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卓越した戦術眼
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「うーむ…まだそのような場所におるか…」
山頂にある本陣に赴いたテル、ユキ、ゼマティス。入手した情報については精霊王の本体と分身体のホットラインを通じて間接的にだがカズトと情報交換を行っている事を告げると割合あっさりと納得するインテグラーレだった。『まあ、カズト殿だからな。』の一言で済むのを聞いたゼマティスは今までカズトという男は何をやらかしてきたのか非常に興味が湧いたものだ。
「そなたらはどう見る?」
『そなたら』などと複数形で呼びかけているインテグラーレだが視線は一点、テルに固定されている。また、それを弁えてゼマティスもユキも口を挟むような真似はせずにこの場をテルに一任したように見えた。
「行軍速度を調整しているのは内部に問題でも抱えていない限りはタイミングを計る為でしょう。」
「こちらを攻撃するにも時を見計らっておると言う事か?」
「俺はそれ以外にはちょっと理由が思いつきませんが…ユキはどうだい?」
「テルの言う通りと思う。もっとハッキリと言えば援軍待ちでは無いだろうか?私はこの世界に事情には疎い故にどこからと問われても答えられぬが。」
「援軍か…」
ユキの言葉を聞きインテグラーレと家臣たちは考えこんでしまう。思い当たるのはバンドー皇国。しかし可能性は低い様に思えた。いくらカムリ陣営を裏から糸を引き操っていたとは言え今までは小競り合い程度で大規模な軍事衝突は起こしていない。もしも援軍など出してしまえばカムリとの癒着を認めてしまう事になるし、仮にカムリが敗れた場合はもはやオーシューとは全面戦争に突入する可能性が高い。しかもオーシューとエツリアが同盟を結んだ事はバンドーとて掴んでいるはずだ。
わからない。メリットが無い。公爵と家臣たちはバンドーが援軍を出すメリットを探し出す事に思考がシフトしてしまっている。
「閣下。あくまでも可能性の話で宜しければ…」
思考が的外れの方向にズレては打ち出す対策も的外れになる。テルは強引に重鎮たちの思考を現実に引き戻した。
「エツリアです。」
つい先日同盟を結んだばかりのエツリアが?何をバカな。ユキ以外の誰もがそう考えた。ゼマティスでさえも。しかしテルの話を聞いた家臣たちの顔色は悪くなり公爵も表情を固くする。
「同盟を結んだからこそです。同盟を結ばれて困るのはバンドーですからね。恐らく黒幕はバンドーでしょう。仮にエツリアが口車に乗ってこちらを攻めれば我々は挟撃されます。この山頂に布陣している俺達がヨネーザの街を防衛するのは不可能でしょうね。」
さらに、と付け加えるテルが発する言葉にさらに真実味が増す。いや、それこそが事実だろうと誰もが思った程説得力のある仮説。
「エツリアが我々の背後を攻めればセリカ陛下に退路は有りません。同盟締結に関しては陛下にかなりやり込められたらしいですからね、エツリア王は。ここでセリカ陛下を討ち取り同盟を白紙に戻してバンドーと共にオーシューに敵対する。それなりにエツリアにもバンドーにもメリットはある話です。」
貴族主義と魔法至上主義、掲げるものは違えどセリカの平民目線の政策を苦々しい思いで見ている者は確実にいる。あり得ない話ではなかった。
「尤も、バンドーがそんな姑息な裏工作をしたとしても空振りに終わる可能性の方が高いと思いますが、一応街の防衛にいくらか戦力を割く事を進言します。」
「ふむ。では3000を街の防衛に差し向けよう。それにしても、陛下が既にここにはいない事は幸いだったな。」
テルの進言をインテグラーレが受け入れ、側近に指示を出そうとしたその時、軍議を交わしていた幕舎の外が騒がしくなる。
「何事か!軍議中であるぞ!」
インテグラーレが外に向かって一喝すると衛兵から意外な、いやある意味タイムリーな答えが返って来る。
「はっ!申し訳ありません閣下!エツリアの使者と名乗る男が参っております!」
「なんだと!?すぐ通せ!」
衛兵に伴われ使者が幕舎に入ってくる。不休で来たのだろうか。相当に疲れているように見える。しかし使者は気力を振り絞り口上を述べた。
「閣下。お目通りが叶い感謝致します。エツリア王国サーブ国王の使者として王の書状を携えて参りました。どうぞこれを。」
使者が恭しく差し出した書状を受け取り読み進めるインテグラーレ。
「うむ。大儀であった。サーブ陛下へ書状を認める故少し休んでおれ。」
「は!閣下。これは私個人の願いなのですが!」
「申してみよ。」
「は!女王陛下は我がエツリアに正しい道筋を示して下さいました。エツリアの民はみな女王陛下に感謝しております。何卒、女王陛下の事をお願いしたく…」
「ふ。言われるまでもない。そなたの言葉、しかと陛下に伝えおく。喜ばれるであろうな。」
「は!それでは失礼致します。!」
使者が幕舎を退出するとインテグラーレはサーブ王からの書状を家臣たちに回し読ませる。読み終えた家臣たちは一様に感嘆したようにテルを見つめた。
「テル。そなたには脱帽だ。」
書状はテルの仮説と一言一句違えぬ内容で、バンドーから援軍を請われたエツリアはそれを拒否、バンドーとの国境に防衛線を張るとの内容だった。また、ウフロンが狙われている事を伝え注意喚起もしていた。
「ほえ~…」
書状を見たゼマティスは間抜けな声をだして感心していたし、ユキは自分の事のように誇らしげな表情だ。
「これで正面の敵に集中出来ますね。それでは俺達はこれで。」
テルは書状をインテグラーレに返して微笑むと一礼して前線に戻っていく。
(グレッチの言う通り、エツリアは生まれ変わろうとしているんだな。)
カズトが伝えてくれた懐かしい友の言葉が現実になろうとしている事を実感したテルは嬉しくなり、友がいるであろうエツリアの方角の空を見上げた。
山頂にある本陣に赴いたテル、ユキ、ゼマティス。入手した情報については精霊王の本体と分身体のホットラインを通じて間接的にだがカズトと情報交換を行っている事を告げると割合あっさりと納得するインテグラーレだった。『まあ、カズト殿だからな。』の一言で済むのを聞いたゼマティスは今までカズトという男は何をやらかしてきたのか非常に興味が湧いたものだ。
「そなたらはどう見る?」
『そなたら』などと複数形で呼びかけているインテグラーレだが視線は一点、テルに固定されている。また、それを弁えてゼマティスもユキも口を挟むような真似はせずにこの場をテルに一任したように見えた。
「行軍速度を調整しているのは内部に問題でも抱えていない限りはタイミングを計る為でしょう。」
「こちらを攻撃するにも時を見計らっておると言う事か?」
「俺はそれ以外にはちょっと理由が思いつきませんが…ユキはどうだい?」
「テルの言う通りと思う。もっとハッキリと言えば援軍待ちでは無いだろうか?私はこの世界に事情には疎い故にどこからと問われても答えられぬが。」
「援軍か…」
ユキの言葉を聞きインテグラーレと家臣たちは考えこんでしまう。思い当たるのはバンドー皇国。しかし可能性は低い様に思えた。いくらカムリ陣営を裏から糸を引き操っていたとは言え今までは小競り合い程度で大規模な軍事衝突は起こしていない。もしも援軍など出してしまえばカムリとの癒着を認めてしまう事になるし、仮にカムリが敗れた場合はもはやオーシューとは全面戦争に突入する可能性が高い。しかもオーシューとエツリアが同盟を結んだ事はバンドーとて掴んでいるはずだ。
わからない。メリットが無い。公爵と家臣たちはバンドーが援軍を出すメリットを探し出す事に思考がシフトしてしまっている。
「閣下。あくまでも可能性の話で宜しければ…」
思考が的外れの方向にズレては打ち出す対策も的外れになる。テルは強引に重鎮たちの思考を現実に引き戻した。
「エツリアです。」
つい先日同盟を結んだばかりのエツリアが?何をバカな。ユキ以外の誰もがそう考えた。ゼマティスでさえも。しかしテルの話を聞いた家臣たちの顔色は悪くなり公爵も表情を固くする。
「同盟を結んだからこそです。同盟を結ばれて困るのはバンドーですからね。恐らく黒幕はバンドーでしょう。仮にエツリアが口車に乗ってこちらを攻めれば我々は挟撃されます。この山頂に布陣している俺達がヨネーザの街を防衛するのは不可能でしょうね。」
さらに、と付け加えるテルが発する言葉にさらに真実味が増す。いや、それこそが事実だろうと誰もが思った程説得力のある仮説。
「エツリアが我々の背後を攻めればセリカ陛下に退路は有りません。同盟締結に関しては陛下にかなりやり込められたらしいですからね、エツリア王は。ここでセリカ陛下を討ち取り同盟を白紙に戻してバンドーと共にオーシューに敵対する。それなりにエツリアにもバンドーにもメリットはある話です。」
貴族主義と魔法至上主義、掲げるものは違えどセリカの平民目線の政策を苦々しい思いで見ている者は確実にいる。あり得ない話ではなかった。
「尤も、バンドーがそんな姑息な裏工作をしたとしても空振りに終わる可能性の方が高いと思いますが、一応街の防衛にいくらか戦力を割く事を進言します。」
「ふむ。では3000を街の防衛に差し向けよう。それにしても、陛下が既にここにはいない事は幸いだったな。」
テルの進言をインテグラーレが受け入れ、側近に指示を出そうとしたその時、軍議を交わしていた幕舎の外が騒がしくなる。
「何事か!軍議中であるぞ!」
インテグラーレが外に向かって一喝すると衛兵から意外な、いやある意味タイムリーな答えが返って来る。
「はっ!申し訳ありません閣下!エツリアの使者と名乗る男が参っております!」
「なんだと!?すぐ通せ!」
衛兵に伴われ使者が幕舎に入ってくる。不休で来たのだろうか。相当に疲れているように見える。しかし使者は気力を振り絞り口上を述べた。
「閣下。お目通りが叶い感謝致します。エツリア王国サーブ国王の使者として王の書状を携えて参りました。どうぞこれを。」
使者が恭しく差し出した書状を受け取り読み進めるインテグラーレ。
「うむ。大儀であった。サーブ陛下へ書状を認める故少し休んでおれ。」
「は!閣下。これは私個人の願いなのですが!」
「申してみよ。」
「は!女王陛下は我がエツリアに正しい道筋を示して下さいました。エツリアの民はみな女王陛下に感謝しております。何卒、女王陛下の事をお願いしたく…」
「ふ。言われるまでもない。そなたの言葉、しかと陛下に伝えおく。喜ばれるであろうな。」
「は!それでは失礼致します。!」
使者が幕舎を退出するとインテグラーレはサーブ王からの書状を家臣たちに回し読ませる。読み終えた家臣たちは一様に感嘆したようにテルを見つめた。
「テル。そなたには脱帽だ。」
書状はテルの仮説と一言一句違えぬ内容で、バンドーから援軍を請われたエツリアはそれを拒否、バンドーとの国境に防衛線を張るとの内容だった。また、ウフロンが狙われている事を伝え注意喚起もしていた。
「ほえ~…」
書状を見たゼマティスは間抜けな声をだして感心していたし、ユキは自分の事のように誇らしげな表情だ。
「これで正面の敵に集中出来ますね。それでは俺達はこれで。」
テルは書状をインテグラーレに返して微笑むと一礼して前線に戻っていく。
(グレッチの言う通り、エツリアは生まれ変わろうとしているんだな。)
カズトが伝えてくれた懐かしい友の言葉が現実になろうとしている事を実感したテルは嬉しくなり、友がいるであろうエツリアの方角の空を見上げた。
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