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一章 魔法戦士養成学校編

こうすりゃいいのか?

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(ま、これが出来てるなら俺は今頃エリートクラスにいるって話だよな)

 強烈なバーサク・ベアの攻撃を大きく躱しながら、どうにも上手く行かない魔力による剣の強化について思考に耽る。その間も油断はしないし動きが鈍る事も破綻する事もない。

「あいつもあれだけ座学で集中力発揮してりゃ、今頃魔法バンバン撃てたんじゃないのかねえ?」
「あははは……ボクもそう思いました」

 樹上ではシンディとマリアンヌが、あり得ない程の集中力でバーサク・ベアの攻撃を躱しまくるチューヤを呆れ半分で見ていた。
 一方チューヤは、振るわれるバーサク・ベアの攻撃をダッキングで躱し、すかさずバックステップで距離を取りながら試行錯誤する。

(流す魔力の量の問題じゃねえのか? それじゃあやっぱり、俺達は自分の身体しか強化出来ねえって事か)

 さらに追撃の振り下ろしの攻撃を横っ飛びで避けながら、ポーズだけは剣をバーサク・ベアに向けて威嚇する。

(ん? 身体しか? それならこれはどうだ?)

 深い深い光の届かない湖底で藻掻くチューヤに、一筋の光が差し込んだ。そう表現するのが適当だろうか。ヒントを掴んだチューヤの口が弧を描く。

「ん? アイツ、何か掴んだみたいだねぇ」

 一方、樹上のシンディは、チューヤの魔力の流れが微妙に変化している事を感じ取っていた。

「え?」
「まあ、お前もその目の力を鍛えれば、見えるようになるかもしれないねぇ」

 シンディの呟きに不思議そうに目を向けたマリアンヌだが、さらに分からない事を言われて目を丸くする。

「目を、ですか……」

 聞きたい事はあるが、今はチューヤの戦いを見届けよう。マリアンヌは再びチューヤに目を向けた。

「……笑ってる」
「ああ、ここからは瞬きしないでしっかり見ときな!」

 そんな樹上の二人の視線の先で、チューヤはふっと身体の力を抜いた。脱力したというよりはリラックスしたといった方が良いだろうか。とにかく緊張していた様子が消え去った。
 そして、バーサク・ベアに向けて真っ直ぐ剣を向ける。

「教官。何か、チューヤの剣が……」
「ん? お前には何か見えるのか?」

 樹上のシンディには、は特に変わったようには見えない。ただ、剣に魔力が動いている事は感じられた。そして、どうやらマリアンヌには視覚的に変化している様子が見て取れているらしい。

「はい。チューヤの剣が……薄っすらと赤い光を纏っているような……」

(へえ……コイツのは魔力を可視化出来るのか。大した才能だな。いい持ちになれそうだ)

 そんな樹上のやり取りなど知る由もなく、チューヤは不敵に笑いながらバーサク・ベアに向かいじりじりと詰め寄っていく。また、それに気圧されるようにバーサク・ベアの方も詰められた分だけ後ずさり、間合いを保とうとする。

「へへっ、どうした? 俺が怖えか? そうだな、この剣はさっきよりかなり硬くなってるぜ?」

 チューヤの言葉を理解出来ているのではないのだろうが、バーサク・ベアは全身の体毛を逆立てて威嚇し始めた。自分の右腕を斬り落とした剣とその使い手が、何か得体の知れないパワーアップを果たした事が分かるのか。バーサク・ベアにとって、今のチューヤは自分の命を脅かす危険な相手と認識されていた。

「グルルゥ……」
「へへ、お前だって今まで大勢の人間を喰らってきたんだろ? お互い様ってやつだ」

 唸るバーサク・ベアに向かってそう一言声をかけると、チューヤはグッと腰を落として、下半身にパワーを溜め込んだ。そしてそのまま大地を窪ませる程のパワーを解放し、低い体勢のままバーサク・ベアに突っ込んで行く。

「うおりゃぁぁぁーーっ!」

 バーサク・ベアも迎え撃とうと左腕を振り下ろすが、その直前でチューヤが左側へ横っ飛び。標的を見失ったバーサク・ベアの左腕は強かに地面を叩きつけ、めり込んでしまう。自分の右側へ逃げたチューヤに追撃を掛けようにも、肝心の右腕はもう存在していない。

「ウガァァァッ!」

 もはや為す術もない状態の自分に迫りくる凶刃に、せめてもの抵抗とばかりに咆哮をあげるバーサク・ベア。
 チューヤは剣を構えた状態から跳躍し、バーサク・ベアの首を刈らんと剣を一閃した。

「どおおりゃああああ!」

 熱血を地でいくような雄叫びと共に振るわれた白刃は、然したる抵抗も感じさせずにバーサク・ベアの首を刈り取った。
 ズシィンという地響きを立てながら崩れ落ちるバーサク・ベアの巨体を背後に、チューヤは自らの剣を見る。

「ちっ……」

 その視線の先で、刃がボロボロと崩れ落ちていく。特に業物でも高級という訳でもない、ありきたりの普通の両刃の直剣。しかし剣には愛着があった。少々の刃毀れ程度なら修復も出来ようが、刃が崩れ落ちてしまっては、それも難しいだろう。寂しい気持ちがチューヤの中に沸き起こる。

「おう、よくやったな、チューヤ。普通は学生が一人で倒せるような相手じゃねえんだがなぁ」

 樹上から飛び降りたシンディが、崩れ落ちたチューヤの剣にチラリと目をやりながらチューヤを労った。

「俺にしてみりゃ、愛剣が逝っちまった方が大問題っすよ。この先の、素手でやらなきゃいけねえし」

 そう、この実習は変異種を倒してポイントを稼ぐゲーム形式だ。確かに大物を倒しはしたが、この先ポイントの上乗せは難しいだろう。

「ちょっとその剣見せてみろ」

 そう言われてチューヤはシンディに剣を差し出す。

(……何の変哲もねえ、普通の鋼の剣か。コイツがやったのは恐らく魔法剣の一種だろうが、あれは特殊な製法で作られた魔剣じゃねえと出来ねえんだがなぁ)

 一頻り剣を眺めたあと、チューヤに剣を返すと、悪戯っぽい笑みを浮かべてシンディは言った。

「まあ、欲張って大物に手を出したお前の自業自得だな! せいぜい時間いっぱいまで頑張るんだな。チームはお前一人じゃねえ。ああ、詳しい話は後で聞くからよ!」

 それだけ言うと、シンディはその場を立ち去った。
 そしてチューヤは思い出す。樹上に置き去りにされ、半泣きになっているマリアンヌの事を。
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