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一章 魔法戦士養成学校編
何とかするしかねえだろ? 死にたくなかったらよ!
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――ぶらーん
右腕を蔓に結ばれたまま、枝からぶら下がっているマリアンヌに、バーサク・ベアの注意が集中する。
「おい、マリ!」
「はっ!? いやぁ! きゃあああああ!」
どうにも不味い状況になってしまったマリアンヌに声を掛けると、どうにか彼女は意識を取り戻した。左腕を振り上げて、自分に向かってジャンプしているバーサク・ベアの姿が目に入る。
下から襲われている事で、本能的に上に逃げようとするマリアンヌは、蔓を掴んで樹上へとよじ登った。もう必死である。
そしてどうにか枝の上まで登りきり、涙目でガクブルしているマリアンヌを見て安堵したチューヤは、バーサク・ベアのヘイトを取るべく大きめの石を掴み、バーサク・ベアの顔面目掛けて全力で投げつけた。
「こっち向けよクマ公!」
鋼鉄製の剣が歪み、刃が欠けてしまうほど硬質な体毛と筋肉、そして骨を持つこのバーサク・ベア。
身体強化したとは言え、たたの投石程度でどうになるとも思えなかったが、注意をマリアンヌから自分に向ける事が出来ればいい。そんな気持ちでチューヤは石を投げつけた。
ブン! と剛腕が唸り、ゴオッ! と空気を切り裂く音を立てながら、石はバーサク・ベアの顔面目掛けて一瞬のうちに到達する。
不意に放たれた石を右手で払いのけようとした時、その右手が無い事に気付いたバーサク・ベアは、顔面に直撃を食らった。
「ゴアッ!?」
「へっ、ねえ腕を使おうとするとか、間抜け野郎が!」
(とは言ったものの……身体強化の技術を剣にも応用してみっか?)
壊れかけの剣が一振り。そして一撃で仕留めなければ逆襲されるであろう苦しい状況。チューヤは必死で頭を回転させる。
長引かせれば他の生徒達も集まってくるかも知れない。自分はともかく、このバーサク・ベアは一般の生徒には荷が勝ちすぎる。それならば、と思いついたのが自ら魔力で剣を強化できないだろうかという事。
「やってみるか!」
自身の身体に魔力を循環させる要領で、手にした剣にも魔力を通そうとするチューヤだが、どうにも上手くいかない。
魔力による身体強化も、魔法発動と同じようにイメージ力が肝心だ。だが、人体の仕組みを学べば心臓をポンプとして血液が全身を巡るのは理解できるだろう。その血液の循環を魔力に置き換えてイメージすれば良いのである。
故に、脳筋クラスと呼ばれるこのクラスの生徒も、殆どが問題なく身体強化出来る。その先の個人差は、純粋な身体の頑丈さ、タフさ。そして鍛えられた素の状態での身体能力に左右される。簡単に言えば、運動が苦手な人間は身体強化しても効果が薄い。
だが、そこは後天的に改善出来る部分でもあるので、シンディ教官はこの脳筋クラスの連中にもしっかりと鍛錬させている。
「くっそ、難しいぜっ……と!」
しかし、チューヤがやろうとしているのは、血の通わない無機質の剣が相手である。土や水、風や火など、自然界にあるものに魔力を干渉させて魔法を行使するエリートクラスの連中なら可能かもしれないが、それが出来ないからチューヤはこの脳筋クラスにいるのだ。
剣に魔力を循環させる。そんな未知の領域に悪戦苦闘しているチューヤに向かい、怒り心頭のバーサク・ベアが攻撃を仕掛ける。前傾姿勢を取り、巨大な後ろ脚のバネを生かして一気に間合いを詰めて来る敵に、チューヤは大きく回避する選択をした。
「紙一重で避けてもまだ反撃出来る状況じゃねえからな。少しでも間合いを稼いで……っと!」
▼△▼
チューヤがバーサク・ベアの攻撃を必死に掻い潜りながら、剣を自らの魔力で強化しようと試行錯誤している時、フィールドの状況をモニターしていたシンディが漸く現場に到着した。
「チューヤ! ここは逃げろ! お前ら生徒がどうにか出来る相手では――」
「教官! ちょっと黙って! もう少しで掴めそうなんだからよ!」
シンディからは絶体絶命のピンチに見えたチューヤだが、彼にしてみればそうでもないらしい。初めは気付かなかったが、バーサク・ベアの右腕が斬り落とされている。状況から鑑みるに、それをやったのはチューヤに間違いないだろう。ならば回避に専念しているのも考えあっての事か。
(チューヤは今の所大丈夫か。マリアンヌは……あそこか)
チューヤの状況は一先ず大丈夫と判断したシンディはマリアンヌの気配を探る。そして、大樹の枝の上でガクガク震えながら、それでも心配そうにチューヤを見ているマリアンヌを見つけた。そのまま数回の跳躍を重ねて樹上に飛び、マリアンヌの背中を撫でて安心させようとする。
「大丈夫か?」
「教官……チューヤが! チューヤを助けて!」
「もちろん、危なくなったらそうするさ。けどよ、アイツはなんか考えがあるみたいだぜ?」
「……え?」
シンディは、マリアンヌにもチューヤがピンチな状況だという風にしか見えていなかったかと苦笑を漏らす。
そしてマリアンヌも、シンディの姿を見た事で幾分冷静さを取り戻したのか、目に魔力を集めてチューヤを注視し始める。その後、すぐにパニック状態に逆戻りだ。
「チューヤの剣が! 教官! あれじゃあチューヤが!」
「それをどうにかしようとしているのさ。まあ、見てみようじゃないか。ヤツのやる事が脳筋クラスのお前らの人生を変える事になるかも知れねえからな」
マリアンヌは、どこかチューヤに期待しているかのようなシンディの視線を見て、自分も彼を信じてみようかという気持ちになった。
何より、戦闘では役に立たない自分をチームメイトとして選んでくれた。そして自分の可能性を見出してくれようとした。さらに今、自分に危険が及ばぬよう、強敵の攻撃を一手に引き受けてくれている。
(チューヤ、頑張れっ!)
知らぬうちに握り拳に力が入り、チューヤを見る瞳は熱を帯びていた。
右腕を蔓に結ばれたまま、枝からぶら下がっているマリアンヌに、バーサク・ベアの注意が集中する。
「おい、マリ!」
「はっ!? いやぁ! きゃあああああ!」
どうにも不味い状況になってしまったマリアンヌに声を掛けると、どうにか彼女は意識を取り戻した。左腕を振り上げて、自分に向かってジャンプしているバーサク・ベアの姿が目に入る。
下から襲われている事で、本能的に上に逃げようとするマリアンヌは、蔓を掴んで樹上へとよじ登った。もう必死である。
そしてどうにか枝の上まで登りきり、涙目でガクブルしているマリアンヌを見て安堵したチューヤは、バーサク・ベアのヘイトを取るべく大きめの石を掴み、バーサク・ベアの顔面目掛けて全力で投げつけた。
「こっち向けよクマ公!」
鋼鉄製の剣が歪み、刃が欠けてしまうほど硬質な体毛と筋肉、そして骨を持つこのバーサク・ベア。
身体強化したとは言え、たたの投石程度でどうになるとも思えなかったが、注意をマリアンヌから自分に向ける事が出来ればいい。そんな気持ちでチューヤは石を投げつけた。
ブン! と剛腕が唸り、ゴオッ! と空気を切り裂く音を立てながら、石はバーサク・ベアの顔面目掛けて一瞬のうちに到達する。
不意に放たれた石を右手で払いのけようとした時、その右手が無い事に気付いたバーサク・ベアは、顔面に直撃を食らった。
「ゴアッ!?」
「へっ、ねえ腕を使おうとするとか、間抜け野郎が!」
(とは言ったものの……身体強化の技術を剣にも応用してみっか?)
壊れかけの剣が一振り。そして一撃で仕留めなければ逆襲されるであろう苦しい状況。チューヤは必死で頭を回転させる。
長引かせれば他の生徒達も集まってくるかも知れない。自分はともかく、このバーサク・ベアは一般の生徒には荷が勝ちすぎる。それならば、と思いついたのが自ら魔力で剣を強化できないだろうかという事。
「やってみるか!」
自身の身体に魔力を循環させる要領で、手にした剣にも魔力を通そうとするチューヤだが、どうにも上手くいかない。
魔力による身体強化も、魔法発動と同じようにイメージ力が肝心だ。だが、人体の仕組みを学べば心臓をポンプとして血液が全身を巡るのは理解できるだろう。その血液の循環を魔力に置き換えてイメージすれば良いのである。
故に、脳筋クラスと呼ばれるこのクラスの生徒も、殆どが問題なく身体強化出来る。その先の個人差は、純粋な身体の頑丈さ、タフさ。そして鍛えられた素の状態での身体能力に左右される。簡単に言えば、運動が苦手な人間は身体強化しても効果が薄い。
だが、そこは後天的に改善出来る部分でもあるので、シンディ教官はこの脳筋クラスの連中にもしっかりと鍛錬させている。
「くっそ、難しいぜっ……と!」
しかし、チューヤがやろうとしているのは、血の通わない無機質の剣が相手である。土や水、風や火など、自然界にあるものに魔力を干渉させて魔法を行使するエリートクラスの連中なら可能かもしれないが、それが出来ないからチューヤはこの脳筋クラスにいるのだ。
剣に魔力を循環させる。そんな未知の領域に悪戦苦闘しているチューヤに向かい、怒り心頭のバーサク・ベアが攻撃を仕掛ける。前傾姿勢を取り、巨大な後ろ脚のバネを生かして一気に間合いを詰めて来る敵に、チューヤは大きく回避する選択をした。
「紙一重で避けてもまだ反撃出来る状況じゃねえからな。少しでも間合いを稼いで……っと!」
▼△▼
チューヤがバーサク・ベアの攻撃を必死に掻い潜りながら、剣を自らの魔力で強化しようと試行錯誤している時、フィールドの状況をモニターしていたシンディが漸く現場に到着した。
「チューヤ! ここは逃げろ! お前ら生徒がどうにか出来る相手では――」
「教官! ちょっと黙って! もう少しで掴めそうなんだからよ!」
シンディからは絶体絶命のピンチに見えたチューヤだが、彼にしてみればそうでもないらしい。初めは気付かなかったが、バーサク・ベアの右腕が斬り落とされている。状況から鑑みるに、それをやったのはチューヤに間違いないだろう。ならば回避に専念しているのも考えあっての事か。
(チューヤは今の所大丈夫か。マリアンヌは……あそこか)
チューヤの状況は一先ず大丈夫と判断したシンディはマリアンヌの気配を探る。そして、大樹の枝の上でガクガク震えながら、それでも心配そうにチューヤを見ているマリアンヌを見つけた。そのまま数回の跳躍を重ねて樹上に飛び、マリアンヌの背中を撫でて安心させようとする。
「大丈夫か?」
「教官……チューヤが! チューヤを助けて!」
「もちろん、危なくなったらそうするさ。けどよ、アイツはなんか考えがあるみたいだぜ?」
「……え?」
シンディは、マリアンヌにもチューヤがピンチな状況だという風にしか見えていなかったかと苦笑を漏らす。
そしてマリアンヌも、シンディの姿を見た事で幾分冷静さを取り戻したのか、目に魔力を集めてチューヤを注視し始める。その後、すぐにパニック状態に逆戻りだ。
「チューヤの剣が! 教官! あれじゃあチューヤが!」
「それをどうにかしようとしているのさ。まあ、見てみようじゃないか。ヤツのやる事が脳筋クラスのお前らの人生を変える事になるかも知れねえからな」
マリアンヌは、どこかチューヤに期待しているかのようなシンディの視線を見て、自分も彼を信じてみようかという気持ちになった。
何より、戦闘では役に立たない自分をチームメイトとして選んでくれた。そして自分の可能性を見出してくれようとした。さらに今、自分に危険が及ばぬよう、強敵の攻撃を一手に引き受けてくれている。
(チューヤ、頑張れっ!)
知らぬうちに握り拳に力が入り、チューヤを見る瞳は熱を帯びていた。
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