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査定

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 多数のゴブリンと3体のオーガ。これらの死骸の処理とオーガからは素材の剥ぎ取り。角や骨などは高い硬度がある為いろいろと使い道があるらしい。テルは後でモーリスの工房に頼んで何か作って貰おうかと考えていた。

 テルもユキもオーガとの戦闘でそれなり消耗した為戦場の後処理は他のみんなに任せている。もう少しすればギルドからの応援も来る筈だ。

 「な、なんだこりゃ!?ゴブリン討伐じゃなかったのかよ!?」

 「おいおい、オーガの死体が3つだぁ?なんでお前ら全員生きてんだよ?」

 ギルドからの応援部隊が到着したのだがこの現場を見て皆騒然とした。それもそうだろう。30人規模の戦力でオーガ3体を相手にしたら普通は犠牲者が出て当然の難易度だ。しかも今回は上位種を含む100以上のゴブリンの群れを相手にしながらだ。

 「ああ、そのオーガ3体は傷面スカーフェイスとユキ嬢ちゃんがやったんだよ。」

 話を聞いた援軍の冒険者はあんぐりと口を開ける。

 (たった2人でオーガ3体だと?しかもあの2人、見たところ全くの無傷じゃねえか。こいつら、Aランク並みの実力があるって事か?)

 他の冒険者達もゴブリンの上位種と渡り合った者は多少の手傷は負っているが動けない程ではない。異常と言っていい戦果だった。

 ともあれ、幾分回復したテル達も手伝い、作業は急ピッチで進む。

 「よーし!こんなモンでいいだろ。みんな!今日はご苦労だった!撤収して報酬山分けすんぞ!」

 《おおーー!!》

 リーダーの号令で全員が馬車を待たせている場所まで動き出す。ただし逃げたゴブリンがいるかも知れないので警戒は怠らない。

 森を突き抜け街道に出ると漸く冒険者達の緊張が緩む。ガヤガヤと今日の武勇伝を語る者たち。皆一様に明るい表情だ。

 街に入りギルドに到着するとゼマティスと受付嬢さんが出迎えてくれた。リーダーの冒険者はゼマティスと話があるようでギルマスの執務室に行った様だ。

 「査定が済むまでお待ちください。」

 との事なので残ったテル達を含む冒険者はギルド内の酒場で軽く喉を潤している。査定が終了した者から受付に呼ばれて報酬を受け取って行くがテル達の名前はなかなか呼ばれない。オーガの件もあるからそれも仕方ないとはテルもユキも思っていた。しかし事態は2人の予想の斜め上を行く。

 「テルさん、ユキさん、ギルドマスターがお呼びです。執務室までおいで下さいますか?」
 
 オーガの件の詳細を聞きたいのかな?などと軽く考えながら執務室をノックするテル。

 「テルとユキです。入ります。」

 「おう、待ってたぞ。まあこれでも食いながら話そうや。」

 テーブルにはこの間とは違う茶菓子が用意されていた。もうユキの視線は茶菓子に釘付けだ。

 「ユキ。よだれ。」

 「はっ!?」じゅるり。

 「ふっ、ほら、ユキは遠慮しねえで食ってていいぜ?話は傷面スカーフェイスから聞くからよ。」

 ゼマティスの言葉にユキは瞳をキラキラさせて

 「そ、そうか!かたじけない。では頂こう。」

 なぜかソファの上に正座で食べている。日本の習慣はそう簡単には抜けないらしい。

 「あー、それでだな。オーガの話を詳しく聞かせて欲しいんだが。」

 ユキは茶菓子に夢中なのでテルが苦笑しながら対応する。

 「詳しくと言っても大した事は話せませんけどね。奴らの集落に近付いた辺りでゴブリンがわらわら飛び出して来たんです。初めは俺達を発見して迎撃に出て来たかと思ったんですがどうも様子がおかしくて。」

 「ふむ。」

 「何かから逃げているような、そんな感じでした。それで俺とユキは集落の中に様子を見に行ったんですがそこでオーガが3体、ゴブリンを蹂躙していました。」

 「じゃあ中に入ったのはお前ら2人だけって事か。」

 「おそらくそうだと思います。最初の1体をユキが、残り2体を俺が。俺が2体を相手にしている間にユキはゴブリンを駆逐していましたよ。」

 「俺達が外のゴブリン共を片付けて内部に突入した際の状況から見てもこいつの話は間違いないと思うぜ?オーガの死体の状況を見ても1体は焼死。残り2体は物理。確か傷面スカーフェイスは魔法のスキルはねえんだよな?」

 「そうですね。」

 リーダーをやっていた男の補足説明が入る。テルに対して魔法が使えない事を確認する際には蔑みの色はない。ただ事実を確認している。それだけに見えた。

 (この国は本当に、魔法がどうとか関係ないんだな。)

 テルは魔法スキルの有無による差別のないこの国を好ましく感じた。今更になってかよ、とテルは思うが人々からその差別のなさを実感できる程テルは人々に心を開いていなかった。

 「なるほどな。恐らくゴブリン共はそのオーガに縄張りを追われて廃村に住み着いたんだろう。そしてオーガはそこまでゴブリンを追って来たと。そんな所だろうな。」

 なるほど、とテルは真面目に話を聞いているがユキは茶菓子を既に食べ終わり、テルの茶菓子をロックオンしている。その姿が無性に可愛らしく見えたテルは自分の分をユキに手渡す。

 天使のような笑顔で受け取るユキの姿にリーダーもゼマティスも自分の分を分けてやる。

 「うわぁ!すまない!テル、ここの人達はみな親切だな!」

 もうホクホク顔である。この瞬間、ユキのギルドに対しての認識は『お菓子をくれる優しいおじさんがいる所』になった。

 「おほん!あー、それで本題なんだがな。」

 取り繕うようなゼマティスの言葉に意外な顔をするテルだがリーダーの男はうんうんと頷いている。ユキははむはむとお菓子に夢中。

 「実はそこにいるシモンズから推薦があってな。おめでとう!お前さん達は今日からAランク冒険者だ。」

 (これが予想の斜め上を行くってヤツか…)

 テルは我関せずと言った感じで茶菓子を食べているユキにジト目を向けたのだった。 
 
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