27 / 60
仲間
しおりを挟む
ゴブリン討伐とテルとユキのAランク昇格祝いも兼ねた宴は討伐隊参加メンバー以外の宿の宿泊客も入り混じって大盛り上がりだった。
「へえ、あんた達がAランクになったのか。まだ若いのに大したモンだな!」
「私達商人が安全に旅が出来るように頑張って下さいね!」
などと見ず知らずの人が声を掛けてくれる。宴の喧騒からやや離れて1人カウンターで休んでいたテルだったが、そのテルを挟むように2人の人物が席を取る。ゼマティスと受付嬢さんだ。
「テルさん、どうですか?この街の冒険者の皆さんは。」
「ええ…なんだかみんな、温かいと言うか…思ったより居心地がいいと言うか…」
受付嬢さんのどこかふわっとした質問にやや戸惑うが正直な気持ちをテルは答える。
「一般市民ってのはこんなモンさ。まあ中にはどうしたってソリの合わねえヤツや陰険なヤツもいるがな。それでも殺し合いになる事は殆どねえ。今までお前さんがいた世界の方が歪すぎたのさ。」
ゼマティスにそう言われてテルは日本で暮らした15年間、こちらに転生してからの10年間を思い出す。日本時代の両親は別としても学校へ行ったり友達と遊んだりした記憶は楽しいものが浮かんで来る。こちらの世界での事も10歳のあの日が来るまでは両親に愛され、学校では友人にも恵まれてやはり楽しい日々だった。しかしそんな記憶を全て上書きされてしまう程にここに至るまでの人生は過酷だった。
望んでもいないのに人を殺す術を叩き込まれ、望んでもいないのに戦場に放り出され、望んでもいないのに自分が生き残る為に人を殺す。いつしかそれが当たり前になり、人を殺す事に疑問を抱かなくなっていた。
10歳にして家族から突き放され、生き延びるには自分が強くなるしかなかった。小さな手で剣を握り、自分より大きな魔物に立ち向かった。死にかけた事も何度もあった。自分以外は全て『敵』だった。
「テルさん。この度私が正式にテルさんとユキさんの担当となりました。よろしくお願いしますね?ローランドって言うんですよ?テルさん、私の名前知らなかったでしょう?」
そう言いながら悪戯っぽく笑みを浮かべる受付嬢さんことローランド。
「う…あの。なんかすみません…」
「いいんですよ。でもちゃんと憶えて下さいね?他の冒険者の皆さんの事も。」
「そうですよね。うん…。ローランドさん、こちらこそよろしくお願いします!」
「それでだな、ローランドをお前さん達の担当に据えたのには訳がある。」
いつになく真剣な表情をしたゼマティス。冒険者に担当の受付嬢を付けるなど聞いた事がない。その訳というのに興味がわいたテル。
「いくら実力があるにしてもお前さん達には冒険者としての経験が圧倒的に足りてねえ。本来Aランクってのはそれなりの経験を積んだヤツが昇り詰めるもんだ。お前さん達は特例中の特例だからな。ローランドをアドバイザーにしようって訳さ。」
足りないのは経験。戦場での立ち回りなら十分に経験を積んでいるが冒険者ならではの知識というものが足りていない。ゼマティスはそう言っている。ならばこの場にいる冒険者達はキャリアだけなら全員テルの先輩である。それならば。
「みんな!聞いてくれ!」
テルは声を張り上げる。突然の事に皆の視線が集中する。
「ええと…今日俺とユキはAランクに昇格させてもらった。だけど俺はこれまでずっとソロでやって来たからみんなの事をよく知らない。でもAランクとして恥ずかしくないようにするにはみんなからいろいろ学ぶ必要があると思うんだ。だからみんなの事をよく知りたい!みんなの事を教えてくれないか? 俺はテル!傷面じゃなくてテルだ!宜しくお願い致します!」
テルは腰を90度に折り曲げ自分の本気を示す。いつの間にかテルの隣にユキが立っておりユキも同じように頭を下げる。
「テル。ユキ。俺はさっきまで執務室で一緒だったから顔は見覚え有るだろ?Bランクのシモンズだ。一応、お前らが昇格するまではこの街じゃトップランカーだったんだ。分からねえ事があったらドンと来い。」
シモンズの自己紹介を皮切りに次々と自己紹介が始まる。ちなみにユキのシモンズに対する印象は深い。お菓子をくれたいい人その2である。その1はもちろんゼマティスだ。
テルとユキが街のみんなに溶け込んでいく。この光景を見ていたスタインとストラトは目を細める。心を閉ざしていたテルの事情を知るこの2人とっては感無量だった。
そして賑やかだった宴も終わり、皆それぞれに帰路についた。
「じゃあな、テルにユキちゃん!明日からまた頑張ろうぜ!」
「テル、ユキ、たまには一緒に依頼うけようぜ!それじゃあな!」
その場にいた全員がテルをテルと呼ぶようになっていた。当たり前の事がテルにとっては嬉しく感じられた。本当の意味で受け入れられた気がして。
「へえ、あんた達がAランクになったのか。まだ若いのに大したモンだな!」
「私達商人が安全に旅が出来るように頑張って下さいね!」
などと見ず知らずの人が声を掛けてくれる。宴の喧騒からやや離れて1人カウンターで休んでいたテルだったが、そのテルを挟むように2人の人物が席を取る。ゼマティスと受付嬢さんだ。
「テルさん、どうですか?この街の冒険者の皆さんは。」
「ええ…なんだかみんな、温かいと言うか…思ったより居心地がいいと言うか…」
受付嬢さんのどこかふわっとした質問にやや戸惑うが正直な気持ちをテルは答える。
「一般市民ってのはこんなモンさ。まあ中にはどうしたってソリの合わねえヤツや陰険なヤツもいるがな。それでも殺し合いになる事は殆どねえ。今までお前さんがいた世界の方が歪すぎたのさ。」
ゼマティスにそう言われてテルは日本で暮らした15年間、こちらに転生してからの10年間を思い出す。日本時代の両親は別としても学校へ行ったり友達と遊んだりした記憶は楽しいものが浮かんで来る。こちらの世界での事も10歳のあの日が来るまでは両親に愛され、学校では友人にも恵まれてやはり楽しい日々だった。しかしそんな記憶を全て上書きされてしまう程にここに至るまでの人生は過酷だった。
望んでもいないのに人を殺す術を叩き込まれ、望んでもいないのに戦場に放り出され、望んでもいないのに自分が生き残る為に人を殺す。いつしかそれが当たり前になり、人を殺す事に疑問を抱かなくなっていた。
10歳にして家族から突き放され、生き延びるには自分が強くなるしかなかった。小さな手で剣を握り、自分より大きな魔物に立ち向かった。死にかけた事も何度もあった。自分以外は全て『敵』だった。
「テルさん。この度私が正式にテルさんとユキさんの担当となりました。よろしくお願いしますね?ローランドって言うんですよ?テルさん、私の名前知らなかったでしょう?」
そう言いながら悪戯っぽく笑みを浮かべる受付嬢さんことローランド。
「う…あの。なんかすみません…」
「いいんですよ。でもちゃんと憶えて下さいね?他の冒険者の皆さんの事も。」
「そうですよね。うん…。ローランドさん、こちらこそよろしくお願いします!」
「それでだな、ローランドをお前さん達の担当に据えたのには訳がある。」
いつになく真剣な表情をしたゼマティス。冒険者に担当の受付嬢を付けるなど聞いた事がない。その訳というのに興味がわいたテル。
「いくら実力があるにしてもお前さん達には冒険者としての経験が圧倒的に足りてねえ。本来Aランクってのはそれなりの経験を積んだヤツが昇り詰めるもんだ。お前さん達は特例中の特例だからな。ローランドをアドバイザーにしようって訳さ。」
足りないのは経験。戦場での立ち回りなら十分に経験を積んでいるが冒険者ならではの知識というものが足りていない。ゼマティスはそう言っている。ならばこの場にいる冒険者達はキャリアだけなら全員テルの先輩である。それならば。
「みんな!聞いてくれ!」
テルは声を張り上げる。突然の事に皆の視線が集中する。
「ええと…今日俺とユキはAランクに昇格させてもらった。だけど俺はこれまでずっとソロでやって来たからみんなの事をよく知らない。でもAランクとして恥ずかしくないようにするにはみんなからいろいろ学ぶ必要があると思うんだ。だからみんなの事をよく知りたい!みんなの事を教えてくれないか? 俺はテル!傷面じゃなくてテルだ!宜しくお願い致します!」
テルは腰を90度に折り曲げ自分の本気を示す。いつの間にかテルの隣にユキが立っておりユキも同じように頭を下げる。
「テル。ユキ。俺はさっきまで執務室で一緒だったから顔は見覚え有るだろ?Bランクのシモンズだ。一応、お前らが昇格するまではこの街じゃトップランカーだったんだ。分からねえ事があったらドンと来い。」
シモンズの自己紹介を皮切りに次々と自己紹介が始まる。ちなみにユキのシモンズに対する印象は深い。お菓子をくれたいい人その2である。その1はもちろんゼマティスだ。
テルとユキが街のみんなに溶け込んでいく。この光景を見ていたスタインとストラトは目を細める。心を閉ざしていたテルの事情を知るこの2人とっては感無量だった。
そして賑やかだった宴も終わり、皆それぞれに帰路についた。
「じゃあな、テルにユキちゃん!明日からまた頑張ろうぜ!」
「テル、ユキ、たまには一緒に依頼うけようぜ!それじゃあな!」
その場にいた全員がテルをテルと呼ぶようになっていた。当たり前の事がテルにとっては嬉しく感じられた。本当の意味で受け入れられた気がして。
0
お気に入りに追加
1,078
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
マスターズ・リーグ ~傭兵王シリルの剣~
ふりたけ(振木岳人)
ファンタジー
「……あの子を、シリルの事を頼めるか? ……」
騎士王ボードワンが天使の凶刃に倒れた際、彼は実の息子である王子たちの行く末を案じたのではなく、その後の人類に憂いて、精霊王に「いわくつきの子」を託した。
その名はシリル、名前だけで苗字の無い子。そして騎士王が密かに育てようとしていた子。再び天使が地上人絶滅を目的に攻めて来た際に、彼が生きとし生ける者全ての希望の光となるようにと。
この物語は、剣技にも魔術にもまるで秀でていない「どん底シリル」が、栄光の剣を持って地上に光を与える英雄物語である。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
ダンジョン発生から20年。いきなり玄関の前でゴブリンに遭遇してフリーズ中←今ココ
高遠まもる
ファンタジー
カクヨム、なろうにも掲載中。
タイトルまんまの状況から始まる現代ファンタジーです。
ダンジョンが有る状況に慣れてしまった現代社会にある日、異変が……。
本編完結済み。
外伝、後日譚はカクヨムに載せていく予定です。
TRACKER
セラム
ファンタジー
2590年代後半から2600年代初頭にかけてサイクス(超常現象を引き起こすエネルギー)を持つ超能力者が出現した。 生まれつき膨大な量のサイクスを持つ主人公・月島瑞希を中心として心理戦・策略を張り巡らせつつ繰り広げられる超能力バトル/推理小説
絶対婚約いたしません。させられました。案の定、婚約破棄されました
toyjoy11
ファンタジー
婚約破棄ものではあるのだけど、どちらかと言うと反乱もの。
残酷シーンが多く含まれます。
誰も高位貴族が婚約者になりたがらない第一王子と婚約者になったミルフィーユ・レモナンド侯爵令嬢。
両親に
「絶対アレと婚約しません。もしも、させるんでしたら、私は、クーデターを起こしてやります。」
と宣言した彼女は有言実行をするのだった。
一応、転生者ではあるものの元10歳児。チートはありません。
4/5 21時完結予定。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
半分異世界
月野槐樹
ファンタジー
関東圏で学生が行方不明になる事件が次々にしていた。それは異世界召還によるものだった。
ネットでも「神隠しか」「異世界召還か」と噂が飛び交うのを見て、異世界に思いを馳せる少年、圭。
いつか異世界に行った時の為にとせっせと準備をして「異世界ガイドノート」なるものまで作成していた圭。従兄弟の瑛太はそんな圭の様子をちょっと心配しながらも充実した学生生活を送っていた。
そんなある日、ついに異世界の扉が彼らの前に開かれた。
「異世界ガイドノート」と一緒に旅する異世界
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
世界最強の剣聖~追放された俺は、幼馴染みと共に英雄になる~
ユズキ
ファンタジー
有名パーティー【光輝ある剣】の雑用担当であるシスンは、自分の真の実力を知らないリーダーたちによって不遇な扱いを受けていた。
そんな折、リーダーに呼び出されたシスンは、貢献度不足という名目でパーティーからの追放を宣告される。
生活に困って祖父の住む故郷に帰ってきたが、そこは野盗に襲われていた。
野盗を撃退するため、幼馴染みの美少女アーシェと共に、シスンは本来の実力を発揮する。それは元剣聖の祖父から鍛えられた超絶剣技だった。
シスンは真の実力を遺憾なく発揮して、野盗の撃退に成功する。
これはシスンがアーシェと共に旅立ち、英雄の階段を駆け上がる物語。
魔力値1の私が大賢者(仮)を目指すまで
ひーにゃん
ファンタジー
誰もが魔力をもち魔法が使える世界で、アンナリーナはその力を持たず皆に厭われていた。
運命の【ギフト授与式】がやってきて、これでまともな暮らしが出来るかと思ったのだが……
与えられたギフトは【ギフト】というよくわからないもの。
だが、そのとき思い出した前世の記憶で【ギフト】の使い方を閃いて。
これは少し歪んだ考え方の持ち主、アンナリーナの一風変わった仲間たちとの日常のお話。
冒険を始めるに至って、第1章はアンナリーナのこれからを書くのに外せません。
よろしくお願いします。
この作品は小説家になろう様にも掲載しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
その国が滅びたのは
志位斗 茂家波
ファンタジー
3年前、ある事件が起こるその時まで、その国は栄えていた。
だがしかし、その事件以降あっという間に落ちぶれたが、一体どういうことなのだろうか?
それは、考え無しの婚約破棄によるものであったそうだ。
息抜き用婚約破棄物。全6話+オマケの予定。
作者の「帰らずの森のある騒動記」という連載作品に乗っている兄妹が登場。というか、これをそっちの乗せたほうが良いんじゃないかと思い中。
誤字脱字があるかもしれません。ないように頑張ってますが、御指摘や改良点があれば受け付けます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる