳打ちをする。
「お願いチューヤ、堪えて? じゃないとボク、殺気に当てられてまた漏らしちゃうよ……」
「……ちっ。分かったよ」
チューヤも、カールが相手だとかなり本気の殺気を放出している自覚はある。確かにマリアンヌにはかなり辛い状況だろう。
何しろマリアンヌは、チューヤとカールの間に挟まれる格好になってしまったのだから。
「ははは! 早速仲良くなったみたいで何よりだな、おい! じゃあ、今日から座席のコレで固定でいくかんな!」
「「は!?」」
「ふえぇ~」
シンディがとびっきりのいい笑顔で爆弾と投下した直後、チューヤ、マリアンヌ、カールの三人が一斉に立ち上がった。そしてマリアンヌはすでに涙でぐしゃぐしゃになっていた。
▼△▼
「よーし、今日はこのエリアで実戦を想定した変異種討伐をやンぞ。そうだな、前にやったチーム戦でいくか。チーム分けは前と一緒だ。カールはチューヤのトコに入れてもらえ」
そんなシンディの一声に、生徒達からはブーイングの嵐が巻き起こった。前回、チューヤとマリアンヌは一人少ないというハンデをものともせずに一位を取ってしまった。そこへ更に次席のカールが加わるのだから、他のチームに勝ち目はないように思えた。
だが、シンディの見立てでは、今回チューヤのチームはかなり苦戦するだろうと見ている。
(何しろヤツは今特訓で身体がボロボロだからな。それに剣もないし丸腰だ。さらにこのクラスの中に入れば、いかにカールが優秀だと言ってもただの異物になる可能性もある。何にせよ、面白くはなりそうだがな)
内心そうほくそ笑むシンディは、武器がなく丸腰のチューヤがどう行動するか楽しみで仕方がない。たった数日の特訓で爆発的な効果が見込める訳もなく、ましてや丸腰ならば纏魔に頼らざるを得ないだろう。しかし、それは師匠命令として禁じている。さて、どう出るか。
「チューヤ、大丈夫なの?」
「ん? ああ、まあどうにかなんだろ?」
いつものペースのチューヤだが、事情を知っているマリアンヌは心配で仕方がない。何しろチューヤがピンチに陥った時、戦闘力に乏しい自分が役に立てるとは思えないのだ。
そうなると、カールに頼らざるを得ない訳だが。
「おいマリ。ヤツに余計な事ぁ言うんじゃねえぞ」
「え? でも……」
「ちょっと武器が無くて身体が動かねえくれえでハンデになるかよ」
(そういうのは普通凄いハンデなんだよっ!)
内心毒づくマリアンヌを余所に、チューヤはいかにも重そうな身体を動かしながら狩場へと歩いて行った。
授業の前の朝礼にて、教室に全揃っているのを確認したシンディがいきなりそんな事を言い始めたものだから、脳筋クラスの全員が騒めきだした。チューヤだけは興味なさげに窓の外を眺めていたが。
「ねえチューヤ、こんな時期に編入生だって! 気にならないの?」
ゲームの時以来、チューヤの隣にいる事が多いマリアンヌが話しかける。
「んあー? 別にぃ。それより俺ぁ教官の扱きで身体ガタガタなんだよ」
その言葉を聞いたマリアンヌが硬直した。
「え? あのシンディ教官が扱き? 嘘だよね? そしてチューヤの身体がガタガタって……どんな訓練なのさ!」
そんなマリアンヌの反応も仕方ないかと、チューヤは苦笑してしまう。シンディの師匠っぷりも鬼畜だが、学校内でもずば抜けて頑丈な自分の身体がガタガタになるほど追い込んでくる。そんな教官の姿は想像できないだろうなと。
「基礎体力向上、筋肉や骨を鍛える訓練。地味だけどキッツイやつばっかりだな」
「えええ~……」
編入生になど興味がないチューヤと話しているうちに、マリアンヌも編入生の事などすっかり忘れていたが、シンディの『そんじゃ、入って挨拶しな』と言われて教壇の方を向く。
そしてあまりに意外な人物が入室してきた事に固まってしまった。
「カールだ。今日からよろしく頼む」
銀髪を後ろで束ねた氷の男。この学校の生徒であれば、例えクラスが違っても誰もが知っている。水氷系の魔法が得意で、次席入学者。エリートクラスの中では珍しく脳筋クラスを見下す事をしない為、それほどこのクラスの評判は悪くはない。
……あくまでもチューヤと絡まなければだが。
さすがに脳筋クラスの面々も、まさかエリートクラスの中でもとびっきりのエリートがこの場所にいる事に戸惑いを隠せない。
「じゃあ、カール。お前の席はあそこの空いてるトコな。もっとも、ここのクラスじゃ座学なんて殆どやンねえけどな!」
はっはっはと笑いながらカールの席を指示したシンディだが、その場所はある意味最悪とも言えた。
つかつかと席に向かって歩いていくカールの視界に中に、興味がなさそうに窓の外を眺めている緋色の髪の男が目に入る。
「チューヤ」
「ん? なんだてめえ、何やらかしたんだ?」
「そんな事はどうでもいい。貴様に聞きたい事がある」
チューヤとカールの接触。それはいつも大喧嘩に発展するフラグだ。そのフラグをへし折る役目のスージィは別のクラス。室内に緊張が走る。教官であるシンディはと言えば、ニタニタと成り行きを見守っているだけだ。
「……ったく、てめえはいつもそうだ。モノの訊ね方ってのを分かっちゃいねえ」
「あ、あの……」
「む、それは悪かったな。貴様に払う敬意というものが分からなくてな」
「え、えっと……?」
「あン? 編入初日から喧嘩売ってんのかてめえ?」
「ちょっと! ボクの頭越しにプレッシャーぶつけ合うのやめてくれないかな!?」
先程から自分の頭の上でやり取りされている濃密な殺気に耐えかねた、マリアンヌが涙目になって叫んだ。そしてそっとチューヤに耳打ちをする。
「お願いチューヤ、堪えて? じゃないとボク、殺気に当てられてまた漏らしちゃうよ……」
「……ちっ。分かったよ」
チューヤも、カールが相手だとかなり本気の殺気を放出している自覚はある。確かにマリアンヌにはかなり辛い状況だろう。
何しろマリアンヌは、チューヤとカールの間に挟まれる格好になってしまったのだから。
「ははは! 早速仲良くなったみたいで何よりだな、おい! じゃあ、今日から座席のコレで固定でいくかんな!」
「「は!?」」
「ふえぇ~」
シンディがとびっきりのいい笑顔で爆弾と投下した直後、チューヤ、マリアンヌ、カールの三人が一斉に立ち上がった。そしてマリアンヌはすでに涙でぐしゃぐしゃになっていた。
▼△▼
「よーし、今日はこのエリアで実戦を想定した変異種討伐をやンぞ。そうだな、前にやったチーム戦でいくか。チーム分けは前と一緒だ。カールはチューヤのトコに入れてもらえ」
そんなシンディの一声に、生徒達からはブーイングの嵐が巻き起こった。前回、チューヤとマリアンヌは一人少ないというハンデをものともせずに一位を取ってしまった。そこへ更に次席のカールが加わるのだから、他のチームに勝ち目はないように思えた。
だが、シンディの見立てでは、今回チューヤのチームはかなり苦戦するだろうと見ている。
(何しろヤツは今特訓で身体がボロボロだからな。それに剣もないし丸腰だ。さらにこのクラスの中に入れば、いかにカールが優秀だと言ってもただの異物になる可能性もある。何にせよ、面白くはなりそうだがな)
内心そうほくそ笑むシンディは、武器がなく丸腰のチューヤがどう行動するか楽しみで仕方がない。たった数日の特訓で爆発的な効果が見込める訳もなく、ましてや丸腰ならば纏魔に頼らざるを得ないだろう。しかし、それは師匠命令として禁じている。さて、どう出るか。
「チューヤ、大丈夫なの?」
「ん? ああ、まあどうにかなんだろ?」
いつものペースのチューヤだが、事情を知っているマリアンヌは心配で仕方がない。何しろチューヤがピンチに陥った時、戦闘力に乏しい自分が役に立てるとは思えないのだ。
そうなると、カールに頼らざるを得ない訳だが。
「おいマリ。ヤツに余計な事ぁ言うんじゃねえぞ」
「え? でも……」
「ちょっと武器が無くて身体が動かねえくれえでハンデになるかよ」
(そういうのは普通凄いハンデなんだよっ!)
内心毒づくマリアンヌを余所に、チューヤはいかにも重そうな身体を動かしながら狩場へと歩いて行った。
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