18 / 60
自分の存在価値を認めてくれる存在と出会うという事
しおりを挟む
宿に戻り、なぜかいつもより豪華な夕食を食べ、テルは明日以降の事を考えていた。
(多分ゴブリン討伐のクエストは発布されるだろう。俺達への指名依頼もほぼ確実だ。どこまで力を隠してやれるか…)
「テル君、何難しい顔して考えてるのさ?」
「そうだぞ、テル。眉間に皺が寄っている。ほれ。」
ユキはテルの眉間をぐりぐりしてくる。ここは確かテルが借りている部屋で、ユキは半分居候、ストラトは宿の娘。ストラトは宿の仕事を終えるとこうしてテルの部屋へ毎晩のように訪れるようになった。そしてユキと楽し気におしゃべりを始めるのだ。
「いや、ゴブリンの集落の件でちょっとね。」
「ああ、今日テル君たちが調査してきたトコ?」
「そうそう、結構大きな群れだったからね。」
「それって結構ヤバい?」
それはどうだろう?長期間放置すれば笑えない脅威になるかもしれないが。テルがそこまで考えた所でユキがフォローを入れてくれた。
「なに、明日にはギルドが手を打ってくれるはずだ。それに私もテルもいる。大丈夫だよ。」
少し不安そうなストラトに安心させるよう気遣ったユキだったが、それでもストラトの表情は冴えない。
「2人共、戦いに行っちゃうんだよね?」
「まあ、それが俺達冒険者の飯のタネだからな。家賃要らないって言うなら行かないけど。」
《ダンダンダン!!!》
下の階でデカい音がした。おやっさんが何か仕事をしているのだろうか、とテルは大して気にかけていなかったが。
「別にあたしはテル君がいてくれれば家賃なんて要らないのにな。」
ストラトが上目遣いでそんな甘酸っぱい事を言うと。
《ダンダンダン!!!》
またおやっさんが何かやってるな、くらいにテルは思う。
「そうだ、テル君この宿の跡継ぎにならない?もれなくストラトちゃんを好きに出来る権利付き!」
《ダンダンダン!!!ダダダダン!!!》
あのおっさんどこかに盗聴器仕掛けてんじゃないだろな?とテルの気持ちは疑惑に塗りつぶされる。
《うるせーよおっさん!こんな時間に何やってんだよ!》
おやっさん、他の客に怒られた。
それでもテルはストラトの気持ちは素直に嬉しかった。前世も含めてこの街に来るまで自分を必要としてくれる者など誰もいなかったのに。ユキもストラトも自分を必要としてくれる。それが嬉しくて不覚にも視界が滲む。
「あれっ!?テル君!?」
テルの身の上を知るユキはテルの気持ちが痛い程分かったのだろう。しかしこの街に来るまでの経緯を知らないストラトはテルの涙に狼狽える。
「ストラト殿、心配いらぬよ。テルは嬉しかったのだ。ストラト殿の気持ちが。だからこうしてやればいいのだ。」
とストラトにテルの頭を胸に抱くよう促す。
2人の暖かさにすっかり参ってしまったテルはポツリポツリと話し始めた。
「ストラトは人が死んだら生まれ変わるって話、信じるかい?」
ユキに語った内容よりは幾分省略された内容ではあったが親に売られ、戦場で切り捨てられ、生まれ変わってもまた親に殺されかけ。容易く人を信じられなくなっていた事。それをユキが溶かしてくれた事。そして今またストラトにより自分の存在価値を見出した事。
「うっ…テル君…大丈夫だよ。あたしとユキちゃんがいるからね?」
ストラトはテルの話を聞き途中からはもう号泣だった。ストラトの知る限り、テル以上に不幸な人間はいないのではないか。自分なら生きる事を諦めていたかも知れない。でもテルはわずか10歳の時から生き抜く為必死で努力してきたのだ。しかも耐え難い孤独に耐え抜いて。
「その傷もまだ小さい時に魔物と戦って付いたものなんだね。碌な手当もして貰えないから…」
ストラトはテルの頬の傷跡にそっと触れながら涙を零す。
《バアアン!!》
突然扉が開いた。
「「ひっ!?」」 「なんだ!?」
「テル!おめえってヤツは! おい、今日からお前はここの家族だ!俺の事は『パパ』って呼んでいいからな?ちくしょう、泣かせやがってこの野郎!」
そこには涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔をしたスキンヘッドのムキムキ男が居た。
(おやっさん、やっぱり聞いてやがったか。)
内心テルは苦笑したが親子そろって情に篤いんだな、と思うと盗聴まがいの事もなんだか追及し辛い。それに。お仕置きなら専任担当がいる。
「お・と・う・さ・ん?」
「へっ!?」
「なぜそんなに泣いているのかしら?もしかして聞き耳立ててたのかしら?」
「いや、それはだな…」
「テル君、ごめんね?ホントは一晩中抱きしめてあげたいところだったけど…」
「この馬鹿親父にお仕置きする用事が出来たから!」
ストラトはスタインを引き摺ってずんずんと部屋を出ていった。
「テル、今夜は私がテルを暖めよう。」
そう言ってユキがそっと寄り添ってきた。
(多分ゴブリン討伐のクエストは発布されるだろう。俺達への指名依頼もほぼ確実だ。どこまで力を隠してやれるか…)
「テル君、何難しい顔して考えてるのさ?」
「そうだぞ、テル。眉間に皺が寄っている。ほれ。」
ユキはテルの眉間をぐりぐりしてくる。ここは確かテルが借りている部屋で、ユキは半分居候、ストラトは宿の娘。ストラトは宿の仕事を終えるとこうしてテルの部屋へ毎晩のように訪れるようになった。そしてユキと楽し気におしゃべりを始めるのだ。
「いや、ゴブリンの集落の件でちょっとね。」
「ああ、今日テル君たちが調査してきたトコ?」
「そうそう、結構大きな群れだったからね。」
「それって結構ヤバい?」
それはどうだろう?長期間放置すれば笑えない脅威になるかもしれないが。テルがそこまで考えた所でユキがフォローを入れてくれた。
「なに、明日にはギルドが手を打ってくれるはずだ。それに私もテルもいる。大丈夫だよ。」
少し不安そうなストラトに安心させるよう気遣ったユキだったが、それでもストラトの表情は冴えない。
「2人共、戦いに行っちゃうんだよね?」
「まあ、それが俺達冒険者の飯のタネだからな。家賃要らないって言うなら行かないけど。」
《ダンダンダン!!!》
下の階でデカい音がした。おやっさんが何か仕事をしているのだろうか、とテルは大して気にかけていなかったが。
「別にあたしはテル君がいてくれれば家賃なんて要らないのにな。」
ストラトが上目遣いでそんな甘酸っぱい事を言うと。
《ダンダンダン!!!》
またおやっさんが何かやってるな、くらいにテルは思う。
「そうだ、テル君この宿の跡継ぎにならない?もれなくストラトちゃんを好きに出来る権利付き!」
《ダンダンダン!!!ダダダダン!!!》
あのおっさんどこかに盗聴器仕掛けてんじゃないだろな?とテルの気持ちは疑惑に塗りつぶされる。
《うるせーよおっさん!こんな時間に何やってんだよ!》
おやっさん、他の客に怒られた。
それでもテルはストラトの気持ちは素直に嬉しかった。前世も含めてこの街に来るまで自分を必要としてくれる者など誰もいなかったのに。ユキもストラトも自分を必要としてくれる。それが嬉しくて不覚にも視界が滲む。
「あれっ!?テル君!?」
テルの身の上を知るユキはテルの気持ちが痛い程分かったのだろう。しかしこの街に来るまでの経緯を知らないストラトはテルの涙に狼狽える。
「ストラト殿、心配いらぬよ。テルは嬉しかったのだ。ストラト殿の気持ちが。だからこうしてやればいいのだ。」
とストラトにテルの頭を胸に抱くよう促す。
2人の暖かさにすっかり参ってしまったテルはポツリポツリと話し始めた。
「ストラトは人が死んだら生まれ変わるって話、信じるかい?」
ユキに語った内容よりは幾分省略された内容ではあったが親に売られ、戦場で切り捨てられ、生まれ変わってもまた親に殺されかけ。容易く人を信じられなくなっていた事。それをユキが溶かしてくれた事。そして今またストラトにより自分の存在価値を見出した事。
「うっ…テル君…大丈夫だよ。あたしとユキちゃんがいるからね?」
ストラトはテルの話を聞き途中からはもう号泣だった。ストラトの知る限り、テル以上に不幸な人間はいないのではないか。自分なら生きる事を諦めていたかも知れない。でもテルはわずか10歳の時から生き抜く為必死で努力してきたのだ。しかも耐え難い孤独に耐え抜いて。
「その傷もまだ小さい時に魔物と戦って付いたものなんだね。碌な手当もして貰えないから…」
ストラトはテルの頬の傷跡にそっと触れながら涙を零す。
《バアアン!!》
突然扉が開いた。
「「ひっ!?」」 「なんだ!?」
「テル!おめえってヤツは! おい、今日からお前はここの家族だ!俺の事は『パパ』って呼んでいいからな?ちくしょう、泣かせやがってこの野郎!」
そこには涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔をしたスキンヘッドのムキムキ男が居た。
(おやっさん、やっぱり聞いてやがったか。)
内心テルは苦笑したが親子そろって情に篤いんだな、と思うと盗聴まがいの事もなんだか追及し辛い。それに。お仕置きなら専任担当がいる。
「お・と・う・さ・ん?」
「へっ!?」
「なぜそんなに泣いているのかしら?もしかして聞き耳立ててたのかしら?」
「いや、それはだな…」
「テル君、ごめんね?ホントは一晩中抱きしめてあげたいところだったけど…」
「この馬鹿親父にお仕置きする用事が出来たから!」
ストラトはスタインを引き摺ってずんずんと部屋を出ていった。
「テル、今夜は私がテルを暖めよう。」
そう言ってユキがそっと寄り添ってきた。
0
お気に入りに追加
1,078
あなたにおすすめの小説
TRACKER
セラム
ファンタジー
2590年代後半から2600年代初頭にかけてサイクス(超常現象を引き起こすエネルギー)を持つ超能力者が出現した。 生まれつき膨大な量のサイクスを持つ主人公・月島瑞希を中心として心理戦・策略を張り巡らせつつ繰り広げられる超能力バトル/推理小説
絶対婚約いたしません。させられました。案の定、婚約破棄されました
toyjoy11
ファンタジー
婚約破棄ものではあるのだけど、どちらかと言うと反乱もの。
残酷シーンが多く含まれます。
誰も高位貴族が婚約者になりたがらない第一王子と婚約者になったミルフィーユ・レモナンド侯爵令嬢。
両親に
「絶対アレと婚約しません。もしも、させるんでしたら、私は、クーデターを起こしてやります。」
と宣言した彼女は有言実行をするのだった。
一応、転生者ではあるものの元10歳児。チートはありません。
4/5 21時完結予定。
半分異世界
月野槐樹
ファンタジー
関東圏で学生が行方不明になる事件が次々にしていた。それは異世界召還によるものだった。
ネットでも「神隠しか」「異世界召還か」と噂が飛び交うのを見て、異世界に思いを馳せる少年、圭。
いつか異世界に行った時の為にとせっせと準備をして「異世界ガイドノート」なるものまで作成していた圭。従兄弟の瑛太はそんな圭の様子をちょっと心配しながらも充実した学生生活を送っていた。
そんなある日、ついに異世界の扉が彼らの前に開かれた。
「異世界ガイドノート」と一緒に旅する異世界
世界最強の剣聖~追放された俺は、幼馴染みと共に英雄になる~
ユズキ
ファンタジー
有名パーティー【光輝ある剣】の雑用担当であるシスンは、自分の真の実力を知らないリーダーたちによって不遇な扱いを受けていた。
そんな折、リーダーに呼び出されたシスンは、貢献度不足という名目でパーティーからの追放を宣告される。
生活に困って祖父の住む故郷に帰ってきたが、そこは野盗に襲われていた。
野盗を撃退するため、幼馴染みの美少女アーシェと共に、シスンは本来の実力を発揮する。それは元剣聖の祖父から鍛えられた超絶剣技だった。
シスンは真の実力を遺憾なく発揮して、野盗の撃退に成功する。
これはシスンがアーシェと共に旅立ち、英雄の階段を駆け上がる物語。
魔力値1の私が大賢者(仮)を目指すまで
ひーにゃん
ファンタジー
誰もが魔力をもち魔法が使える世界で、アンナリーナはその力を持たず皆に厭われていた。
運命の【ギフト授与式】がやってきて、これでまともな暮らしが出来るかと思ったのだが……
与えられたギフトは【ギフト】というよくわからないもの。
だが、そのとき思い出した前世の記憶で【ギフト】の使い方を閃いて。
これは少し歪んだ考え方の持ち主、アンナリーナの一風変わった仲間たちとの日常のお話。
冒険を始めるに至って、第1章はアンナリーナのこれからを書くのに外せません。
よろしくお願いします。
この作品は小説家になろう様にも掲載しています。
【完結】悪役令嬢に転生した私はヒロインに求婚されましたが、ヒロインは実は男で、私を溺愛する変態の勇者っぽい人でした。
DAKUNちょめ
ファンタジー
乙女ゲームにありがちな断罪の場にて悪役令嬢であるディアーナは、前世の自分が日本人女子高生である事を思い出した。
目の前には婚約者と、婚約者を奪った美しい少女…
に、悪役令嬢のディアーナが求婚される。
この世界において、唯一の神に通じる力を持つ青年と、彼を変態と呼び共に旅をする事になった令嬢ディアーナ、そして巻き込まれた上に保護者のような立ち位置になった元婚約者の王子。
そんなお話し。
【虐殺姫】としての異名を持つ悪役令嬢は、いつの間にか魔王になっていた!
naturalsoft
ファンタジー
執筆中の小説の息抜きに書きました。短編で完結させる【予定】です。
不定期更新の為、他の小説の合間に読んで頂けたらと思います。
主人公は拳で語り合う脳筋で、魔物や盗賊を血祭りにすることから【虐殺姫】(マーダープリンセス)の2つ名があった。
ありがちな婚約破棄の話から追放されて、新たな領地で成り上がる。
そんなお話しです。
多分………
お題小説
ルカ(聖夜月ルカ)
ファンタジー
ある時、瀕死の状態で助けられた青年は、自分にまつわる記憶の一切を失っていた…
やがて、青年は自分を助けてくれたどこか理由ありの女性と旅に出る事に…
行く先々で出会う様々な人々や奇妙な出来事… 波瀾に満ちた長編ファンタジーです。
※表紙画は水無月秋穂様に描いていただきました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる