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自分の存在価値を認めてくれる存在と出会うという事

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 宿に戻り、なぜかいつもより豪華な夕食を食べ、テルは明日以降の事を考えていた。

 (多分ゴブリン討伐のクエストは発布されるだろう。俺達への指名依頼もほぼ確実だ。どこまで力を隠してやれるか…)

 「テル君、何難しい顔して考えてるのさ?」
 「そうだぞ、テル。眉間に皺が寄っている。ほれ。」

 ユキはテルの眉間をぐりぐりしてくる。ここは確かテルが借りている部屋で、ユキは半分居候、ストラトは宿の娘。ストラトは宿の仕事を終えるとこうしてテルの部屋へ毎晩のように訪れるようになった。そしてユキと楽し気におしゃべりを始めるのだ。

 「いや、ゴブリンの集落の件でちょっとね。」

 「ああ、今日テル君たちが調査してきたトコ?」

 「そうそう、結構大きな群れだったからね。」

 「それって結構ヤバい?」

 それはどうだろう?長期間放置すれば笑えない脅威になるかもしれないが。テルがそこまで考えた所でユキがフォローを入れてくれた。

 「なに、明日にはギルドが手を打ってくれるはずだ。それに私もテルもいる。大丈夫だよ。」

 少し不安そうなストラトに安心させるよう気遣ったユキだったが、それでもストラトの表情は冴えない。

 「2人共、戦いに行っちゃうんだよね?」

 「まあ、それが俺達冒険者の飯のタネだからな。家賃要らないって言うなら行かないけど。」

 《ダンダンダン!!!》

 下の階でデカい音がした。おやっさんが何か仕事をしているのだろうか、とテルは大して気にかけていなかったが。

 「別にあたしはテル君がいてくれれば家賃なんて要らないのにな。」

 ストラトが上目遣いでそんな甘酸っぱい事を言うと。

 《ダンダンダン!!!》

 またおやっさんが何かやってるな、くらいにテルは思う。

 「そうだ、テル君この宿の跡継ぎにならない?もれなくストラトちゃんを好きに出来る権利付き!」

 《ダンダンダン!!!ダダダダン!!!》

 あのおっさんどこかに盗聴器仕掛けてんじゃないだろな?とテルの気持ちは疑惑に塗りつぶされる。

 《うるせーよおっさん!こんな時間に何やってんだよ!》

 おやっさん、他の客に怒られた。

 それでもテルはストラトの気持ちは素直に嬉しかった。前世も含めてこの街に来るまで自分を必要としてくれる者など誰もいなかったのに。ユキもストラトも自分を必要としてくれる。それが嬉しくて不覚にも視界が滲む。

 「あれっ!?テル君!?」

 テルの身の上を知るユキはテルの気持ちが痛い程分かったのだろう。しかしこの街に来るまでの経緯を知らないストラトはテルの涙に狼狽える。

 「ストラト殿、心配いらぬよ。テルは嬉しかったのだ。ストラト殿の気持ちが。だからこうしてやればいいのだ。」

 とストラトにテルの頭を胸に抱くよう促す。

 2人の暖かさにすっかり参ってしまったテルはポツリポツリと話し始めた。

 「ストラトは人が死んだら生まれ変わるって話、信じるかい?」

 ユキに語った内容よりは幾分省略された内容ではあったが親に売られ、戦場で切り捨てられ、生まれ変わってもまた親に殺されかけ。容易く人を信じられなくなっていた事。それをユキが溶かしてくれた事。そして今またストラトにより自分の存在価値を見出した事。

 「うっ…テル君…大丈夫だよ。あたしとユキちゃんがいるからね?」

 ストラトはテルの話を聞き途中からはもう号泣だった。ストラトの知る限り、テル以上に不幸な人間はいないのではないか。自分なら生きる事を諦めていたかも知れない。でもテルはわずか10歳の時から生き抜く為必死で努力してきたのだ。しかも耐え難い孤独に耐え抜いて。

 「その傷もまだ小さい時に魔物と戦って付いたものなんだね。碌な手当もして貰えないから…」

 ストラトはテルの頬の傷跡にそっと触れながら涙を零す。

 《バアアン!!》

 突然扉が開いた。

 「「ひっ!?」」  「なんだ!?」

 「テル!おめえってヤツは! おい、今日からお前はここの家族だ!俺の事は『パパ』って呼んでいいからな?ちくしょう、泣かせやがってこの野郎!」

 そこには涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔をしたスキンヘッドのムキムキ男が居た。

 (おやっさん、やっぱり聞いてやがったか。)

 内心テルは苦笑したが親子そろって情に篤いんだな、と思うと盗聴まがいの事もなんだか追及し辛い。それに。お仕置きなら専任担当がいる。

 「お・と・う・さ・ん?」

 「へっ!?」

 「なぜそんなに泣いているのかしら?もしかして聞き耳立ててたのかしら?」

 「いや、それはだな…」

 「テル君、ごめんね?ホントは一晩中抱きしめてあげたいところだったけど…」
 
 「この馬鹿親父にお仕置きする用事が出来たから!」

 ストラトはスタインを引き摺ってずんずんと部屋を出ていった。

 「テル、今夜は私がテルを暖めよう。」

 そう言ってユキがそっと寄り添ってきた。
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