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(魔物を間引く理由か…)
領境の山中で魔物を間引く。そんな依頼内容。この場所でやらなければならない理由があるはずなのだ。
(魔物がいて困るのは人間だ。…と言う事はこの場所に人間がいるって事か? いや、木こりや猟師の類が足を踏み入れる事はあってもここで暮らすというのは…)
シモンズは必死に頭を働かせているテルをみてほくそ笑む。
(戦闘になりゃお前に任せときゃ問題ねえだろうが、敵に出くわす前から始まってる戦いもあるって事だ。)
ふと、テルの口元に笑みが浮かぶ。
(あ、なるほど。近々この近辺に人が入る予定があるとすれば。)
「ここに布陣するか、あるいは戦場になるか。そういう事か。」
戦場に於いて魔物が居るとどうなるか。敵兵と魔物。双方を相手にしなければならない。もちろん敵にとってもそれは同様だが。魔物に関して言えば『敵の敵は味方』という理屈は通用せず、味方からも敵からも、魔物は等しく敵である。計算出来ない動きをする魔物を放置するよりは魔物のいない戦場で戦う方が作戦も立てやすいだろう。
「ご名答。」
テルの辿り着いた答えにシモンズは満足気に頷く。馬車の中で2人の会話を聞いていたシャーベルも感心していた。
(へえ…まだ若いのに大したモンだね。)
「これはまだ公にはされてないんだがな。どうやらセリカ陛下が同盟を結ぶ為にエツリアへ向かうらしい。」
シモンズが今回の依頼が発布された経緯を語り始める。しかし、テルには大体のあらすじが読めてしまった。
「あー、なるほど。陛下の退路を断つためにカムリ公がこっちに攻めて来るかも知れないって事か。」
「そういう事だ。もし戦になったらこの山頂を取るか取らないかで戦局は決まっちまうだろうな。だからこそ、魔物に気を遣うような状況は避けなきゃならん。それにしても、陛下はちょっと迂闊じゃねえのかなぁ。こんな情勢で国外に行くなんてよ。」
テルの考えはシモンズとは違っていた。戦局の話ではなく、セリカの動向についてだ。
「シモンズさん。陛下はワザとだと思うよ。カムリ公の軍を釣り出す為に敢えてエツリアに行ったのかも知れない。おっと!魔物だ。話はあとでな!」
前方に巨大なカマキリのような魔物がいる。グレートマンティス。テル達を見つけて立ち上がって威嚇している。立ち上がると2メートルを超える巨大さだ。
「流石にカマキリもあれだけデカいと不気味なものだな。」
心底イヤそうにユキが呟く。
「ま、やらなきゃやられる。さっさと片付けてしまおう。ムスタングはここで待っててくれ。」
テルとユキはムスタングから降りて剣を抜く。モーリス入魂の新しい剣。ユキの新たな忍刀とテルの片刃の長剣。
「それじゃあいくか!」
「うむ!」
2人は何の駆け引きも無く真正面からグレートマンティスに向かって疾走する。グレートマンティスの方は鋭いカマを振りかぶり迎撃態勢は整っている。
「お手並み拝見ね。」
「ああ。俺も奴らの戦闘は殆ど見ていないからな。」
馬車ではシモンズ達が完全に観戦モードに入っている。
自分の間合いに入った。そう認識したグレートマンティスは2人に自慢のカマを振り下ろす。その鋭さはレザーアーマーなど紙切れ同然、強力な個体になると鉄をも切り裂くという。それに対して2人が取った行動は。
「え?ちょっとちょっと!」
「そんなデタラメな…」
馬車で観戦していたシモンズとシャーベルは驚きとも呆れともつかない表情で成り行きを見守っていた。
2人はカマを斬った。
振り下ろされたカマを避けるでもなく。打ち合うでもなく。受け止めるのでもなく。受け流すでもなく。
そう、自分達に振り下ろされるカマを『斬りに行った』のである。
「マンティスのカマが大根か何かみたいにスッパリ斬れたな。大した剣だ。」
「全くだな。以前の忍刀がナマクラに思えるよ。」
戦闘中だが2人は余裕だ。なにせグレートマンティスは『武器』を破壊され戦意を喪失している。じりじりと後退しながら逃げるスキを伺っているようだ。
「とどめを刺すか。」
ユキがグレートマンティスに斬りかかると羽を広げて逃げ出そうとする。しかしそれは叶わなかった。
「せいっ!」
グレートマンティスの頭上に突然現れたテルが重力に任せて体ごと長剣を振り下ろすとグレートマンティスの首が落下する。同時にユキの忍刀がグレートマンティスの胴体を両断した。
「テル、良かったのか?【能力】を使ったようだが。」
「ああ、俺が能力を使ったらどんな反応を示すのか、早い内に把握しといた方がいいと思ってさ。」
暫く呆気に取られていたシモンズとシャーベルが馬車を降り2人の元へ歩み寄る。
「…おい、テル。今の…」
「今のは【瞬間移動】。俺のユニークスキルの一つさ。どうだ?気持ち悪いか?」
ユキにはテルの表情がやや寂し気に見えた。きっと、己の力を明かす事に対する恐れ。それと必死に戦っているのだろう。ユキがテルの手を握るとテルの手は震えていた。
(ありったけの勇気を振り絞って立ち向かっているのだな…)
「なるほど。お前のその力が明るみに出れば囲おうとする連中は多いだろうな。けどまあ、お前はこの街の為に戦うって決意したんならお前を売るような真似はしねえよ。」
「そうさ。そんなに怖がらなくてもいいよ。ウチのコレの秘密に比べたら全然大した事ないからさ。」
「おい!コレってなんだ!いや、そんな恥ずかしい秘密なんて俺には心当たりは…いや?あれ?」
シモンズとシャーベルが始めた夫婦漫才にテルは表情を弛緩させる。しかしギャアギャア騒ぎ立てる2人の声に周囲の魔物が反応してしまい、大乱戦となるのであった。
領境の山中で魔物を間引く。そんな依頼内容。この場所でやらなければならない理由があるはずなのだ。
(魔物がいて困るのは人間だ。…と言う事はこの場所に人間がいるって事か? いや、木こりや猟師の類が足を踏み入れる事はあってもここで暮らすというのは…)
シモンズは必死に頭を働かせているテルをみてほくそ笑む。
(戦闘になりゃお前に任せときゃ問題ねえだろうが、敵に出くわす前から始まってる戦いもあるって事だ。)
ふと、テルの口元に笑みが浮かぶ。
(あ、なるほど。近々この近辺に人が入る予定があるとすれば。)
「ここに布陣するか、あるいは戦場になるか。そういう事か。」
戦場に於いて魔物が居るとどうなるか。敵兵と魔物。双方を相手にしなければならない。もちろん敵にとってもそれは同様だが。魔物に関して言えば『敵の敵は味方』という理屈は通用せず、味方からも敵からも、魔物は等しく敵である。計算出来ない動きをする魔物を放置するよりは魔物のいない戦場で戦う方が作戦も立てやすいだろう。
「ご名答。」
テルの辿り着いた答えにシモンズは満足気に頷く。馬車の中で2人の会話を聞いていたシャーベルも感心していた。
(へえ…まだ若いのに大したモンだね。)
「これはまだ公にはされてないんだがな。どうやらセリカ陛下が同盟を結ぶ為にエツリアへ向かうらしい。」
シモンズが今回の依頼が発布された経緯を語り始める。しかし、テルには大体のあらすじが読めてしまった。
「あー、なるほど。陛下の退路を断つためにカムリ公がこっちに攻めて来るかも知れないって事か。」
「そういう事だ。もし戦になったらこの山頂を取るか取らないかで戦局は決まっちまうだろうな。だからこそ、魔物に気を遣うような状況は避けなきゃならん。それにしても、陛下はちょっと迂闊じゃねえのかなぁ。こんな情勢で国外に行くなんてよ。」
テルの考えはシモンズとは違っていた。戦局の話ではなく、セリカの動向についてだ。
「シモンズさん。陛下はワザとだと思うよ。カムリ公の軍を釣り出す為に敢えてエツリアに行ったのかも知れない。おっと!魔物だ。話はあとでな!」
前方に巨大なカマキリのような魔物がいる。グレートマンティス。テル達を見つけて立ち上がって威嚇している。立ち上がると2メートルを超える巨大さだ。
「流石にカマキリもあれだけデカいと不気味なものだな。」
心底イヤそうにユキが呟く。
「ま、やらなきゃやられる。さっさと片付けてしまおう。ムスタングはここで待っててくれ。」
テルとユキはムスタングから降りて剣を抜く。モーリス入魂の新しい剣。ユキの新たな忍刀とテルの片刃の長剣。
「それじゃあいくか!」
「うむ!」
2人は何の駆け引きも無く真正面からグレートマンティスに向かって疾走する。グレートマンティスの方は鋭いカマを振りかぶり迎撃態勢は整っている。
「お手並み拝見ね。」
「ああ。俺も奴らの戦闘は殆ど見ていないからな。」
馬車ではシモンズ達が完全に観戦モードに入っている。
自分の間合いに入った。そう認識したグレートマンティスは2人に自慢のカマを振り下ろす。その鋭さはレザーアーマーなど紙切れ同然、強力な個体になると鉄をも切り裂くという。それに対して2人が取った行動は。
「え?ちょっとちょっと!」
「そんなデタラメな…」
馬車で観戦していたシモンズとシャーベルは驚きとも呆れともつかない表情で成り行きを見守っていた。
2人はカマを斬った。
振り下ろされたカマを避けるでもなく。打ち合うでもなく。受け止めるのでもなく。受け流すでもなく。
そう、自分達に振り下ろされるカマを『斬りに行った』のである。
「マンティスのカマが大根か何かみたいにスッパリ斬れたな。大した剣だ。」
「全くだな。以前の忍刀がナマクラに思えるよ。」
戦闘中だが2人は余裕だ。なにせグレートマンティスは『武器』を破壊され戦意を喪失している。じりじりと後退しながら逃げるスキを伺っているようだ。
「とどめを刺すか。」
ユキがグレートマンティスに斬りかかると羽を広げて逃げ出そうとする。しかしそれは叶わなかった。
「せいっ!」
グレートマンティスの頭上に突然現れたテルが重力に任せて体ごと長剣を振り下ろすとグレートマンティスの首が落下する。同時にユキの忍刀がグレートマンティスの胴体を両断した。
「テル、良かったのか?【能力】を使ったようだが。」
「ああ、俺が能力を使ったらどんな反応を示すのか、早い内に把握しといた方がいいと思ってさ。」
暫く呆気に取られていたシモンズとシャーベルが馬車を降り2人の元へ歩み寄る。
「…おい、テル。今の…」
「今のは【瞬間移動】。俺のユニークスキルの一つさ。どうだ?気持ち悪いか?」
ユキにはテルの表情がやや寂し気に見えた。きっと、己の力を明かす事に対する恐れ。それと必死に戦っているのだろう。ユキがテルの手を握るとテルの手は震えていた。
(ありったけの勇気を振り絞って立ち向かっているのだな…)
「なるほど。お前のその力が明るみに出れば囲おうとする連中は多いだろうな。けどまあ、お前はこの街の為に戦うって決意したんならお前を売るような真似はしねえよ。」
「そうさ。そんなに怖がらなくてもいいよ。ウチのコレの秘密に比べたら全然大した事ないからさ。」
「おい!コレってなんだ!いや、そんな恥ずかしい秘密なんて俺には心当たりは…いや?あれ?」
シモンズとシャーベルが始めた夫婦漫才にテルは表情を弛緩させる。しかしギャアギャア騒ぎ立てる2人の声に周囲の魔物が反応してしまい、大乱戦となるのであった。
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